今どうしても知ってほしい、触れてほしい物語。高野ひと深『私の少年』1・2巻

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どうもこんにちは。今日も本屋で本まみれ、リアル書店で働くJuuunでございます。

寒いですね。年の瀬ですね。本屋における年の瀬の象徴と言いますと、ひとつはクリスマスラッピングの嵐、あるいは年賀状素材本の山、はたまた来年の手帳やカレンダーが飛ぶように売れまくる光景などなど諸々ありまして。そんな中でも特筆すべきはやはりコレ、毎年恒例『この○○がすごい!』の発表でしょうか。

『このミステリーがすごい!』『このライトノベルがすごい!』『このマンガがすごい!』。更には、言わずと知れた本好きのための情報誌『ダ・ヴィンチ』が送る、BOOK OF THE YEAR。売り上げの数字だけでなく、読者・書店・出版社の声を総合評価して弾き出されるこれらのランキングは、年末の風物詩となって久しい大人気企画。ランクインした作品に購買意欲を掻き立てられまくってる本好きが今年もたくさんいるかと存じます。

各種ランキングを眺めながら、わたくしもニヤけたり唸ったり驚いたりしておりまして。納得の上位作や惜しくもランク外だった傑作など、近々また別記事にて書き散らせたらいいなあと思いつつ、今回はその中からひとつ、ひとつだけ、早いうちに語っておきたい作品を語りに参りました。

『このマンガがすごい!2017』、オトコ編の第2位に輝いた、『私の少年』。つい先週に待望の2巻が発売された、『私の少年』。今、どうしても知ってほしい、触れてほしい物語。それが『私の少年』なのです。

無情な日常に現れたのは、美しい少年だった―― 高野ひと深『私の少年』

「30歳OLと、12歳小学生。この感情は…母性?それとも――。」

私の少年 : 1

高野ひと深 (著)
価格:540円 20%ポイント還元
★★★★* 50件のレビュー

スポーツメーカーに勤める30歳、多和田聡子は夜の公園で12歳の美しい少年、早見真修と出会う。元恋人からの残酷な仕打ち、家族の高圧と無関心。それぞれが抱える孤独に触れた二人は互いを必要なものと感じていく。この感情は母性? それとも――。

書店の現場にて、このキャッチコピーが舞う販促ポスターに足を止めるお客さんをそれはそれは多数、お見受けしました。衝撃的な年齢差。手を出せば即ち犯罪者。けれどその文言の過激さとは裏腹に、この作品の中身は終始、ただひたすらに美しく繊細な空気を纏っているのです

主人公は多和田聡子、30歳。スポーツメーカーに勤める独身女性。会社の同じ部署には偶然にも、かつて大学時代に恋人同士であった椎川が、直属の上司として勤務している。この椎川、どういう意図があってか職場で人目も憚らず「聡子」と呼び捨てをかますわやたらとちょっかい掛けてくるわ忙しくしてたら「最近かまってくれないね」とか言ってくるわ、とにかく聡子の心をざわつかせる奴なのです。極めつけにはコレですよ、コレ。

1612263a高野ひと深『私の少年』第1巻 P.31

会社で。人目も憚らず。上司が何やってんじゃい!と、読者としてもざわざわせざるを得ないこの男に、聡子の心はそりゃもう揺さぶられます。期待なんて一切しないと自分に言い聞かせても、相反する感情。そして椎川に誘われるがまま、聡子は待ち合わせの居酒屋へと向かう。しかしそこに待っていたのは、椎川だけではなかったのです。椎川の隣に座る可愛らしい女性。彼女はなんと椎川の婚約者。聡子は引きつった笑顔を貼り付け、2人とビールを飲み交わす――。

さて、タイトルの『私の少年』はいつ出てくるんだよって話ですが、ちゃんと出てきます現れます。この無情な日常と並行して、聡子は少年と出会います。出会ってしまうのです。

ただひたすらに美しい、優しさの応酬

1612263b高野ひと深『私の少年』第1巻 P.16

心の奥底ではずっと何かに囚われたまま、でもそれには気づかないフリをして、毎日を生きている聡子。そんな日々の中、彗星みたく現れたのが、真修です。会社からの帰路、公園で転がってきたサッカーボールついでに、うっかり声を掛けた相手。それが早見真修。美少女かと見紛うような、美しい少年。年齢は12歳。小学6年生

所属するサッカークラブで、レギュラー入りを懸けたテストが近いという真修。聡子は真修に、あくまで「近所に住む大人」としての立場で、リフティングを教え始めます。毎晩19時からの、秘密の特訓タイム。ごはんも食べず必死で練習する真修にどこか違和感を覚えながらも付き合っていた聡子でしたが、やがてその違和感の正体を明確に察知します。

伸びた髪、年齢の割に幼い服装、空気の抜けたボール、言い聞かすような大人の言葉。更にはお風呂にも入っておらず、着ている服は昨日と同じもの――。

真修の背景にあるものを悟った以上、このまま放ってはおけない。聡子は思わず真修を自宅に連れて帰ります。そこで交わす、真修との何気ない会話。椎川に翻弄され疲れ果てていた聡子は、思わず涙をこぼしてしまう。そして――

1612263c高野ひと深『私の少年』 第1巻 P.52~53

『私の少年』=『まんが史上最も美しい第一話』という異名を象徴する、このシーン。聡子が抱える痛みや苦しみ、雁字搦めになったドス黒い感情を、真修がそっと包み込んで浄化してしまうような、そんな抱擁

モノクロのページから鮮やかに滲み出る、体温や心の揺れ。抱き締めて、抱き締められるふたりが、確かにそこにいる。真修の優しさが、聡子の切なさが、ただひたすらに美しくて、読み手は言葉を失うのです。

そのままふたりは泣き疲れて眠りに就き、静かな朝を迎えます。その日以降、サッカーの練習を口実に、何かと聡子に会いに来る真修。そうやって「懐いて」くれる真修に対して、聡子はどうしても、何かをしてあげたくなってしまう。手を差し伸べて、大切にしたくなってしまう。「私はこの子の何者でもない」――、常識的でごく真っ当な大人である聡子は、年齢や立場でブレーキを掛けその都度葛藤を繰り返しながらも、真修と一緒にいる時間を楽しむようになります。一方で真修は、聡子がくれる優しさに気付き、聡子にお返しをしようと考える。子供ながらに考えて行動して、それを受け止めた聡子がまた優しさを返して――。

30歳の聡子と、12歳の真修。親子でもおかしくない年齢差。関係性はただの他人。それでもふたりは、お互いを思いやりながら心の距離を縮めていく。年の差も他人であることも飛び越えて、ひとつひとつゆっくり、信頼や愛情を重ねていく。その様は、まっすぐで、どこにも嘘はなくて、本当に美しいのです。

残酷な現実と、繊細な幸せと

『私の少年』に終始漂う美しさ。その美しさを支えているのは、ひとえに丁寧さとも言えます。絵柄も物語も、隅々まで緻密に大切に描かれている。どこを切り取っても絶品クオリティ。

まず、丁寧に紡がれるストーリー。これは聡子と真修の関係だけに留まりません。ふたりの周りには、それぞれを取り巻く年齢特有の残酷さが存在しています。聡子の場合は上司である椎川との関係性、過去の母親との確執も見え隠れする。真修は学校における立ち位置、母親不在の家庭環境。これから降りかかってくるであろう鬱屈とした波乱を予感させつつ、ふたりの背負うものが少しずつ明かされていきます。

1612263d高野ひと深『私の少年』第1巻  P.66

『病むとか辛いとか言って みんな実は けっこう幸せなんじゃないの』『誰かが気付く普通 誰かが見つめる普通 目に映らないものは 何もないのと同じ』――。さりげないモノローグにさえ、心を打ちぬくような言葉が散りばめられています。

そして言わずもがなの、絵柄。心の機微を画面に落とし込み、描き出す力量がとてつもない。言語化することが難しい感情を、これ以上ないってくらいドンピシャな表情で魅せてくれます。

たとえば堪えきれず溢れてしまう気持ちを、たとえば笑いたくないのに笑ってみせる一瞬の表情を、視線を、言葉を、絶妙な表現力で見事に画面に写し出してくれるのです。

1612263e高野ひと深『私の少年』第1巻  P.152

こんな顔で名前呼ばれたら頬染めてときめくしかないでしょそうでしょ!!????

丁寧に繊細にひとつひとつ編み上げてゆく感情描写と、それを裏打ちし説得力を持たせる圧倒的画力。

この技量で物語を作り上げてくださる高野先生と編集さん方にはもうマジ感謝と尊敬の念を禁じ得ません。ありがてえ…!こんな素敵な物語を世に産み落としてくれて超ありがてえ…!!

目が離せなくなる展開へと突き進む2巻

30歳OLと、12歳小学生。現実離れした題材をリアリティでコーティングした、素晴らしいフィクションです。勿論、おねショタというジャンルとして楽しむも良し。聡子の、三十路を迎えた女性としての生き方、そこに焦点を当て人間ドラマとして楽しむも良し。女性の心を掴む要素が多く散りばめられているのは事実ですが、男性の心を揺さぶる物語であることも間違いありません

物語の基盤は、孤独を抱えたふたりが出会ったということ。ただそれだけ。普通とは?愛情の種類とは?読み手は自分自身の「常識」を問われながらも、聡子と真修にどうか無垢で清純な時間が続きますよう、願わずにいられない。

待望の発売を迎えた2巻では、真修の抱く聡子への感情が如実に、言葉や行動へ現れ出します。自分に優しくしてくれる大人の女性を慕う気持ち。果たしてそれは、思慕なのか恋慕なのか。そして同時に聡子の感情も激しく揺れ動き始めます

あくまで他人である自分が、真修の家庭問題にまで踏み込んではいけない。自戒を強くする聡子だが、意志とは裏腹に行動が先走ってしまう。椎川のセリフ通り、世間的に「ぞっとする」に値するところまで到達してしまった聡子。私は、ただ、真修に幸せになってほしいだけなのに――。

第1話で真修に抱き締められた聡子は、2巻の終わりで自ら、思わず真修を抱き締めてしまいます。信愛の情か、恋愛の情か。聡子が望むのは『私の少年』、いや『私だけの少年』なのか。

今、どうしても知ってほしい、触れてほしい物語。それが『私の少年』なのです。

私の少年 : 1

高野ひと深 (著)
価格:540円 20%ポイント還元
★★★★* 50件のレビュー

スポーツメーカーに勤める30歳、多和田聡子は夜の公園で12歳の美しい少年、早見真修と出会う。元恋人からの残酷な仕打ち、家族の高圧と無関心。それぞれが抱える孤独に触れた二人は互いを必要なものと感じていく。この感情は母性? それとも――。

私の少年 : 2

高野ひと深 (著)
価格:540円 20%ポイント還元
★★★★* 20件のレビュー

30歳OLと12歳小学生。その関係はもう、他人じゃない――。多和田聡子と早見真修。二人で過ごす時間を特別なものと感じ始めていたその矢先、事件は起きる。聡子は真修の家庭が抱える歪さを垣間見る事に――!?1巻発売とともに大反響を呼び、発売2ヵ月で10万部を突破した大人気コミック、待望の第2巻!!


おわりに

「す」のつく言葉で言ってくれ【電子限定かきおろし付】

高野ひと深 (著)
価格:629円 14%ポイント還元
★★★★☆ 9件のレビュー

ナルシストな元生徒会長・北橋の悩みは、自分のことが「好き」(に違いない!)な生徒会の後輩・乙坂が告白してこないこと。乙坂の大学進学を機に同居が決まり、いよいよ告白か!?と思いきや、乙坂に「ゲイ仲間」だと勘違いされる事件が発生!? 更に、恋愛対象外宣言までされてしまい――!?

現時点で世に出ている、高野先生のもうひとつの作品。それがこちら。同じく愛を込めてご紹介したいところですが長文すぎるのは自覚してるんで手短に!語ります!

一言で言うとBLです。イエス、ボーイズによるラブ。愛情のベクトルはどうあれ、高野先生が生み出すキャラクターの存在感、そして心理描写の妙、ほんっっっとうに絶品です。登場人物はみんな生き生きとそこにいて、悩んで、笑って、苦しんで、幸せになろうともがくのです。愛せずにいられない不器用さ。魅力しかない物語。

『私の少年』に心奪われた皆様は何も考えずポチッとボタンを押したらいいと思います。可愛すぎるふたりに完敗。高野先生の才能に乾杯!

今回、本書紹介のため本文内画像を複数引用しております。引用といえる範囲内での画像書籍画像を本文内に掲載しておりますが、著作権者の方から申し立て頂き次第すぐに削除等の対応をさせていただきます。

この記事を書いた人:Juuun

本屋で働く人。かれこれ十数年、書店チェーンを渡り歩いたり、出版社で営業してみたり。かつては某雑誌でデビューし漫画を描いていた頃もあった模様。何にせよ、本から離れられない人生。とか言いつつ、本以外にも好きなものは盛り沢山。エンタメを貪欲に摂取して生きていきたい関西人。

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この企画について:匿名書店員さんによるキュレーションをやろう

キッカケはこちらの記事『電子書籍をリアル書店への拡販と書店員の副業に活用する新メディアプロジェクトの協力者を募集します』で、電子書籍からリアル書店への誘導。もしくは書店員さんの副業として活用できないかなと。
現在、4名の書店員さんからお申し出をいただき、しばらくきんどうで記事掲載後新たなメディアを立ち上げる予定です。
思うにね、本のプロである書店員さんの専門知識はネットでもっと読みたいし、それはお金になる分野なんですよ。むしろ、わたしは参考にしたいからもっと出てきてほしい。
まだ、書店員さん(匿名)だけですがイベント案内やうちの気合のはいった本棚を見てくれ!なんて形でリアル書店さんとも組んで一緒にやっていきたいと考えてます。電子書籍に読者が流れるだけでなく、リアル書店・書店員も盛り上がるようなメディアを作っていきたいので興味のある方はぜひ、お問合わせからご連絡ください。ちゃんと売上に応じてお金もお支払します。

注意事項:Kindle本の価格は随時変更されています。また、本サイトでは購入された書籍や内容についての責任は持てません。ご購入の前にAmazon上の価格・内容をよく確認してください。良い価格で良い本を。きんどるどうでしょうでした。

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