機動戦士ガンダム第一話を例に学ぶ、創作技術を高める作品鑑賞テクニック

soreyuke_logo14こくぼしんじです。
物語の構成力を身につけるためにはパクるのが一番だ! というトンデモ主張を絶賛展開中の本シリーズ【構成編】ですが、好評なので嬉しい限りです。
そこで今回は、より実践的に物語の構成をパクって学ぶためのテクニックについて『機動戦士ガンダム』の第一話を題材にお話します。それでは行ってみましょう!
これまでのそれいけ!ライターズはこちら

やっぱり物語の構成は、パクりながら学ぶのがいちばん早い!

「!」つけて断言するような、カッコいい話じゃないですね(笑)。
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さりとて、上のように激しく拒絶されても困りますが。
さて、小説とかシナリオの世界だと、パクリながら学ぶことにすごいタブー感がありますけど……少しジャンルを移して、プログラム言語の習得プロセスなんかを想像すると、納得しやすいんじゃないかと。
たとえばプログラム言語やhtmlタグ、CSSなんかを学ぼうというときに……いきなり自分で設計(構成)から何から全部考えて、入門書を片手にオリジナルのソースを組み始める人が、果たしてどれだけいるのかって話なんです。
そんなんじゃ普通、挫折しますよね? 最初のハードルが高すぎて。
だったら、代わりにどこから始めるか?
まずは既存のコードを引っ張ってきて、アレコレいじりながら、ここが変わるとこうなるのか、ああ、ここはあっちと紐付いてんのか……そんな感じで、次第に全体の構造を理解していくんじゃないでしょうか。
実際、ゲーム業界でプログラマーとして活躍している人たちは、子供時代に『マイコンBASICマガジン』なんかを買ってきては、掲載されたソースを自分のマシンにベタ打ちしてみたり、書かれたコードの中のパラメータをいじりながら、学んだワケです。
物語も、プログラムと同じように学んだ方が早い。つまり、既存作品をパクったり分析しながら学ぶのがいいってコトになってしまうんですけどね。パクリという行為自体の是非は他の人たちに議論してもらうとして、オレはそこを断言しておきたいです

作劇を学ぶなら、ドラマはこう観よう!

構成の力を身につけたいのだったら、学び方の王道は、やっぱり多くの作品に触れること。
ただ、漫然と多くの名作に触れたところで、そこから大事な技術を学ぶ(盗む)こともできませんし、ましてや面白い作品を自分で書けるようにはなりません。
なぜならエンターテインメントの世界では、面白い作品ほど、構成の良し悪しや作者意図といった裏側を、読者(視聴者)には感じさせないからです。
作品が面白ければ面白いほど、何も考えず純粋に見るハメになり、最後は「面白かった!」の一言で済んでしまうワケ。覚えていても、せいぜい作中の名ゼリフか名シーンぐらい。
たとえばの話、東京ディズニーランドでアトラクションを楽しんだ際に、普通の人はその技術的な仕組みや経費、スタッフの必要人数や対応ぶり、単位時間あたりの売上なんて分析しないですよね? まあ、それと同じコトが起こるんです。
よってエンターテインメントの骨組みを見抜き、作劇ノウハウとして自作品へと取り込んでいくには、意識して分析的視点を保つ必要があります
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そのための「見方」が以下です。

映画の構成を掴むための「分析的視聴方法」

(1)映画のDVDなどを借りたら、大画面テレビなどではなく、PC上で観る。

この勉強は、映画やアニメ、テレビドラマなど、映像作品で行うのがベスト。小説やマンガでもできるんですけど、本は手でめくる必要があるため、PCにテキストを打ち込んでいく手が塞がって煩わしくなり、作業がはかどらないんです。

(2)全画面表示で観ず、映画のウィンドウの横にはテキストエディタを開く。

この場合、楽しむために映画を観るワケではありません。盗むために観るんです。よって、全画面表示なんて論外。必ず画面の横にはテキストエディタを開きましょう。

(3)各シーンの概要をテキストにおこしていく

各シーンごとに、概要をテキストでメモしていきます。
以下、実例です。映画だとメモが長くなりすぎて記事としてキツイんで(最初『ダイ・ハード』でやろうとしてぶっ飛びました)、アニメ『機動戦士ガンダム』の第1話にしました。
ガンダムにもいろいろありますが、今回取り上げたのは、まさに王道の1stガンダムです!

『機動戦士ガンダム』第1話 構成メモ

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【起】※

世界設定の説明(ナレーション)
爆発、戦争中である(ナレーション続き)
タイトルイン「ガンダム大地に立つ!!」
宇宙空間を移動するザク(ジオンのモビルスーツ)。サイド7への侵入を図る。
ザクから降りてくるジオン軍兵士
避難命令のサイレン鳴り響く
アムロの家にくるフラウ・ボウ
家にはハロがいる(アムロはメカいじりが好き)
軍艦がやってくる 早く避難しろ
ハヤト登場(アムロのお向かいさん)。
アムロ出てくる
車で走る。軍艦にアムロの父が乗っている。
ここも戦場になるかもしれない
「ホワイトベース(軍艦)」の単語が初登場
ホワイトベースと「ガンダム」について語る
ホワイトベースの入港
アムロの父とブライト初登場
ブライトは19歳。士官候補生
ホワイトベースはジオンの追跡を受けている
ジオンの軍艦ムサイに乗ったシャア登場
ホワイトベースを補足した
サイド7にはV作戦の基地がある
優れたモビルスーツを開発中
暗号入る 連邦は新型モビルスーツ(ガンダム)の開発に成功した

【承】※

偵察中のザクたち
戻った方がいいという上官の意見を無視して部下が暴走し、基地を襲う。
整備中のガンキャノンやガンタンクを打ち倒す
退避カプセル内にアムロとフラウ・ボウがいる
ジオン軍の攻撃
アムロ、避難用カプセルを飛び出す
カプセルを出たアムロの目の前にザク
父を探すアムロ
目の前で、軍人がザクにやられる
倉庫が爆破され、アムロの目の前に、マニュアルが転がってくる
極秘資料 連邦軍のモビルスーツのもの
ジオンの軍艦ムサイからシャア。連邦のモビルスーツを確認。
船をサイド7に近づけるよう指示
住民が避難している
アムロ、ガンダムのマニュアルを読みふける
フラウ・ボウの声
ザクに襲われる連邦軍基地
父親を見つけたアムロ、フラウ・ボウを先に行かせようとする
(そばにはガンダムがある)
父親、避難民よりガンダムを大事にしている
アムロ、そんな父親に噛み付く
ホワイトベースにいけと父親
運搬車が動かないので、牽引車を探しに行く父親
アムロ、ガンダムを見つめる
「これが連邦軍の秘密兵器なのか……」
すぐ近くで爆発
フラウ・ボウの声。駆け寄るフラウ・ボウの後ろで大爆発。
避難民の列を離れたフラウ・ボウは助かったが、母と祖父が殺されてしまう。

【転】※

アムロ、泣いているフラウ・ボウを叱咤。ガンダムでザクと戦うことを決意。
ガンダムに駆け寄り、乗り込むアムロ
「こいつ、動くぞ」
マニュアル片手にガンダムを起動させるアムロ
ホワイトベース
格納庫内なので、コアファイターも発信できない
ガンダムの正面にザク
アムロ、とっさにバルカン砲で反撃
おどろくジオン軍 下手くそなのを見て交戦を決意
ガンダムは撃たれるが無傷
偵察任務なんだからもう撤退しろと上官
受け付けない部下
立ち上がるガンダム。目が光る
バルカン砲を撃ちまくる。すぐ弾切れ
迫るザク
ガンダム、格闘でザクのチューブを引きちぎる。
「あれが連邦軍のモビルスーツの威力なのか」
ガンダムの強さに驚くアムロ
逃げようとするザク
武器を探すアムロ
逃がすものかビームサーベルでぶった切る
大爆発 サイド7の壁をぶち破るほど
エンジンをやると爆発が大きすぎる
コクピットだけを狙う
飛びかかってくるザクのコクピット(腹部)をビームサーベルで貫く

【結】※

破壊された基地
ブライトが避難民をホワイトベース誘導している
宇宙からサイド7に攻撃開始 シャアのムサイ
「認めたくないものだな 自分自身の若さゆえの過ちというものは」
そのまま次回予告

……とまあ、ここまでは面倒がらなければ誰でもできる「手作業」だと思います。
何が起こっているか、何が語られているかをメモるだけなので。

(4)書き出した構成メモに、主人公の気持ちの流れ——「動機」や「狙い」を入れてみる

次にすることは、上のメモに「気持ちの流れを入れてみる」ことです。
映画やアニメを見ながら、あるいは小説を読みながらシーンの概要を書いた際、おそらくあなたは客観的に状況や事態のみをメモっているはずです。
特に映像作品の場合、流れているモノを追ってメモるワケですから、最初はどうしてもそうなります。また、最初は何も考えずメモっていたモノがあとで伏線だったと分かる……なんてコトも多々あるでしょう。
たとえば、アムロがガンダムを初乗りでいきなり動かせた要因は「マニュアルがあった」だけではありません。彼が初登場時から寝食を忘れてコンピューターを自作するほどのメカ好きであること、なおかつガンダム開発者の息子であることといった、さまざまな伏線が序盤から積み上げられています。
なので今度は、最初に書き出した「客観的な情報の羅列」に、人物の意図や動機、シーンの狙いなどを追加していきましょう。
上の『機動戦士ガンダム』の構成メモを直していくなら、たとえばこんな感じ。
・戻った方がいいという上官の意見を無視して部下が暴走し、基地を襲う。
  ↓
・戻った方がいいという上官の意見を無視して部下が暴走し、『手柄を立てるべく』基地を襲う。
・アムロ、避難用カプセルを飛び出す
  ↓
・アムロ、軍属の父を見つけてみんなをホワイトベースに避難させてもらうために、避難用カプセルを飛び出す
構成を書き出したあと、上述した「気持ちの流れ」を補足しないなら、構成の書き出しなんてしてもムダ……と、そのぐらい重要です。

事象と事象をつなぐ「人物の心の流れ」が重要なんだ!

なぜなら、作劇の初心者が構成面で犯すいちばんの失敗——それは、登場人物たちの気持ちを無視したまま、事件や事象を起承転結の枠に収めてしまうコトだからです(第7回参照)。
物語の構成や外郭だけをいくら書き出しても、そこに心の流れを補足できないなら、いつまで経っても作劇のスキルは向上しません。
「この人物は、この場面で、なぜそう動く(語る)のか?」
全てのシーンやセリフの意図を、正確に、なおかつお客様に納得してもらえる理屈で説明できるようになったとき、あなたはプロ作家に最低限必要な「破綻のない物語」を作る構成力を手に入れていることでしょう。

(5)起承転結を割っていく

上のメモで【起】以下の各項目に※を付けた部分です。
メモった内容に、起承転結を割り付けていく作業になります。
先に心の流れを補足するよう書きましたが、その理由は簡単で、心の流れを追えていないと、特に【起】と【承】、【承】と【転】の切れ目が正確に判別できないからです。

で、起承転結の内容(各項目ですべきこと)は第11回でまとめましたが、改めて簡単におさらいすると……
……世界観の説明。主人公がどんな奴か。主要登場人物の登場。主人公が動く最初のきっかけ。
……主人公が動き始め、困難にぶち当たるまでの過程。ここでの主人公の動きは、あとで必ず裏目に出る。
……裏目に出てから、主人公がピンチに追い込まれ、大逆転していくまでの過程。
……コトが片付いた後の始末。連作モノなら、次の展開への前振り。
これらの条件を満たした場所を上のメモに当てはめたものが、上の『機動戦士ガンダム』第1話のメモ上で※マークを付けた、起承転結です。

特に留意したいのが、途中の【承】と【転】の開始ポイント。

【承】長編シリーズの第1話なので、通常の映画などよりも起の部分が長くなる(設定についての説明があるため)。条件に従えば【起】と【承】の切れ目はここ。
【転】承の物語的な条件「主人公の動きや決意が裏目に出る」に当てはめると、ここから転。アムロがみんなを助けようとした動きが仇になって、フラウ・ボウの家族が殺されてしまう。そして敵への怒りと反撃への決意。

(6)この話のテーマは? 作者がいちばん見せたかったモノは?

テーマというのは、別に「友情」とか「愛」とかじゃないんです。作り手がこの話で、何を見せようとしていたか。これを一言で言ってみる。それがテーマ。
『機動戦士ガンダム』の第1話なら、話のテーマは間違いなく「ガンダムのスゴさをこれでもかと見せるコト」だったはずです。実際、アムロもシャアも、他の軍人たちも、みんなでガンダムを「おみこし(第4回第6回参照)」してますからね。

作品を骨までしゃぶれば、パクりやすい作品にいつか出会える!

こうやって、1つの作品を骨までしゃぶるような気持ちで分析して……それを繰り返すと、やがて見つかるんですよ。
「(自分的に)パクりやすい構成を持つ作品」というモノが。
そんな物語を見つけたら、構成だけを流用して、世界観や人物、セリフなどをすべて自分のモノに置き換えてみましょう。それで、あなたの最初のオリジナル作品が誕生します。
オレの場合、それ(つまり習作時代の最初のパクリ元)は、『るろうに剣心』の第1話であり、『ブラックジャック』の第1話でした。これは人によって異なります。TVドラマの「相棒」がパクりやすい人もいれば、映画の「ジョーズ」がパクりやすいって人もいるしで、ホントに本人次第。
いずれにせよ、上のように構成を抜き出して、パクれるようにまでなった頃には、

あなたも「物語の構成」をちゃんと、頭だけでなく手先まで、体感的に身につけているはずです。

あの『ジョジョ』の荒木先生も、"最初は"パクりながら作っていた?

荒木飛呂彦先生の初期の連載『バオー来訪者』のストーリーが、スティーブン・キングの小説『ファイアスターター』といろいろ符号するのはファンの間で有名な話。
本書では大作家の荒木先生が、ルーツとしてのホラー映画を語ります。
面白いのはジャンル分け。数多くのホラー映画をどう分類しているかという基準は作家さんの「視点」を端的に表します。ただ字面を読むのではなく、これらの作品のどこを盗み、あるいはどう発展させて『ジョジョ』に取り入れていったのか、考えながら読むのが面白いでしょう。

この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)
1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。
→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com
Kindle本「DISTANCE (がんばれ!アクターズ戯曲シリーズ)」好評発売中

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