進撃の巨人に学ぶ創作手法。絶体絶命から物語は生まれる!その名も巨人算!!「創作させてやるっ!!ひとり残らず!!」

1306011こくぼしんじです。
今回は人気作品「進撃の巨人」の創作手法である、絶体絶命の状況から物語を動かす手法についてお話いたします。主人公の夢や目標で大ボラを吹けないなら、現状打破そのものが夢物語になるほどの破滅的状況を設定してしまおうという方法です。
そして、約20回に渡って続けてきた創作手法をお話する『それゆけ!ライターズ』。突然ですけど、今回が一応の最終回です。
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最終回にふさわしく、なおかつ、次のシリーズへの導入となる……っておい、最終回じゃねえのかよ! って感じですが。まあ、それは後ほど。とりあえず、行ってみましょう。
これまでのそれいけ!ライターズはこちら

「猪木算」「本宮算」だけじゃない!? もうひとつの究極作劇法。

最初に主人公の口から大ボラをブチまけて、その大ボラを実現する過程を物語にする
上は、前回までで紹介した猪木算、および本宮算の「核」ともいえるコンセプトでした。
……なんですけど。この手法で作劇する場合、作者のあなた自身が多かれ少なかれ「ホラ吹き属性」の持ち主でない限り、辛いと思います。よく「クリエイターはホラ吹きであれ」なんて言いますけど、大言壮語が好きじゃない人もいますよね。著者であるあなた自身の中にある「ヒーロー像」が、いわゆるホラ吹き型や大言壮語型でない場合、根本的に無理な手法でもあります。
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みんながコレをやれるなら、苦労しないというか(笑)。
そこで今回紹介したいのは、主人公に大言壮語させるのが苦手な場合に選べる「もう1つのやり方」です。

「絶体絶命の状況を用意し、そこからの脱出や打開の過程を物語にする」

主人公の目標や夢でホラを吹けないなら、世界設定や状況設定でホラを吹いてみれば? ……というのが、このやり方のポイント。
・高層ビルの最上階を訪ねたら、そこでテロ組織の襲撃を受けた!『ダイ・ハード』
・(同上)、下の階が火事になって脱出できねえ!『タワーリング・インフェルノ』
・戦争で捕虜にされ、収容所に入れられた!『大脱走』
・酔った勢いで書類にサインしたら、翌朝、外人部隊に所属してた!『エリア88』
・保証人に裏切られ、いきなり借金を背負わされた!『カイジ』
・人類は壁の中に暮らしていて、さらに巨人が攻めてくる!『進撃の巨人』
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つまり、主人公が自らホラを吹いたり大言壮語したりしない代わりに、主人公を取り巻く周囲が絶体絶命であればいい。あるいは、絶体絶命の窮地から脱する過程を物語にすればいい……というコト。
いま、この作劇法で大人気なのがアレですよ。『進撃の巨人』。壁の中に閉じ込められた人類が、圧倒的な力を持つ巨人に追い詰められているという窮地からのスタート。
こういった状況であれば、少なくとも主人公が大ボラを吹く必要はありません。
主人公の周囲を取り巻く状況がとんでもないマイナスなので、その状況を打開して日常に戻りたいというだけで、日常の世界における大ボラと同じ意味を持つワケです。
そして、主人公の決意表明が「大ボラ」と同じ意味を持つ以上、あとの展開は前回紹介した「本宮算」とまったく同じです。
まずは主人公が無理無茶無謀を行い、そこに助言や助けが集まる。そしてみんなの力を借りた主人公が目的を達成する……というお決まりのパターン、もとい王道的展開に持ち込めます。

たとえば『進撃の巨人』の場合……

絶望的な世界設定と、そこに対する主人公の決意

『進撃の巨人』で言うなら……
壁に囲まれヒソヒソと暮らす人類。その状況に満足できない主人公のエレン。
「一生壁の中から出られなくても……メシ食って寝てりゃ生きていけるよ……でも…それじゃ…まるで家畜じゃないか…」
→別にセリフの字面そのものはホラ吹きでも何でもありません。けれど、状況が状況だけに、普通に生きたいという一言が、世界のタブーに挑む「究極の大ボラ」になります。

絶体絶命の状況下で、主人公はとりあえず考えなしに動く。

『進撃の巨人』で言うなら……
再び巨人が壁を破って襲ってきた。その中で、少年時代のエレンは巨人から母親を救おうとする(結果的には救えなかったけど)。
「駆逐してやる!! この世から……一匹……残らず!!」

ボロボロになったところで、アドバイスをくれる人や手助けしてくれる人が現れる。

『進撃の巨人』で言うなら……
母親を救おうとして無理したところを、駐屯兵団のハンネスさんに辛くも助けられる。

改めて、仲間と一緒に戦う。

『進撃の巨人』で言うなら……
エレンとミカサは成長し、第104期訓練兵団に志願。
「立体機動」という新たな武器、そして仲間の協力を得て、再び巨人に挑む。

まあ、いずれにせよ物語を動かす上では、主人公に最後まであきらめない「不屈の闘志」が求められますけどね(笑)。『進撃の巨人』の物語を動かしているのも、基本的には主人公エレンが持つ「不屈の闘志」ですから。
主人公が自ら意志を持って動かないと、物語も動いていかない……そこも、本宮算と一緒です。
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主人公がここで妥協すると、キャラも物語もあっさり破綻します。

「なるほど!」「すごい!」じゃダメなんだよ!

一応、連載の最終回なので、最後らしいコトをひとつ。

『それゆけ!ライターズ』では一貫して「魅力的な主人公が動く姿を物語に変えていく」方法論にこだわりました。まあ、作劇の方法論なんて他にもいくらだってあると思いますけど、オレが説明できるのはこのやり方だけだったので。
ただ、連載を続けていく過程で、「嬉しいけど嬉しくない感想」というのがあったので、最後、そこについて。
オレがもらって一番困った感想は……「アンタ何様?」でも、例の炎上記事で言われた「中学から数学やり直せ」でも何でもありません。そんな批判はスルーすればいいだけですから。
嬉しいけど嬉しくない、なまじ感想それ自体としては好意的であるがゆえに、意図が伝わってないのかなーと思えてしまう「はがゆい」感想。それはズバリ言うと「なるほど!」なんです
いや、書き手としては嬉しいんですよ。間違いなく。喜んでもらえたってコトですから。でも、作劇論として考えたとき、喜んでもらって……それでいいのか? ってのが常につきまとっていて。
むかし『カイジ』の作者、福本伸行先生が、10年以上前の「ヤングマガジン(赤ブタ)」だったかの巻末に掲載されたロングインタビューで、スゴイことをおっしゃってたんです。

『感じて「面白い」と思われるだけなら、それは感動ではなく"感静"にすぎない』
『感動とは"感じて動く"こと』
『読者が感じて、なおかつ実際の行動に移ったとき、はじめて"感動"を与えたことになる』


……とか、そんなコトを。(細かいトコ間違ってるかも知れませんが、大意は合ってるはずです)
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何が言いたいかといえば、もうお分かりかと思いますけど。
これまでのお話を「なるほど!」と思われたのなら、騙されたと思ってぜひ一度試してほしいのです。キャラを作り込むとか、おみこしを取り入れてみるとか、冒頭に大ボラをかましてみるとか。そういうのを。
あるいは、過去に紹介したパターンをそのまま使って1作作ってみるとか。
「(オレの書いた方法論を使って)1作書いたので見て下さい」というなら、読んでアドバイス返すのもやぶさかではアリマセン。
もちろん、最初から「なるほど!」とも何とも思ってないなら、別に試さなくていいですけど(笑)。

次回からは、あなたを「主人公」に変える、新シリーズを予定しています。

次回予告的に内容を説明すると、あの「おみこし理論」を実人生に活用してみる――。
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つまり、マンガのキャラ立て理論を使って、"自分のキャラ"を立ててみようか! という話です。
いわゆるセルフブランディング論的なモノは、本来的に「成功者が語るべき概念」であって、オレなんぞが話すことではないのですが……どうしても『それゆけ!ライターズ』で書ききれなかったコトがあって、そこを埋めたいと考えています。
埋められなかった部分というのは……。
猪木算や本宮算、あるいは上で紹介した「絶望スタートからの物語」を進めていくのに不可欠な、「主人公的発想」「主人公属性」について
主人公の何たるかを理屈で説明するのは、けっこう簡単なんです。
『それゆけ!ライターズ』の第5回でも書いた「シングルスタンダードを貫くこと」ですとか。
けれど、主人公の何たるかという概念は、理屈ではなく体感で理解するには、どうしても読者であるあなた自身に、実人生で、主人公のような体験をしてもらう必要があります。
水に入ったこともない人に、クロールや平泳ぎを理屈で説明しても、ダメっていうか。頭で理解したとしても、それで泳げるかどうかは水に入るまで分からないというか。
ぶっちゃけた話、現実世界で何かしらピンチをひっくり返した経験の全くない人が、ピンチを切り抜ける痛快な主人公をノリノリで描けるワケもないというか。
この辺りを理屈だけで説明しようと思うと、もう本当に悶絶というか「無とはいったい……うごごご!」みたいな感じになってしまうんです。
なので次のシリーズでは、可能な限り、あなた自身を「主人公っぽい人」に変えていくことを目指そうかと。
いろいろツッコミどころの多い連載になるとは思いますが、ぜひご期待ください。

この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)
1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。
→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com
Kindle本「DISTANCE (がんばれ!アクターズ戯曲シリーズ)」好評発売中

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