『妖精作戦』はじめて「この世界に入りたい」と思った

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どうもこんにちは、小説屋の神野オキナ です。「あそびにいくヨ!」「疾走れ、撃て!」とかが代表作で、最新作は「エルフでビキニでマシンガン!」「リラム〜密偵の無輪者〜」となっております。

さて小説屋が名作をご紹介する企画第3回目は「僕らはどういう小説を書きたいか」というものを具現化して見せて下さった方です。そういう意味では「スレイヤーズ!」の神坂一先生と並んで今現在のライトノベル業界への影響は大きいでしょう。笹本祐一先生の「妖精作戦」です。

当時の私にしてみれば、菊地秀行先生が10歳以上年齢の離れた、バリバリに面白くって頭の切れる従兄弟のエリート商社のお兄さんだとしたら、夢枕獏先生は温厚で優しい、でもどこか厳しさのあるその友人の市役所の新人職員、そして朝松健先生は一見気むずかしいように見えて、懐に入ればしょっちゅうこちらを笑わせたり驚かせたりする学校の新人先生、という感じでした。

その後、ソノラマ文庫80年代第二世代、とでも言うべき「お兄さん」な世代の作家たちの筆頭が笹本祐一先生でした。ほぼ同時期ぐらいに「ソルジャークィーン」シリーズの高峰龍二先生などが続いていきます。

恐ろしいのは第一世代が消え去ってから第二世代が出てきたのではなく、この両世代はかなりの長い間重なり合っていたということ(あくまでも私の印象なので、どこまで本当かは確認できませんが)。

第一世代が当時中学生の私にとって「社会人2年生」ぐらいの距離感だとしたら笹本先生たちは「大学のお兄さんたち」でした。中でも笹本先生はバリバリ理系の人で、それでいて語り口は面白いという…………まあどういう中身かはこれからご紹介しましょうか。

はじめて「この世界に入りたい」と思った 笹本祐一『妖精作戦』

妖精作戦

笹本 祐一 (著), D.K (イラスト)
価格:648円 21%OFF+20%ポイント還元 Unlimited読み放題対象
★★★★☆ 22件のレビュー

夏休みの最後の夜、オールナイト映画をハシゴした高校二年の榊は、早朝の新宿駅で一人の少女に出会う。小牧ノブ―この日、彼の高校へ転校してきた同学年の女子であり、超国家組織に追われる並外れた超能力の持ち主だった。彼女を守るべく雇われた私立探偵の奮闘むなしくさらわれてしまうが、友人たちは後を追い横須賀港に停泊する巨大原潜に侵入する。歴史を変えた4部作開幕。

ふらっと入った古本屋に、何故か新刊の状態で入っていた「妖精作戦」を読んだ時の衝撃は忘れられません。初版だったので、最初は随分と70年代な表紙絵で、中の挿絵もなかったと思います。

軍事とメカニックの蘊蓄、そして王道無敵のボーイ・ミーツ・ガール物語。転校生の少女(少年)と普通の少年(少女)の出会い、そして転校生の少女の秘密とそれを追う「大人たちの組織」との攻防戦……実はこれは三瀬龍先生や眉村卓先生が開拓した「少年少女ジュブナイル」と呼ばれる路線の定番パターンです。

有名な所で言えば「ねらわれた学園」「時をかける少女」がこの典型といえるでしょう。

この手の話というのは大抵世間に知られることなく、そのご町内で決着が付いてしまい、世界は何事もなく、転校生は去り、全てが「なかったこと」となって主人公はあれは夢だったのかもと思いながら日常に戻っていくというのが定番でした。

ところが、これはそうじゃなかった。

主人公は少女を追って月面基地まで飛んでいって、仲間たちと大騒動を繰り広げ、少女を救う。敵の組織も漠然とした「大人の組織」というものではなく、目的は明白でむしろ「正義の味方」に属する類い。

さらにそれを嘘だらけにしないために主人公側にも味方が着いてくれる。モーガンプラス8、かっとびトレーシー(当時あった50CCスクーター)などメカニカルへの蘊蓄はデータの羅列ではなく、実際にそれを弄ったことのある人の持ち得るリアリティ。

そして物語の語り口はスピーディで無駄はなく、情緒に流されることなく、それでいて明るく、楽しい!何度も読み返しました。

やがて本がボロボロになるころ二作目の「ハレーション・ゴースト」が出て、当時アニメファンにとって期待の新人(!)だった押井守監督の「うる星やつら・ビューティフル・ドリーマー」の「終わらない学園祭前日」の空気が小説で再現されていることに驚愕し、完全にのめり込みました。

こんな形で普通の(というにはちょっと変わった人もいますが)高校生が世界を舞台に、そして大人の「組織」を相手に大立ち回りという物語はこれまでなかった。

何度も読み返して、「この世界に入りたい」と願いました。小説では初めてのことです。これまで「もっと長く彼らを見ていたい」と思う事はあっても、その中に素の自分のまま入っていきたいとは考えたコトはありませんでした。

…………そして、時は流れてン十年後、何の弾みか、ふとしたことで小説家としてデビューし、さらにデビューし直して、神野オキナとして色々なジャンルをやろうと思った時、自分なりの「妖精作戦」が書きたいなあ、と思ったことが拙作「南国戦隊シュレイオー」と「あそびにいくヨ!」のコアになり、魔法、魔術の描写の根源には「逆宇宙ハンター」が。「何をぶち込んでも構わない、アクセルは踏むものだ」という感覚からくる色々な素材の複合使用のセンスを「吸血鬼ハンターD」などの菊地秀行作品群から与えられたといってもいいでしょう。

これからの季節、「ラノベ」が登場する以前の歯ごたえのある読み物、ということで挑戦してみられるというのも面白いと思いますよ? 当時の風俗や若者の言葉や心の流れがどれくらい今と違うか、違わないか、そういうことも含めて楽しめる優れた作品群だと思います。

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ここで紹介したとおり、全作品Kindleにて販売されております、どうぞ「その当時」の息吹溢れる作品群を見て、さらに「今」の各先生方の作品にも手を伸ばされますように、と祈っております。 ……あ、ついでにで結構ですので、うちの作品も読んでいただければ本当にこれに勝る幸いはありません。

それでは皆さん、ごきげんよう!

この記事を書いた人:神野オキナ Twitter

エルフでビキニでマシンガン!

神野 オキナ (著), bob (イラスト)
価格:580円 14%ポイント還元*
★★★★* 3件のレビュー

卒業まであと一年というある冬の日、俺は親戚連中の理不尽な強権で高校を転校することになった。最後の別れをと、いつも放課後に顔を合わせていた不思議な雰囲気の漂う美人の先輩と言葉を交わして教室を出ると(……)次の瞬間―!?純真無垢なエルフ軍団がビキニ姿でマシンガンをぶっ放す、前古未曾有の異世界召還グラディエーター遂に登場!ヒー・ハーッ!!

リラム ~密偵の無輪者~

神野 オキナ (著), 西E田 (イラスト)
価格:750円 29%ポイント還元
★★*☆☆ 3件のレビュー

王も国も意味を失って崩壊した世界。かつて国を為した組織は経済集団と定義され「圏“エスティズ”」と呼ばれるようになっていた。東にあるヒウモト圏の継承第二位のレイロウは自らその権利を放棄したにもかかわらず、頭脳の冴えゆえに、第一位主である兄からは却って疑われてしまい(……)いまだ兄の殺意が貿易商の形となって伸びてくる。ある日、レイロウはマリエイラから、圏が侵略の危機にさらされる前にと、ヒウモトとの外交補佐に紛れた諜報を依頼されるのだが―。

南国戦隊シュレイオー 上 神野オキナ・ベストシリーズ

神野 オキナ (著)
価格:107円 20%ポイント還元
★★★★☆ 2件のレビュー

空中に浮かんで必殺技を繰り出している白銀の騎士と奇怪な鬼を、飛行中のジャンボジェット機から目撃したのが、すべての始まりだった。多少の霊能力はあるが、マンガ好きの平凡な高校生にすぎない御鏡旅士は、こともあろうにその白銀の騎士、すなわち仙術機=巨大ロボットのパイロットにスカウトされてしまったのだ。

著者プロフィール

1970年沖縄生まれ、在住 1995年別名義で作家活動を開始 1999年神野オキナに改名、
「かがみのうた」でファミ通えんため大賞小説部門奨励賞を受賞
「かがみのうた」は後に「闇色の戦天使」に改題されてファミ通文庫で刊行(現在絶版、元タイトルに戻しての電子書籍化予定)
ソノラマ文庫「南国戦隊シュレイオー」で初のコメディに挑戦(現在マイナビ文庫より電子書籍化)。
2003年MF文庫で「あそびにいくヨ!」第一巻刊行。以後、漫画化、アニメ化されて本編全20巻、外伝4巻の代表作となる。現在も精力的に活動中。
Amazon 神野オキナ 著者ページ

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