魅力ある物語を作るための「キャラ立て」の考え方

それいけライターズ

こんにちは。こくぼしんじです。魅力ある物語を作るための本連載もいよいよ4回目ですね。三日坊主にだけはならずに済んだと、少し安心しています。
さて、これまで名ゼリフ、リアクション、そして設定のコツといった、いわゆる「マンガ的」なエンターテインメントのツボを解説してきましたが……。今回からいよいよ「応用」を1つ、語ろうと思います。
ズバリ「キャラ立ての極意」。 ただ、1回で語るには長すぎる話ですので、最低でも2回、最大で4回ぐらいに分けて語ろうかと思います。よろしくお付き合いいただければ。

はじめに「今日はキャラ立ての初歩としてサンプル中心に話します」

そんなに言うなら、手本を見せろって?

ただ、その前に、前回募集した「講義への異論・反論」を。
特に具体的な異論や反論はなかったんですが、1つだけリクエストをいただいてます。
「いいこと思いついた。こくぼ、手本を見せてみろ」……と。
『えーっ!? お手本ですかァ!?』
「指導者は度胸! 手本ぐらい見せるもんさ。きっといい気持ちだぜ」

※実際には、こんな「くそ○そテクニック」風なやり取りはありませんでした。
なので、キャラクター設定のお手本を1つ。
さすがに仕事で実際に採用されたモノは守秘義務の関係上、公開できません。でも代わりに、ボツになって時間が経った企画の中から、自分の中で今でも「面白いのに! 連載になれば絶対売れるのに!」と確信しているモノを1つ、紹介しましょう。
これがッ! これがッ!
オレが過去に企画した、主人公キャラクターの設定例だッ!

(お手本)企画『SEXカウンセラーEVE』、主人公の設定例

○名前
伊武尊(いぶたける)設定年齢は30歳。オフィスは六本木ヒルズの最上階にある。
○設定と能力
世界の王侯貴族や企業経営者、著名人などに超高額でSEXの四十八手を教える『裏のSEXカウンセラー』
ローマ帝国やモンゴル帝国の歴代皇帝にSEXを教えてきた「イブの一族」の末裔であり、代々受け継がれてきた「性技」を教えることで、現代に生きる人々の性的な悩みを解決する。古来より、SEXの技術は子孫繁栄のため、何より帝王としての威厳をあらゆる面で保つために、必要とされていたのだ。
彼の存在は世界の王侯貴族やごく一部の上流階級、セレブリティにしか知られていない。だが、口コミで世界一の腕前と評判になっているため、彼は常に世界中のクライアントから引っ張りだこである。
○信念と性格、人物像
『SEXは究極の癒しであり、金では買えない』という信念を持ち、クライアントから法外なカウンセリング料金を取ることもしばしば。しかしながら、SEXの悩みは権力や金を掴んだ男たちが最後に残すコンプレックス。そのため、大概のクライアントは己のほぼ全財産を投じてでも伊武の指導を受けることになる。
一方で、金のない一般人には無料でそっとアドバイスを贈ることも。
女性を心から尊敬しており、女性を粗末に扱う男や歪んだ(自分勝手、一人よがりな)SEXを広める連中を憎んでいる。
決めゼリフは『女性をバカにする者を、私は許さない』。
また、相手が大金持ちであろうと貧乏人であろうと、裸になれば皆同じだと思っているため、接し方は一切変わらない。
世界中で2000人の女性を抱いた経験を持つが、いまはパートナー以外の女性を抱かないと決めている。クライアントの伴侶や愛人を自分が寝取るワケにはいかないためだ。
……とまあ、様々な大人の事情でボツになってしまった企画なんですけど。当初の予定ではハリウッドの映画プロデューサーやホリ○モンを模した実業家など、様々なセレブが彼の元を訪れて性的なコンプレックスの解決を依頼するという、結構マジメなお話になる予定でした。
(べ、別に機会を見つけて公開したかったとか、密かな願望は全くないんだからね!)
「設定面でのハッタリのかまし方」……そのお手本には、なっているんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか?(弱気)

いま明かされる! キャラ立ての極意(演出編)

さて、いよいよ本連載の大目的の1つである「キャラ立ての真髄」を語ることになりますが。その前に1つ、注意事項を。
ここから話す内容は、あくまで『あなたのオリジナルキャラを魅力的に見せる際の、図式の組み方』だと思って下さい。これだけじゃ意味がわかんないと思うので、補足すると……
よく、作劇マニュアル本などに書いてある「キャラクターの作り方」ってんですか? あーいう「読者に受けるのはこういうキャラだ!」みたいな話じゃないってコト。そういう「市場のニーズは何か?」みたいな話なら、オレなんかよりも、実際の大ヒット作家の皆さんに聞いた方が早いでしょうし。
なので、この先ではもっと本質的な話をします。

「おみこし理論」を知らずにキャラ立ては語れない!

さて、いきなり出てきたキーワード「おみこし理論」。これは元々、マンガの作劇や演出に使われる概念であり、技術体系です。
特に、マンガやキャラクター小説の面白さを決める上で肝とも言える「魅力的な主人公キャラクター」を造形するのに使います。あらゆる大ヒット漫画において、多くの読者や作劇系の志望者が気付かない形で、しかし「確実に」使われているテクニックです。

まず、この理論の全ては下記の定義に立脚しています。
「大勢の人が注目している対象には、誰もがつい関心を持ってしまう」
例えて言えば、街中で大勢の人が集まりみんなでどこか一点を見ていると、その先に何があるのか? 何か事件でも起こったのか、誰か有名人でもいるのかとつい気になってしまう。あんな感覚。
あるいは有名タレントなど、大勢のファンから騒がれている存在を、自分自身がファンでなくとも、とりあえず「(騒がれているから、それに値する)すごい人なのだろう」と認知してしまう。そんな感覚。
この辺りは人間の本能的な感覚だと思いますが……「おみこし理論」では、こうした人間の認知的な本能を逆手に取るんです(笑)。
具体的には、作中において脇役みんなで主人公を褒めたり、けなしたり、あるいは主人公に期待をかけたりすることで、主人公に脇役みんなのリアクションを集め続けます。
「また○○(主人公)のしわざね!」
「さっすが○○(主人公)!」
「ヤツ(主人公)には何か隠された力がある……」
「託したぞ、お前(主人公)に!」
「お前(主人公)を倒すのはこのオレだ! その日まで死ぬなよ」
こうしたセリフを、マンガなどで目にしたことが全くないという方は、多分いないと思うんです。で、これを何のためにやっているかというと……
「主人公に、読者の関心を集中させるため」です。
脇役たちが主人公を巡って騒いだり期待をかけたりすることによって、主人公は作品内で「みんなの注目の的」「台風の目のような存在」と認知されます。その結果として、主人公は読者の目からも魅力的に見えてしまうんです。
いわば、超人気タレントがメディアに連日、一挙一投足をニュースのネタにされているような状態を、自分の作品内で擬似的に、自作自演的に、作り上げるということ。
特にマンガやキャラクター小説では、全ての登場人物を作者が自分で作れます。
そのため、脇役を総動員して主人公の一挙一投足にリアクションさせまくると、主人公を作品内でスターのような存在へと仕立てられる……というワケです。
とまあ、こうした姿が、あたかも主人公をおみこしの上に乗せ、脇役みんなで担いでいるような状態に見えることから……「おみこし理論」、または「おみこしの法則」「おみこしの図式」などと呼ばれているワケです。

サンプルストーリー『寝太郎が起きる!』

ちょっと今回、サンプルが多いような気もしますが……
上の「おみこし理論」を使うと、魅力があんまりないキャラですら、それなりに魅力的に見えてしまうという実例を、ここで紹介しましょう。今回はサンプルとして、"寝太郎(ねたろう)"という男子高校生のキャラを用意しました。

その寝太郎の設定は……極めて単純ですが、「いつも教室で寝てるだけ」ってことで(笑)。
何しろ、ほとんど何もしないキャラ、魅力もないキャラを、演出テクニックだけで魅力的に見せてやんよ! という趣旨ですからね。いざ

グーグーグー……
授業中は毎度のことながら寝ている寝太郎。
そんな寝太郎は、いつも「クラスメートの注目の的」です。
「なあ、寝太郎ってあんなに寝てるのに、どうしてテストじゃ学年1位なんだ?」
「寝たフリをしてるだけなんじゃない?」
「それはない。石で殴ったけど反応なかったし」
「そこまでするかい!」
「寝る子は育つって言うじゃないの。きっとIQが高いのよ」
「そうなのかなあ……」
「分かった! 睡眠学習だ(昔懐かしの)!」
「まさかあ……」

パチリ。おもむろに、寝太郎が机から顔を上げます。
「うおっ! 寝太郎が起きた!」
「ど、どうなってるの……?」
寝太郎は何も言わず、寝ぼけ眼をこすりながら机の下に入り込みます。
「寝太郎が……机の下に……?」
「入ったわね」
「太陽がまぶし過ぎたのか?」
「いや、もっと重大な何かが起こる前触れかも……」
「んなワケねえだろ」

すると!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
かなり大きな地震です!
「地震だわ!」
「キャーッ!」
「ね、寝太郎はまさか……これを予知したとでも?」
「あり得ない。深海魚じゃあるまいし!」
「寝太郎クン……! キミはいったい、何者なんだ‥‥!?」

いかがでしょう。寝ているだけの寝太郎に、本来は魅力なんてありません。
でも、脇役みんなが寝太郎についてあるコトないコトを喋っていると、それだけで寝太郎が話題の中心になり、いわば読者にとって「印象的な人」に見えてしまうんです。
これが、キャラクターの魅力を引き立てる演出技法「おみこし」の威力。
……ただ、本気で単行本の何冊分も続けていこうと思うと、この寝太郎ではおそらくネタが足りなくなります。なぜなら、自分で目的を持って動かないから(笑)。
だからこそ、第3回で紹介した「ハッタリ」など、キャラクターの設定面で(エピソードが生まれやすいように)あらかじめ工夫しておくことも、同時に必要なんですね。次回は、この「おみこし理論」の様々な応用を紹介したいと思います。

「おみこし理論」の具体例を知りたいなら、このマンガ!

最後にマンガを1つ、紹介します。日本のエンターテインメント史上、もっとも徹底的に「おみこし理論」が活用されているマンガ。それは何かというと……『スラムダンク』この第1話こそ、マンガ史上最高に計算された「おみこし理論」の集大成。キャラクター演出技法を本気で身に付けたいなら、絶対に持っておくべき1冊です。

「おみこし理論」を知るための「SLAM DUNK」の読み方

まず、主人公・桜木花道のアクションやセリフを一旦すべて無視して(笑)、冒頭で花道を振ってしまう女の子、ヒロインの晴子、ゴリ(赤木)、仲間の不良たちといった、脇役たちのセリフに注目しましょう。
すると、気付きますかね……?全ての脇役たちのセリフが、下記の2パターンへと集約されていることに。
パターン1. 花道に向かって何か言う。
パターン2. 花道のいないシーンでは、誰もが花道についての噂話をしている。

要はすべての脇役が、花道に関係ないことを一切、喋ってない! ということ。
脇役たちのリアクションやセリフの「全て」が、おみこし理論に基づいた演出テクニック。主人公・桜木花道に読者の注目を集めるという、たった1つの目的のために発せられたセリフであり、リアクションなんです。
まずは「SLAM DUNK」1巻1話で「おみこし理論」の具体例を感覚的に掴みましょう。すると、あとで他のマンガやラノベを読んだ際にも気づけるんじゃないかと思います。
「あ、このセリフ。主人公を引き立たせるための演出になってるわ!」
あるいは
「何これ。キャラ立てに関係ないじゃん。……ああ、説明か」
とかって具合に。
この目線を身に付けたら、しめたモノ。あとは自分でもどんどん、演出的なアイデアや応用例が浮かぶでしょう。
では、また来週、お会いしましょう!

この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)

1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com

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