ストーリーを盛り上げる キャラ立ての本質について

それいけライターズ

こんにちは。こくぼしんじです。
連載も第6回。いよいよキャラ立ての話も本質に入っています。ですが、一方で「おみこし」など、いきなり本記事から読むとワケが分からなくなるほど、専門用語も数多く飛び出していて……。
機会があれば是非、この辺りで過去記事をおさらいしてくれると嬉しいですね。

【過去記事】第1回第2回第3回第4回第5回

特に「おみこし」の何たるかについては、第4回で詳しく解説しています。それらを踏まえた上で(面倒かけてゴメンね!)、行ってみましょう!

みんなで褒めるだけが「おみこし」じゃない!

キャラに存在感を与え、その魅力を効果的に伝えるための表現技法「おみこし」。ですがそのやり方は、単に「みんなで持ち上げる」ことに留まりません。

とにかく、主人公に脇役たちの関心が向いていれば、それで「おみこし」は成立します。例えば主人公を罵倒するでも、主人公のやり方に反感を持つでも、バカにするでもいいんです。それこそ、脇役みんなで一斉に主人公を見つめるだけでも立派な「おみこし」。

主人公の一挙一投足について、みんながリアクションしたり、噂している状態を作るのが「おみこし」の本質です。
そこを踏まえて、今回は「おみこし」のさらなる応用を紹介しましょう。

狂言回し型「おみこし」

主人公キャラの心情を脇役が代弁、あるいは推測するという「おみこし」。
代表例はゴルゴ13、アカギなど。

世の中には、自分で叫び、熱く語りながら頑張る姿が魅力的なキャラもいれば、逆にペラペラと自分から喋らない方が魅力的なキャラクターもいます。後者の代表例が、ゴルゴ13だったり、赤木しげるだったりするワケですが。なので基本的には、寡黙なタイプに属するキャラクターをおみこしする手法です。

「あいつはきっとこう考えているに違いない。(具体的な内容)。
オレには分かるんだ」

こんな感じで、脇役の口から主人公の気持ちを代弁してあげる。すると主人公が自ら語らなくても、主人公の気持ちや狙いが読者に伝わるというワケ。また、主人公の周りに狂言回しやお世話係が1人以上ついているコト自体にも演出効果があります。
(チヤホヤしてくれる人間を従えているという意味で)
この狂言回し型には、応用パターンもあって。例えば、先に脇役の口から主人公の考えを予想させた上で、主人公の次の行動が予想を超えたモノだったりすると、主人公はもっと「すごいヤツ」に見えます。
「アイツはきっと○○から現われる。警戒を怠るな」 ↓(実際には、主人公が全然違うところから現れた)
「な、なんだと……!」
「あり得ない! ヤツの発想は人間の枠を超えている!」
「あんな男を敵にしたのが間違いだった……」

こういう見せ方ですね。つまり、脇役を狂言回し兼、ミスリード役にするワケです。ゴルゴ13は常にこうやってライバルの予測の上を行くから、すごいヤツに見えています。

ちなみにコレ、ミステリーでも多用される手法です。

古くはシャーロック・ホームズのワトソンもこういうミスリード役でした。最近では「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」などでも、ライバルが先に犯人を予想し、外した上で、主人公が改めて解決するという見せ方が、常に使われています。

ハッタリ型「おみこし」

世界チャンピオン、大富豪、伝説的な人物などが主人公を意識する。時には激励する。
主人公を「おみこし」する脇役の方にあらかじめハッタリを仕込むことで、おみこしの効果を増幅させる手法です。

代表例はサラリーマン金太郎、キャプテン翼、ガラスの仮面。例えば、自分の作った主人公を「サッカーの天才」と思わせたい。そのためにはどうしたらいいか?

最もフツーな方法は、脇役みんなに「すげえ」「アイツは天才だ!」と言わせること。まあ、脇役みんなで褒めるという、基本的なおみこしですね。ただこういう場合、さらに効果的な方法があって。ズバリ、上のような褒め言葉を、プロサッカー選手などの「大人物」に言わせることなんです。

極論を言えば、もし日本代表監督のザッケローニのような人物に「あの子こそ、私の待ち望んだ才能だ……!」なんて言われたら、どんなにアホっぽく見えるキャラでも、たちまちサッカーの天才として認知されるんですよ。

まあ、実在人物を登場させるのは肖像権などもあるのでちょっと難しいですけど。でも、架空でそういうキャラを作って登場させるのは、出演料ナシでいくらでも出来ますよね。漫画や小説の世界なら。

例えば「キャプテン翼」だと、網膜剥離で現役を引退した元ブラジル代表FW、ロベルト本郷が、サッカーに明け暮れる翼くんの姿を見ながらこう言います。

「恋人を…
 母国・日本で恋人を見つけたんです
 その恋人の名は大空翼----
 おれの目にはもうあいつしか見えない
 あいつをサッカー選手として世界にはばたかせること----
 それがこれからのおれの唯一の生きがいとなるでしょう」

このセリフ自体も立派な「おみこし」。

でも、真の意味は、このセリフの信憑性を増すために、わざわざロベルト本郷という架空の大人物を用意した……その「ハッタリ」の部分にあるワケです。

元ブラジル代表にこれだけの期待をかけられたら、そりゃもう、翼くんは誰が見たって将来を嘱望される、サッカーの天才です(笑)。

また、「ガラスの仮面」では、単なるラーメン屋の娘だった主人公・北島マヤを、ライバルであり、将来を嘱望される女優でもある姫川亜弓が、強烈に意識します。一方で、他の連中はマヤのことなんてどうとも思ってません。むしろ口々にバカにしていて。

結果、「普通の人には分からないけど、亜弓(と読者)にだけはマヤの真のすごさがわかる」という、コントラストの付いた「おみこし」になります。脇役みんなでヨイショするばかりが「おみこし」ではない、というのはこういう意味です。

ライバル型「おみこし」

先に「おみこし」によるフォーカスを敵やライバルに集め、それを主人公が打倒することでキャラ立てを行うパターン。代表例は北斗の拳、ドラゴンボールなどのバトル物。

具体的には、まず対象となる悪役の強さを、どんどん他の脇役たちに説明させます。

「あんなのに勝てるワケがない」と言葉や設定で説明するのもいいですが、一番わかりやすいのは、やられ役を作ること

特に長期連載のマンガなら、前のシリーズで主人公が苦戦したライバルを、次の敵にぶつけてあっさり負けさせるってのが王道的な手法。前の敵が瞬殺されることにより、次の敵の強さがより引き立つワケです。代表的なのはドラゴンボールですよね。過去に悟空が大苦戦した敵やライバルは、新しい敵が登場した際、ほぼ間違いなく瞬殺されます(笑)。

で、上のような数々の演出で徹底的に強化された敵を、最後に主人公がやっつけると……

あの強大な敵を倒すなんて、主人公は何て強いんだ!」となるワケです。

ちなみにこの手法は、バトル物だけでなくスポーツ物でもラブコメでも普通に使えます。スポーツ物なら、あらかじめライバルを天才に見せるよう演出すればいいですし、ラブコメなら、恋敵をイケメン、大金持ち、天才など、魅力たっぷりに見せればいいワケです。

先導型「おみこし」

特筆すべき取り柄などの見当たらない主人公を、あえて「おみこし」することで、読者の「なぜ?」を誘い、先の展開への興味を持たせる……そんなスタイル。代表例は、新世紀エヴァンゲリオン、魔法少女まどか☆マギカ。
主人公の魅力や正体をあえて隠したまま、脇役におみこしさせるのが、この先導型のミソ。

「何の取り柄もない子が、なぜか周囲にチヤホヤされている」

ある意味で不自然な状況を、物語の序盤で意図的に作りあげてしまうワケです。すると当然、読者や視聴者の反応は下記のようになります。

「どうしてこんな、何の取り柄もない主人公がチヤホヤされてんの?」
「どうしてこんなフツーの少年が、地球を守る戦士なんかに選ばれてんの?」

読者にこういう率直な疑問を抱かせた上で、主人公がチヤホヤされてきた真の理由を徐々に種明かし。たとえば、隠された能力や才能を持っていた、とか。そのネタばらしが面白いと、読者は「そういうことだったのか!」と、謎解きの快感を味わえるワケです。

例えば、魔法少女まどか☆マギカであれば……まず2人の登場人物が、最初から主人公のまどかを強烈に「おみこし」します。2人ってのはもちろん、ほむらとキュゥべえ。種明かしがされていない最初の段階だと、おそらく視聴者は、
「なんでキュゥべえは、こんな子を必死で魔法少女に勧誘するの?」
「どうしてほむらは、まどかにしつこく付きまとうの?」

……と、そのぐらいにしか思えないはずです。と同時に、視聴者はこれから明かされるであろう、まどかの正体や隠された謎に興味を持つはず。その興味をエサにしつつ、話を引っ張るワケです。
そして、少しずつ真実が明かされると……ここでネタバレはしませんけど、キュゥべえの企みには仰天するし、ほむらが持つまどかへの思いには感動しますよね。

ただ、この手法を上手く機能させるには、タネである「主人公の正体や設定上の秘密」を、読者があっと驚く魅力的なモノに設定しておくことが不可欠

分かったときに「よくあるネタじゃん」などと呆れられる程度の、ありふれたタネではダメなんです。それではさんざん引っ張られた読者がガッカリします。あるいは「時間の無駄だった!」ぐらいに思われたり。

加えて先導型では、もう1つ落とし穴があって。何しろ「主人公がなぜかチヤホヤされる」という状況を先に作るため、その「なぜ」のタネ明かしを放ったらかすと、単なる「作者のご都合主義」に終わりやすくなるんです。いわゆるハーレム物のラノベなんかで、そういう失敗作品は死屍累々とありますが。

よって、これまでの作品に類を見ないほどの「すごいアイデア」や「大どんでん返し」が用意できた場合に使うと、効果的でしょうね。

「ガンプラ」はなぜ売れたのか??

最後に、閑話休題を兼ねて。

誰でも知っているガンダムシリーズですけど、あの作品と、関連のプラモデル(ガンプラ)が爆発的に売れた背景にあるのも「おみこし」だという事実はご存知でしたか?

他のロボットアニメがあまりやっておらず、一方でガンダムシリーズだけが徹底的にやっていた「仕掛け」とは……。ズバリ、パイロットたち総出でモビルスーツを「おみこし」するという手法だったんです。

つまり、こういうコト。ガンダムシリーズの真の主役はアムロでもシャアでもなく、モビルスーツだった。

「見せて貰おうか。連邦軍のモビルスーツの性能とやらを!」
「モビルスーツの性能の差が、戦力の決定的な差ではないことを教えてやる」
「ええぃ! 連邦軍のモビルスーツは化け物か!」
「ザクとは違うのだよ、ザクとは!」
「ビグザムが量産の暁には、連邦なぞあっという間に叩いてみせるわ!」
「ぜ、全滅だと!? 3分もたたずにか!? 12機のリックドムが3分で全滅……ば、化け物か……っ!」

こうやって、パイロットたちがみんなでモビルスーツの魅力を語るから、みんな感化されて、プラモデルが欲しくなってしまったのです……(笑)。「おみこし」を知った今、過去の作品を改めて観ると、作り手の隠れた「狙い」がよく分かりますよ。

この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)

1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com

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