創作の神・本宮ひろ志に学ぶ「絶体絶命から物語を作り出す」テクニック

1305251こくぼしんじです。
前回紹介した「猪木算」。「物語の最初に大ボラを吹き、ホラの実現過程そのものを物語にせよ」といういささか暴論に近い作劇理論だったんですが……。実はこのやり方、特にマンガの作劇では暴論どころか、普通です。
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いや、むしろ「作劇方法の王道」と言ってもいいでしょう。
そこで今回はより実践的に物語を動かすための方法としてサラリーマン金太郎で有名な本宮ひろ志先生の創作手法を取り入れた”本宮算”について説明します。これは「向こう見ずタイプ」の主人公を、脇役の力で魅力的に演出し、ストーリーとしてまとめるキャラ重視の非常に使い勝手の良い技術です。それでは行ってみましょうか!

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実際に『猪木算』で作られているマンガたち

たとえば。
『ワンピース』
「海賊王におれはなる!!!」→その過程を物語に。
『ドラゴン桜』
「教えてやる! 東大は簡単だ!」→その種明かしを物語に。
……とまあ、近年の大ヒット作からして、この調子ですから。どっちも、最初にかました大ボラを現実に変える「猪木型」の物語と言えるでしょう。
とりあえずここでは、「猪木算」が実際のプロの作品においてもバリバリに使われてるんだってコトだけ覚えておいてください。

猪木算+おみこし理論=本宮算!

一方で、『ワンピース』や『ドラゴン桜』の物語が猪木算だけでできているかというと……それも違います。実際には、後のことを何も考えない猪木算より、もっと高度な理論で作られているんです。それが、今回紹介する「本宮算」。
猪木算はあくまで主人公の動き方や動くべき「道」を提示したに過ぎないんですけど。本宮算では、猪木算にプラスして「脇役の反応の仕方」までを、全て計算づくで盛り込むんです
つまり「猪木算+おみこし理論(第4回第6回参照)」といったところ。
分かりやすく言えば、猪木的な「向こう見ずタイプ」の主人公を、脇役の力で魅力的に演出し、ストーリーとしてまとめることまで、すべて計算に入れた算数です。
ちなみに「本宮」ってのは、以前からこの連載を読んでくださっている人にはもう常識かも知れませんが、『サラリーマン金太郎』の作者、本宮ひろ志センセーのことです。一応補足します。

「本宮算=本宮式ストーリー」の基本テンプレートはこれだ!

さて、今回は先に、テンプレをお渡しします(笑)。以下を読んでいただいてから解説する方が早いので。

1. 主人公、大ボラを吹く

何でもいいんですけど、今回はこんなシュールな大ボラで。
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→みんなで馬鹿にする。
「けっ、できるかってんだ」「過去に何人失敗したか分かってんのか」
「口だけなら何とでも言えらぁ」
「大ボラ吹いて目立とうったってそうはいかねえぞ!」
まあ、裸でエベレスト登頂を目指すと言ったら、バカにされて当然でしょう(笑)。

2. 主人公、無理を承知でがむしゃらに動き、当然の如く失敗

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なぜ、わざわざ失敗させ、主人公をボロボロの目に遭わせるのかというと、読者に「誰かこのバカを助けてやってよ!」と思わせるためです。もし、そういう機運を作る前に手助けしたら、ご都合主義になってしまいます。
→見ていられなくなった周囲のうち、まず1人が主人公を助け始める。
「あいつ……本気だぜ」「口だけのヤローかと思ってたが……」
「あーッ、もう見てられねえ!」
→次第次第に支援の輪が広がり、みんなが主人公に協力。
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「○○が体張ってるのに黙って見てられるか!」「みんな続け!」「うおーっ!」
「不思議だ。あいつ(主人公)を見てると、何でもできる気分になってくる!」
「あいつなら、この状況を変えてくれるかも……!」
「あいつと一緒なら、オレのくだらねえ人生も変わるかも知れねえ」
こうやって脇役みんなが主人公を助けようとする姿を見ると、読者は「この主人公、(みんなに助けられる)すげえ奴なんだ」と本能的に認識してしまいます。

3. 脇役たち、主人公を信じて倒れていく

「あとのことは頼んだぜ……!」「信じてるよ……」
「アンタがいるから、安心して死んでいけるよ……」
「惚れた男に命を賭けただけ。後悔なんざありゃしねえ……」
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→主人公、さらに燃える。
「みんな……オレのために!」「やるぞ! 必ずやり遂げる!」
時には脇役が主人公を信じて倒れていくことで、思いや期待がさらに主人公へ集まります。

4. 主人公、みんなの支えを得て物事を成功させる(主人公)

→目標達成、みんな感激(脇役)
「やったー!」「○○(主人公)ーッ!(歓喜の雄叫び)」

5. 主人公、みんなに感謝する、あるいは謙遜(主人公)

無事にコトを成し遂げたら、主人公はとりあえず謙遜しておけばOK。謙遜する主人公を「いやいや」とみんなで褒める……その図式こそ、多くの日本人が好む英雄像ですから(笑)。
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すべてを主人公のおかげにすることで、主人公をカリスマ化する【ここ重要】
「違うよ。アンタの心意気が、みんなを動かしたんだ!」
「アンタがいなきゃ、この偉業は成し遂げられなかった!」
「本物だよ……誰が何と言おうと、この人は本物だ」
「この通りだ!(土下座して)子分にしてくれ!」
「オレァ一生、アンタについていくぜ!」
これが「本宮算」の基本テンプレート。前回の「猪木算」と少しだけ違うのは、脇役の反応や手助けの様子までが、最初から織り込み済みってところです(笑)。

さあ! 「本宮算」で困難を解決してみよう。

次は演習問題。ちょっとイメージしてもらえますかね。
とりあえず、こんな状況を用意してみました。
  ↓  ↓  ↓
・10万もの敵の大軍勢が、主人公であるあなたの住む街を包囲しています。
・敵は今にも街へ突入しようかというところ。
・このままではあなたも、あなたの家族や恋人、友人以下、皆殺しになります。

さて、あなたがこんな状況に置かれた主人公だとしたら、どんな選択をしますかね?

……
………
…………
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「10万の敵を1人でなぎ倒したらオレはヒーローじゃねえか!!これはピンチじゃねえ! 大チャンスだ! ガハハハハ!!」
あるいは、
「オレが交渉して時間をかせぐ。その隙にみんな逃げてくれ!」
こういう不屈の闘志なり、自己犠牲的精神なりに満ちた答えが、さしたる思考もなく、脊髄反射的に出ましたかね?
これらの「主人公らしい答え」が脊髄反射で出るようなら、あなたはきっと「猪木算」や「本宮算」を使いこなせるでしょう。
何しろ「主人公らしい決断」さえあれば、あとは無茶する主人公をみんなが手助けするという……先ほど紹介したテンプレートに乗せて解決できますから。

たとえば、
・主人公の無茶を見かねて、まずはバリケードをみんなで作ったり。
・地下水脈を利用して大水で敵を押し流すなど、大掛かりな作戦を誰かが持ってきたり。
・敵の弱点を知っている人間が現れたり。
……無茶な主人公の姿に脇役たちが心を打たれ、そして(主人公を)手助けしようと決意することで、戦い方や解決策はいかようにも生まれます。

『主人公が無茶を承知で動けば、それにほだされた周囲は主人公を手助けできる』
『「主人公を手助けしたい」という気運に乗っかった手助けであれば、読者からも「ご都合主義」には見えない」
以上は、この連載で繰り返し語ってきた話ですよね(特に第7回参照)。
むしろ問題なのは、上のようなシチュエーションであなたが「主人公らしい答え」を出せなかった場合です。

「脇役の発想」ではストーリーを作れない

特に、上で出した問題の解答例でいうなら、
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この辺りをあなたが真っ先に思いついた場合は、要注意。なぜ要注意かと言うと、これらの選択肢がどれも、物語における主人公の発想じゃないからです。
何がどうして「主人公らしくない」のか。
こういう場合、古今東西の物語における「お約束的なパターン」に当てはめて考えると分かりやすいですかね。
たとえば、普通の戦争を扱った物語などで、敵が来たからといって我先に逃げるヤツってどうなりますか? 普通、真っ先に殺されますよね。「ヒャッハー! 逃げる奴はこうだ!」ってばかりに。
自分と少数の仲間だけでも助かりたいと願う人も、やっぱり残酷に殺されるでしょう。
「この子の命だけは……!」なんて懇願するんだけど、悪役はそれを認めずズバーン! って感じで。同じようなシーンを『北斗の拳』で何回観たことか(笑)。そして、主人公の怒りに火をつけるんですけど。まあ、せいぜい「仕事する脇役」ってトコでしょうか
「一旦降伏して……」ってのも同様。
あとで「や、約束が違うじゃないか!」なんて叫ぶはめになるのがお約束
「約束ぅ? テメエら下等民とオレたちの間に、約束なんて存在しねえ!(ズドーン!)」とか何とか、結局は殺されちゃうモンです(笑)。
……要するに、典型的なやられ役の発想ってコト。
作者自身がやられ役レベルの発想しかしていなかったら、多くの読者に感動を与えるようなストーリーなんて作れるワケがありません。

もっと言うなら、日頃から他人を感動させたり笑わせたり驚かせたりしてない、あるいはそういうコトをしようとも思ってない人が、どうやって著作で人を感動させたり笑わせたり驚かせたりできるって言うんですか? って話なんです。
他人の心に感動なり、笑いなり、驚きといった「リアクション」を生みたいのであれば、まずは主人公が動くこと。もっと言うなら、著者自身が物語の主人公のようにバカバカしく動くことも、必要だったりします。

この記事を書いた人

本名:小久保真司(こくぼしんじ)
1974.10.12.うまれ。
東京都台東区の山谷地区出身。慶応義塾大学総合政策学部を卒業後、専門学校や声優養成所の事務員として働きながら漫画原作者に師事し、シナリオライターに。コンビニ向けのペーパーバック漫画やゲームのシナリオライターとして活動する。現在は通常のライター業も請けつつ、KDPでオリジナル作品を発表中。他に、自分と同じKDP作家を支援する活動も行なっています。
→『きんぷれ!』(http://kin-pre.com
Kindle本「DISTANCE (がんばれ!アクターズ戯曲シリーズ)」好評発売中

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