読者を夢中にさせる魅力的なキャラのつくり方

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『魅力的なキャラとは何か?』……なんて考える必要は、ない!

こんにちは。こくぼしんじです。いやいや5回目ですね。前回は演出技法「おみこし」の話でしたけど、今回は演出と対をなすキャラクター作りの要、設定のお話をしようと思います。
「おみこし」の話にもまだまだ応用や続きはあるのですが、「おみこし」だけ分かったつもりになっても、キャラ設定の極意はつかめません。そこで、演出の話と設定の話をサンドイッチしながら理解してもらいたいと考えました。
ちなみに、第3回の「ハッタリ」もキャラ設定のお話でしたが、今回もまた違う意味で極めて本質的な話です。では行きましょうか!

魅力的なキャラをつくる

「魅力的なキャラとは何か?」という議論は、エンターテインメントを扱うさまざまな業界において、長年重ねられてきました。漫画業界だろうと、ラノベ業界だろうと、TVドラマだろうと、それこそ芸能界(芸能人やアーティストもキャラが大事ですよね)だろうと。ホントに色んなところで。
そうした過去の経験やデータから導き出された、「売れるキャラ」の条件を挙げること自体は案外カンタンです。いろんな人が本当にいろいろと研究成果を出してますから。
例えば、
基本的に明るい前向きキャラが受けやすいー、ですとか。
何か特技を持っているー、ですとか……。
同時に弱点を持っているー、ですとか……。
分かりやすい決めゼリフを持っているー、ですとか……。
でも、実はそういう法則をたくさん並べたところで、キャラクター作りの本質にはたどり着けないと思ってます。何せ、今の社会では各人の趣味が多様化しています。これなら万人に受ける! 確実! というキャラクター像がすでにありません。
また、いくら過去のヒット作の黄金律通りにキャラを作ったとしても、そのキャラが既存の二番煎じ、三番煎じだったら、世間に与えるインパクトはたかが知れてますからね。今さら別の漫画家が描いた、劣化ルフィや劣化悟空を見たいですか? って話です。
加えて、自分のオリジナルキャラクターって結局、自分の中にある引き出しや信条が色濃く反映されちゃうって事情もあります。テクニックがあるからそれを使ってちゃっちゃと作っちゃえ! ぐらいの意気込みでは、結局、魂が入らずじまいになってしまうワケです。
ですので、自分の心の中にある正直な声に耳を塞いでまで、「売れ線」ばかりを意識したキャラクターを作る必要はありません。そもそも編集者という関門なしで出版できる電子書籍の世界で、わざわざ苦労してまで「売れ線」に迎合すること自体、筋違いでしょう。
何より、前回紹介した「おみこし」さえマスターすれば、およそあらゆるタイプのキャラクターを魅力的に見せることができます。それこそ寝ているだけのキャラクターでも、それなりには魅力的になりますから。ですので、まずは自分の生みたいキャラクターをじっくり考えてください。

それでも、主人公を設定する際の「唯一のルール」はあります

さて、すっかり前置きが長くなりましたけど。キャラクター、特に主人公を設定する上で、絶対に守るべきルールはたった1つ。それはズバリ、
『シングルスタンダードであること』。
この「シングルスタンダード」こそが、愛される主人公、読者を感情移入させる主人公として必ず求められる、究極にして唯一の資質です。「シングルスタンダード」とは何か、カンタンに説明すると、こんな感じ。
「こうと決めた信念や約束事に、必ず従う。例外なく」
いちばん代表的な例は、ウルトラマンなどの勧善懲悪型ヒーロー。
「地球の平和を乱すヤツは絶対に許さない」という決意があるので、相手がどんなに強い怪獣だろうと宇宙人だろうと、果敢に挑んでいきます。最強レベルの怪獣に倒されて死ぬことはあっても、逃げるという選択はありません。
スポーツ物などで言うと、
「サッカーのワールドカップで優勝することを夢と定めたら、途中で宗旨替えして、大リーグのワールドシリーズを目指したりしない(笑)」(サッカーでの挫折からスタートする野球漫画、だったらアリですが)
こんな感じで、とりあえずは主人公の性格を「シングルスタンダード」に設定すればOK。良く言えば実直かつ誠実なヤツ。悪く言えば目的一直線の暑苦しいヤツ、あるいは融通が利かないヤツ、ですが。
このシングルスタンダードが崩れると、つまりダブルスタンダード(※次項目で説明)になってしまうと……物語の主人公がどれほど読者にとって興醒めな存在になってしまうかを、これから語っていきましょう。
あとは、たとえ主人公が忌み嫌われる職業についていようと、どうしようもないハンディを抱えていようと……前回紹介した「おみこし(脇役を使った主人公へのフォロー)」によって、いくらでも魅力的に見せることができます。

ダブルスタンダードは読者に「裏切られた感」を与える

ダブルスタンダードってのは、上でお話したシングルスタンダードの逆で、二重規範----つまり『状況に応じて2つ以上の判断基準を都合よく使い分ける』ってこと。
例えば……いわゆる路上喫煙禁止の区域で、タバコを吸ってるアホが1人、いるとしましょう
こくぼお前のことか、なんて言わないでくださいね(笑)
で、ここではあなたが正義の味方です。そして路上喫煙を許せないあなたは喫煙者に言います。
『君、タバコは喫煙所で吸いたまへ! 路上喫煙など絶対に許さん!』
で、シングルスタンダードってのは、上の同じセリフを、ひ弱なオタク青年にも、怖そうなヤクザ達にも、同じように言えること、あるいはそれが言えるヤツのことなんですね。
禁止区域での喫煙はイカン!たとえ相手が普通のおっさんであろうとヤクザであろうと、イカンものはイカン! 断固注意する! 結果、たとえ殺されても悔いはなし!
↑これはシングルスタンダード。
路上喫煙に限らず、要はこうした1つの原則や約束事を、いつ何時、誰に対しても、例外なく、同じように主張できるってことなんです。
でも、リアルではそんなワケに行かないじゃないですか、普通。言えそうな相手には言うけど、上司とかコワイ人には言えないじゃないですか。要は「例外」にしたいような場合が、ありますよね。
相手が普通の人の場合→「おい! 路上喫煙すんなよ!」
相手が怖い人や上司の場合→「……(何も言えねェ……)」
こうやって相手や事情に応じて「例外」を用意し、複数のパターンで対応を取ること。日本的に言えば、まさに本音と建前を上手に使い分ける生き様。これが『ダブルスタンダード(二重規範)』であり、物語の主人公が絶対にやっちゃいけないコトなんです。
(もちろん、人間ぽさを出すために、意識的にダブルスタンダードする場合もあります。でも、その場合はあとで自分を恥じたり、脇役たちになじられるなどして、主人公が大きな挫折を味わうのが普通です)
読者って、基本的に主人公の夢や目標に感情移入するワケです。
それは「アイドルになる夢を叶えたい」だったり、「好きな女の子をモノにしたい」だったり色々ですけど……
なのに、アイドルになることより生活のためのバイトを優先しちゃったり。好きな女の子との待ち合わせ時間よりも、目先の宿題を優先したり。
そういう姿って読者から見て、
『この主人公、何がしたいのか分からない…』
『本気じゃねえじゃん』
『ついていけねー』
……って感じじゃないですか? 少なくともこういう、言ってるコトとやってることがチグハグなヤツを、応援したくなったりはしないはずです。要するに、ダブルスタンダードは読者の感情移入を裏切ってしまうので、絶対にダメと。

「シングルスタンダード=主人公属性」なんだよ!

売れる主人公のパターンや例はいろいろありますが、究極的にはシングルスタンダードにさえしておけばいい----これが今回の講義における趣旨なんですけど。
なぜ、主人公を作るコツが、そんなにシンプルにまとまってしまうのか?それをこれから明かしましょう。

1.シングルスタンダードゆえに、長所も短所も同時に生まれる

上で書いた通り、シングルスタンダードな生き方を貫く上では、何かの実力なり才能が必要になります。(なお、シングルスタンダードに対応できるキャラを作るために、第3回では「宇宙一」「世界一」などと連呼しました)
例えば、幕末を彩った名だたる剣客たちと「不殺(ころさず)」の精神を貫きながらチャンバラを続けていくのであれば……ハイ、もちろん「るろうに剣心」のことです。
ま、少なくとも圧倒的な剣の才能、実力が必要になるでしょう。なので「るろうに剣心」の主人公・緋村剣心の場合、圧倒的な剣の強さが「長所」になります。もちろん、少年誌で活躍するヒーローとして、決して人を殺さないという信念も、読者に愛されるための重要な長所です。
でも剣心の場合、一方で「不殺」という信念がそのまま、戦いの上では大きなハンディキャップになりますよね。殺す気で向かってくる敵にとどめを刺せないんですから、これは大変です。まさしく致命的な「短所」と言えるでしょう。
つまり、融通の効かない「不殺」という信念をひたすら、シングルスタンダード的に貫くことで、長所と短所が同時に生まれてしまうワケです。
ちなみに、長所と短所の作り方については、カンタンな方法が2つあります。1つは、上のように、長所を先に設定した上で、長所が持つ「裏腹な部分」を弱点に設定すること。
敵を殺さない代わりに、戦いでは常に危険にさらされる。超人的な剣術を使える代わりに、それを振るう身体に大きな負担がかかっていて、剣客としての寿命を削られている。こうやって「長所の裏側」を弱点に設定するというやり方。これが1つ。
もう1つは、長所を1つ決めた上で、他のすべての要素をダメダメにすること。このタイプの代表例は「美味しんぼ」の山岡さん。
会社では競馬新聞を見ながら寝ているだけ。いつも同じ服装でズボラ。記者としての仕事はロクにしない。デリカシーなど欠片もなし。欠点だらけのダメダメ人間ですが、味覚と料理の腕だけは父・海原雄山の才能を受け継いだ真の天才。
あとは少し古くてマイナーな漫画ですが、「山下たろーくん」もこのタイプ。野球で甲子園優勝を目指しているのですが、ドン臭く、身体が小さく、野球の才能など欠片もないというキャラ。しかしながら、野球を上手くなるために誰よりも努力できるというたった1つの長所を武器に、数々の強豪を破り、甲子園優勝をモノにします。
リアル社会だと、こうした「長所1つ、あとはダメ」タイプの人間は減点法で駆逐されてしまうのですが……漫画や小説の場合は「おみこし」を使って、彼らの弱点をすべてフォローすることが可能です。
「アイツ(主人公)は、○○だけやらせときゃいいんだ。余計なことさせんな」
「他のことはからきしだが、こういう時だけは必要だよな」
「お前(主人公)の力が必要なんだ」
「本当にお前(主人公)は、○○するために生まれてきたんだなって実感するよ」
こうやって脇役の口からフォローすることで、いくらでも弱点をカバーし、長所による魅力をアピールできるというワケ。

2.シングルスタンダードは、自動的にストーリーを生む

特に漫画やキャラクター小説の場合、主人公をシングルスタンダードな人物に設定しておくことは、物語の構成を練ること以上に大切です。
なぜなら……これ、逆説みたいで恐縮なんですけど、そもそも漫画やキャラクター小説とは、「シングルスタンダードな主人公が、その生き方を貫き通す過程」に他ならないから。
カンタンに言うと、バトル物がその代表例。
「強くなりたい!」という一念だけで、まずは身近な不良にケンカで勝ち(もしくは負けたとしても良い勝負をし)、次は本格的に格闘技を学んで大会出場……あとはぶっちゃけた話、
「より強敵が出現→勝つために特訓→勝利」の繰り返しですよね?
もちろん、作品としてのオリジナリティを出すために、強敵のアイデアやら、どう戦い、どう勝つかのアイデアなんかも必要なワケですけどね。結局、さっきのタバコの話を読み直してもらえば分かると思いますが、シングルスタンダード的な生き方を貫くのって、マジでやろうと思うとすごく大変なんですよ(笑)。
それこそ主人公の前に、シングルスタンダードを貫けなくなるような障害(強敵やら困難な事情)を次々と用意し、それらを何とか克服させる----その過程を描くだけで、物語になってしまうというワケなんです。
大御所の漫画家さんたちが作劇法としてよくおっしゃる「キャラを作れば、あとはキャラが勝手に動いて物語を作ってくれる」というのは、こういう意味。
シングルスタンダードに設定されたキャラクターは、その波瀾万丈な生き様が、自動的にストーリーとなるのです。

3.シングルスタンダードは、自動的に名ゼリフを生む

これもまた逆説的なんですけど……シングルスタンダードというのは、そもそも元になる1つの信念なり約束がないと成立しないんですね。
つまり、主人公が生涯貫くに値するような信念や約束。あるいは逆に、もっとも許せないこと。そうした内容を煮詰めてセリフに落としこんでしまえば、それは自動的に「決意系」の名ゼリフ(第1回を参照)にもなってしまうんです。
「海賊王に、おれはなる!!!」
(ワンピース)
「だがこんなおれにも はき気のする『悪』はわかる!!
『悪』とはてめー自身のためだけに 弱者を利用し ふみつけるやつのことだ!!」
(ジョジョの奇妙な冒険・第三部)
「たとえ99%勝ち目がなくても……
 1%あれば……戦うのが
 北斗神拳伝承者としての宿命だ!!」
(北斗の拳)

4.シングルスタンダードであれば、脇役が主人公をフォローできる

シングルスタンダードな生き様を貫こうとすると、必然的に命がけのバクチや全身全霊の戦いを強いられます。そもそもがリアルでは不可能なほど無茶な生き方なので。
何しろ、たかが喫煙マナーを注意するだけでも、相手次第では命がけになりますから。無茶な生き方ですよね(笑)。
そして無茶な生き方というのは、リアル世界で多くの人が実行できないだけに、結果としての勝ち負けや成功失敗に関わらず、読者の感動を生んでしまいます。……すると。
無茶なことばかりする主人公を、励ましたり、理解してあげる脇役が現れても、少しも不自然に見えなくなってしまうんです。主人公が当初の信念や約束を貫こうとしている限りにおいて、脇役を使いながらいくらでも援護射撃できるというワケ
それこそ、
「そんな武器では通じない。コイツを使え」と謎の人物が新しい武器をくれるとか。
「ふむ。見どころがある。わしの元で修行せんか」と誘われるとか。
「○○(主人公)を見殺しにできねえ!」と加勢や助っ人が現れるとか。
なので、むしろキャラ立てという観点で言えば、主人公に無茶をさせ、千尋の谷に落とせば落とすほど、脇役を使って盛り上げやすくなります。

「キャラ立て」の極意はこの作品にある!

先週、SLAM DUNKを紹介しておいてからこう言うのもなんですが……「キャラ立ての研究は本宮ひろ志に始まり、本宮ひろ志に終わる」と言っても過言ではありません。
事の成否に関わらず、ひたすら無茶を言い、無茶を通そうとする金太郎。その姿に脇役みんなが惚れていき、いつしか不可能が可能になる……
あの、強引だけど意外と不自然に見えない超展開(笑)が、一体どういうイズムで作られているのか、上の文章を読んだあとなら、きっと理解できると思います。
キャラ立ての極意----「演出(おみこし)」と「設定(シングルスタンダード)」の連携ぶりを感じていただければ。

この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)

1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com

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