創作の極み、100のエピソードを生み出す「システムとしての主人公」とは?

soreyuke_logo10こくぼしんじです。
前回の講義は……えーと……はてなブックマークのトップに掲載されたおかげで、大人気というか炎上でしたけど、何だかすごかったです。特にタイトルへのツッコミが。
四十路も近いのに「数学やり直せ」とか言われて、いろいろと恥ずかしかったです。
ですが、そうしたツッコミどころがあってのアクセス増でもあったかと思います。もし、その辺がキレイにまとまっていたら、あんなに注目されなかったでしょうし。なので、あえて「直さない」「おバカのままにしとく」という選択をさせていただきました。
1303163aいずれにせよ、本連載は近日中にKindle版としてまとめる予定。少額とはいえお金をいただく以上、そちらでは語句も図表も直しますので、何卒ご容赦ください。では、行きましょう。

>> その前に、これまでのそれいけ!ライターズはこちら から

勝手にキャラが動く? そして物語を作る?

この第10回で「キャラ立て」に関しては一応のひと区切りと考えています。そこで、今回は第1部のフィナーレにふさわしい話題を。
題して、キャラを動かすだけでストーリーを創る方法です。
大物のマンガ家センセーがインタビューなどに出演する際、ストーリー作りのコツとしてほぼ間違いなく出てくるのがこの言葉。
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『キャラが勝手に動いて、物語を作ってくれる』
すなわち、彼らセンセー方にとって、マンガのストーリーとは、
『ワンピース』ならルフィが勝手に動いた軌跡。
『ドラゴンボール』なら、悟空が勝手に動いた軌跡。
『SLAM DUNK』なら桜木花道が勝手に動いた軌跡である……というワケです。
普通に聞いていると「んなアホな!」、あるいは「そりゃアンタらが天才だからだろ!」って感じですが……実はそうでもなく。一言というと、彼らセンセー方がやっているのは「シミュレーション」だったりします。

シミュレーション。

要は、主人公を過酷な状況下に置いたり、主人公にさまざまな人物をぶつけたりして、その際にどう動くか、シミュレートしているというワケです。
簡単な問題を出しましょう。
1)「SLAM DUNK」の主人公・桜木花道の前に「バスケ好きのかわいい子」が現れたら?
2)「ドラゴンボール」の孫悟空の前に、宇宙最強の敵が現れたら?
……問題を出しておいてナンですが、2つとも即答ですよね?
桜木花道や悟空が上のような場合にどう動くかなんて、ココでいちいち言わなくてもいいですよね? ってぐらい、誰でもわかるかと思います。
つまり、作者はあらかじめ用意した主人公の前に「状況」や「別キャラクター」を用意し、その都度、主人公がどう動くかかをシミュレートしながら、物語に仕上げている……というコトになります。
言い換えれば、主人公がさまざまな事件や人物に出会ったときに起こる「化学反応」を、ほぼそのままドラマ化している……とも。

「魅力的なキャラ」とは、結局のところ何か?

ただし、上記のやり方でストーリーを創るためには、あらかじめ「魅力的な主人公キャラ」を用意する必要があります。
※「主人公キャラの魅力」について、細かいことは第1回第3回第5回あたりにまとめてあるのでご参照ください。
さて、詰まるところ、魅力的なキャラとは何か?
1人の創作者としてそこを考えた場合、キリがありません。ですが、商業的観点から「魅力的なキャラ」とは何なのかと煮詰めたときの答えは、たった1つ。
  ↓  ↓  ↓
『エピソードを量産できるキャラ』
コレに尽きます。

あなたの主人公からは、100話のエピソードが生まれますか?

いきなりムチャクチャなことを聞いてますが(笑)。
実をいうと、特にマンガの場合、連載の可否はほぼココで決まります。
これも映画やお芝居と作法が大きく違うところ。
例えば、映画やお芝居だったら基本、一作毎に別々の主人公、別々の世界って感じで、ぜんぜん違う「企画」をいくつも考えるじゃないですか。(もちろん、映画にも寅さんや釣りバカ日誌、ダイ・ハードのようなシリーズ物はありますけど)
でも、マンガやキャラクター小説の場合、そうじゃないんですね。
むしろ主人公は、作者が煮詰めに煮詰めて「これだ!」と考えた1人で固定しちゃう。
その上で、主人公に様々な状況や人物をぶつけて……さながらプリズムや万華鏡のように新しい展開や次の物語を生み出していく。これが極意なんです。
つまり、1作ごとのプロットや物語を考えるよりも、エピソードの量産によって長期にストーリーを継続できる「システムとしての主人公」をじっくり考えることに、重きが置かれます。
そして、「システムとしての主人公」がうまく決まれば、あとは第5話で書いた内容じゃないですけど……キャラの辿った履歴が勝手にストーリーへと昇華されていくんです。

エピソードを量産できる「システムとしての主人公」とは?

ま、肝心なのは、そうした主人公の「作り方」「生み出し方」でしょう。
回り道する気はありませんが、こういう場合、ゴールを見せてから法則を教えた方が早いと思うので、まずは「システムとしての主人公」の代表例を紹介しましょう。
1)ゴルゴ13
「世界を股にかける超一流の暗殺者」という設定を持つため、大企業のボスから大物政治家、CIAまで、世界中のクライアントが彼の腕を頼るコトになります。
「依頼人が引きも切らないような設定」がキレイに完成しているため、あとは世界中の時事ネタにゴルゴをどう関わらせようか……と考えるだけで、エピソードが完成します。
なお、マンガでは1話完結の「職業モノ」が1ジャンルとして確立していますが、やっぱり殺し屋に限らず、何かの専門家を主人公にすると、依頼人の数だけエピソードを量産できるので便利みたいです。

2)「ワンピース」のルフィ
まあ、ワンピについては、分析している方が他にいくらでもいるので「今さら」ですけど……個人的には3つです。
・ルフィ自身の大きな夢と、強敵を前にしてもめげない王道そのものの性格。
・戦いに様々なバリエーションを生む「悪魔の実」。
・未知の大海原を行く「海賊」という世界観。
この3つが合わさると、思いついた仲間の数だけ、あるいは思いついた島の数、敵の数だけ、ストーリーがいくらでも量産できるワケです。あとはルフィが新しい島へ行って、住民を助けながら悪いボスと戦えばいい……という寸法になります。
「エピソードの量産」という視点から捉えると、実に味気ない解説となってしまいますが……。

3)ドラえもん
ドラえもんにおける究極の発明は「四次元ポケット」。いわばコレが「エピソード無限量産機」になっているワケです。ひみつ道具を1つ考えただけで、エピソードが1つ生まれます。原作者が亡くなったあともエピソードを作れるんですから、究極の成功例ですよね。
ちょっと例がマンガばかりなので、ラノベからも出しますが……。

4)「フルメタル・パニック!」の相良宗介&千鳥かなめ
アフガンでならした歴戦の勇士で新型ロボット兵器のパイロット……だけど平和な日本での生活には溶け込めず、ところ構わず銃や手榴弾を持ちだして大騒ぎを起こす。
これだけなら単なる「面白いキャラ」かも知れないですけど、この作品が上手いのは、ヒロインであるかなめの存在。彼女にこそ重大な秘密が隠されているので、結果、宗介が彼女を狙う連中と戦わなくてはいけないという大きな流れが生まれます。そして宗介の設定がサイコーなので、舞台が学園でも戦場でも、それぞれの面白さが生まれてしまう……。
おそらくフルメタの設定はラノベ史上最高クラスの「芸術」だと思います。

あとはこれも忘れちゃいけない。
5)ウルトラマン、仮面ライダーなどの特撮ヒーロー
絶対的な強者と次々に襲いかかる悪の軍団。
新しい敵とどう戦い、どう勝つかというところだけでストーリーを作れるようになるので、これも「敵の数だけエピソードを量産できる」良い設定です。
では、様々なタイプの主人公を並べたところで、彼らに共通する点を抽出しましょう。

(1)絶対的な特技を何か1つは持っている

第3回でも述べましたが、主人公が特技を持っていると、依頼人や挑戦者など、周囲が勝手に話題を持ち込んでくれます。つまり、ゲストキャラクターの数だけエピソードの量産が可能になるということ。

(2)揺るぎない信念や性格を持っている。

これは第5回で紹介した「シングルスタンダード」。信念や言説、目的などが一貫していないと、読者は安心して主人公を応援できません。これは先に決めておく必要があります。

(3)とりあえず「死なない」。

これ、映画やドラマなどのつもりで短編や読み切りを作っていると、意外に忘れてしまうんですが、すごく重要です。何しろ主人公が死んでしまったら、新しいエピソードはもう生まれませんから。
主人公が死んでもいいのは基本、最終回だけです。

ちなみに、ここまでの話はあくまで「エピソードを量産可能な主人公」の話であって、面白いとか、魅力的とかってのとは少し角度が違います。
面白さや魅力については、とりあえず自分が面白い、魅力的だと信じるモノに設定しておいてください。いずれにせよ、それらが魅力として読者に伝わるのは、実際に主人公を動かし、そこに周囲のリアクションや「おみこし」を挟んだときですから。
※演出技法「おみこし」については、第4回第6回で詳しく解説しています。

さあ、主人公を動かそう!

まず必要なのは、(1)特技と(2)信念、性格。
(3)の死なないってのはイチイチ決めることじゃなくて、最終的に生き残っていればいいだけの話なので、ここでは「パス!」です。
では、カンタンに主人公の設定を決めましょう。
(1)特技……フィギュアスケートの天才。いま決めました(笑)
(2)信念……天国のパパにオリンピックの金メダルを届けるまで諦めない。これも今(ry
(3)性格……前向き。もちろん今(ry
ぶっちゃけ、このぐらい決まれば動きます。
もっと細かく決めてもいいですし、マンガ家志望者のように絵で語る人は、言葉ではなくキャラ絵を描きまくるのもいいでしょう。上に書いたのはホントの「最低限」です。

実例:『ふぃぎゅあっ!(仮題)』

さあまず、主人公はフィギュアの天才なので、天才らしいエピソードを考えましょう。スケートが好きになったきっかけから考えましょうか。
地元のセンパイのお姉さんが、フィギュアの日本代表大会に行った。応援しに主人公(女の子)はかけつけるが、センパイは彼女の前で負けてしまう。彼女はフィギュアを諦めるが、スケート靴を女の子に託すとか。
「観てて! わたし、きっとフィギュアの女王になるから!」とかなんとか。
→ここでセンパイからおみこし「このコなら将来きっと、私以上の選手になる!」
では、このまま順調すぎても面白くないので、少しアクシデントを入れましょう。父親が北国から転勤になり、都会に出ることになる。とか。するとスケート場が少ないため、練習できなくなってしまいますよね……。
とはいえ、主人公は前向きなので諦めません。毎日放課後には、スケート場に行って、窓から「いいなあ」と眺めます。
→はい、ここで「ライバル」を突っ込んでみましょう。
お金持ちのお嬢様が、毎日優雅に練習してます。どうやら、スケートクラブがあるようですね。当然、主人公は入りたいです。まずは親にねだります。でも返事はダメ。都会でそんな活動を続けるお金はない。でも主人公、諦めきれません。
毎日、窓から眺めていると……事件が1つ起こります。
ライバルの演技にあった小さなミス……。周囲は気づかず拍手しているが、主人公だけが首を傾げている。
→ここでおみこし。「あのコ……私のミスに気付いた?」「何者かしら」
(こういう演出で、主人公の才能の片鱗を見せていく)
数日後、ライバルが話しかけてきます。
「あなた、スケートに興味があるの? だったら今度、特待生試験があるわ」
ここでもおみこし。「こんなコが私に勝てるわけないけど……確かめたいのよ。あなたの正体を!」
特待生! カネがなくても指導を受けられるチャンスです!
→いきなり特待生という話が出ると「ご都合主義」なのですが、この場合はその前に、主人公があらゆる手を尽くしているので、助け舟が出てもいい雰囲気が出来上がっています。
……とまあ、これ以上書いても、講座として何がしたいんだか分からなくなるので割愛しますが、どうでしょう。
「主人公さえ決まれば、話なんかいくらでも作れる」というのはこういうコトなんです。主人公の前に苦難やライバルを与えて、どう動くか試す。
そして主人公の動きに周囲がどう反応するか。これらをシミュレートするだけで話を作っていく……これがッ! これがッ!「キャラが勝手に動いて話を創る」という到達点だッ!!
エピソードがスイスイ浮かんでくる主人公が生まれたら、そいつを徹底的に描こう、というコトです。
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お知らせ

本連載「それゆけ!ライターズ」が、ついにKindle化します!
今回の講座までが主な収録内容。上下巻での刊行予定で、予定価格はそれぞれ99円です。
内容は上巻が「設定編」、下巻が「演出編(おみこし編)」。
発売日は、3/20頃を予定!言っちゃた! うわ、言っちゃった!(とりあえず上巻が3/20ってコトで)
加筆訂正もしているし(二次関数とかグラフとか、それ以外にもいろいろ直してますw)、途中から入れるようになった挿絵も、もっとおバカで分かりやすいのを増やしてますので、まさに「分かりやすきこと山の如し」ですよ!
……最後に意味の分かんないコトを言って、返って不安にさせたような……
ではまた。
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この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)
1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com
Kindle本「DISTANCE (がんばれ!アクターズ戯曲シリーズ)」好評発売中

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