書店員・山田が読んだいつまでも余韻が残った新刊小説4作品

1612202
こんにちは、某チェーン店の書店に勤務する24歳・山田です。

今回、2回目の記事として、11月の新刊で、実際に読み終えた本から『いつまでも余韻が残る作品』というテーマでオススメをご紹介いたします。

ミステリから2作、米澤穂信の古典部シリーズ最新作『いまさら翼といわれても』、『盤上の夜』の宮内悠介が描く囲碁ミステリ『月と太陽の盤 ―碁盤師・吉井利仙の事件簿―』。それぞれ日常の謎や囲碁を通して浮かび上がる心情は美しく、登場人物たちの喜びや悲しみに心動かされてしまいます。

また『六番目の小夜子』や『夜のピクニック』で有名な恩田陸のホラー『私の家では何も起こらない』。幽霊の気配がする屋敷を舞台に、あるはずもない恐怖に飲まれ、幽霊よりもおかしくなっていく人間たちの姿が描かれます。

最後に食を巡る旅路を描いた希の『妖姫のおとむらい』。妖怪と人間の2人が旅の中で、絶品料理と幻想的な風景に出会っていくライトノベルです。

4作とも頭の中に作品世界が広がり、キャラクターや物語にじっくり浸れる作品です。

書店員がオススメする注目本

『古典部シリーズ』最新刊。奉太郎、えるたちのそれぞれの転機を描いた短編集。

いまさら翼といわれても【電子特典付き】

米澤 穂信 (著)
価格:1,480円 15%ポイント還元
★★★★* 34件のレビュー

神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。 夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘―― 折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは?(表題作)(……)〈古典部〉4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。 電子書籍限定、直筆コメント&サイン特典付き!

本作は4人が所属する古典部を舞台に、折木奉太郎が日常の謎を解いていく古典部シリーズの6作目。小さな謎を通して、キャラクターたちの心情が浮かび上がる短編集です。

主人公、折木奉太郎は省エネ主義の高校生です。“やらなくていいことはやらない。やらなきゃいけないことは手短に”をモットーとする彼ですが、些細なことに興味を持ってしまう千反田えるや自称データベースの福部里志、気が強い漫画部員の伊原摩耶花によって、なし崩し的に謎を解いていきます。

本作もその展開は変わらず、それぞれが抱える謎に挑戦していきます。生徒会選挙で票が水増しされた理由、メリットもないのに伊原のノートが盗まれた訳、責任感の強い千反田が逃げた思いなどなど、心情にリンクした魅力的な謎が現れました。読者の私が思い描く答えの一歩先を行く真相と、伏線の張り方はいつもながら見事で、終始、鳥肌が立ってしまいます。そして浮き上がる決意や転機は切なさや愛おしさを感じてしまいます。

非常に魅力的な本作ですが、それぞれの変化が色濃く描かれているため、古典部シリーズを読まれていない方にはお勧めしません。まずは未完の脚本から映画の結末を推理する『愚者のエンドロール』を推します。どの作品も魅力的なシリーズですが、特に2作目の『愚者のエンドロール』は魅力的な謎と、二転三転する真相が鮮やかな作品です。

ぜひ、古典部の彼らをお楽しみくださいませ。

碁盤と碁石が描き出す豊潤な人間模様が魅力的!

月と太陽の盤~碁盤師・吉井利仙の事件簿~

宮内 悠介 (著)
価格:1,296円 20%ポイント還元
★★★☆☆ 1件のレビュー

盤は宇宙、石は星―碁盤とは魔術の道具さ。吉井利仙は名うての碁盤師。使用する木には強いこだわりがあり、一年の大半を山を渡り、木を見て暮らしている。人呼んで「放浪の碁盤師」。十六歳ながらプロの囲碁棋士である槇は、利仙がかつて棋士だったころの棋譜に惚れ込み、師と慕って行方を追いかけている。囲碁をめぐる宿命に取り憑かれたような不思議な事件の数々は、ふたりに何をもたらすのか?あとは、盤面に線を引くだけです。

本作は囲碁、特に碁盤、碁石を中心に据えた、ミステリ短編集です。主人公、吉井利仙は放浪の碁盤師。碁盤の需要が減る中で、職人としての幕を引く究極の盤を作ろうとしていました。山から山へ移動し、良い木を探しては日本中を駆け回っています。そんな彼を慕う棋士、慎や慎の友人の衣川蛍衣、碁盤の贋作師、安斎優とともに囲碁にまつわる謎と出会っていきます。

碁盤と碁石が宇宙と星に例えられることや碁盤が特殊な木材が使われていること、呪術に使われていた歴史などから事件が解されていきます。囲碁に疎い私ですが、囲碁の豊潤な世界が描かれており、ストーリーを追うにつれてその深みに入り込んでしまいました。

そして浮かび上がるのは真相と関わる人物の心情。それぞれの濃い思いはしっとりと、じんわりと心に広がりました。読了後も碁盤と碁石の奏でる音色が響いているような気さえしてしまいます。温かみと心地よさ、切なさを感じてしまう短編集でした。

謎の中心にいるのは吉井ですが、謎にかかわる人々の過去や矜持、本当の姿が浮かび上がる作品です。時に温かく、時に切ない物語をぜひお楽しみくださいませ。

ただそこにいるだけ! 幽霊よりも冷ややかな人間が浮かび上がる幽霊譚。

私の家では何も起こらない

恩田 陸 (著)
価格:560円 14%ポイント還元
★★★☆☆ 1件のレビュー

小さな丘に佇む古い洋館。この家でひっそりと暮らす女主人の許に、本物の幽霊屋敷を探しているという男が訪れた。男は館に残された、かつての住人たちの痕跡を辿り始める。キッチンで殺し合った姉妹、子どもを攫って主人に食べさせた料理女、動かない少女の傍らで自殺した殺人鬼の美少年―。家に刻印された記憶が重なりあい、新たな物語が動き出す。驚愕のラストまで読む者を翻弄する、恐怖と叙情のクロニクル。

本作は小さな丘の上にある二階建ての古い屋敷が舞台の連作短編集です。かつて仲のいい姉妹が殺し合いをし、血の海になった台所や料理人が近所の子供をさらい、食材として保存していた床下収納庫などなど。凄惨な事件の現場を多く持つ、有名な幽霊屋敷に住む“私”は平穏に暮らしていました。

そんな彼女のもとにはオカルトマニアや除霊師などは押しかけます。彼らから聞く事件やオカルト話は凄惨で、“私”の日常とはあまりにもかけ離れている恐ろしい出来事でした。しかし幽霊を求める人々は彼女の暮らしを信じず、幽霊屋敷を暴こうとしていくのです。

幽霊の気配が漂う屋敷で、平穏な日常を暮らす人や幽霊を求めていく人々のゾッとする心情、体験を描きます。本作は幽霊よりも周りの人々が恐ろしいホラー作品でした。幽霊は短編にもよりますが、基本的に気配がするだけです。それなのに屋敷の雰囲気や過去の出来事が重なり、恐怖が増長されていきます。静かでありながらしっとりと湿った文章に、私はいるはずのない幽霊たちの気配を感じ、何度も振り返ってしまいました。

今まで出会ったことのない幽霊の描き方でありながら、どこまでも恐ろしい短編集をぜひお楽しみください。

ひらりふわりと躱し合う2人の妖艶で幻想的な食の旅路。

妖姫のおとむらい

希 (著), こずみっく (イラスト)
価格:637円 20%ポイント還元
★★★★* 4件のレビュー

り。そうして青年は、ときどき発作的に訳のわからない食欲を妖姫にもよおしたりもして。「風鈴ライチの音色」「焼き立て琥珀パンの匂い」「ツグミ貝の杯の触り心地」「ホロホロ肉の歯ごたえ」。全四篇からなる幻想的な旅と奇妙な味覚の数々。そして二人の旅はゆるゆると、続く―。

本作は同じ場所にいると味覚、嗅覚が失う奇病に罹った主人公と、妖怪の姫が食を巡る旅物語です。一か所に留まっていると食の喜びを失ってしまう主人公、比良坂半は旅の中で、不可思議な空間に迷い込みました。風景を映し出す雲母に、色を付けていく魚たち。

いつもいる世界とは異なる出来事の中で、妖艶な美少女、妖姫と出会います。妖艶で人あらざる魅力を持つ彼女に、比良坂は魅了され、彼女を食べたいと襲い掛かるのでした。

本作は比良坂と妖姫の掛け合いが面白く、幻想的な風景が広がる魅力的な作品です。古風でありながらコミカルな文体は、美しく儚い世界の中で2人が手を取り合うような不思議な世界観を描きました。食欲を刺激され襲い掛かる比良坂と、岩に潜り込んだり、ばらばらと崩れたりして、躱していく妖姫。熱烈な比良坂の求愛も最終的には食べさせてくれとなり、妖姫は呆れながら窘めます。奇妙な掛け合いに翻弄されながらも、私の手は止まることなくページを捲っていました。

そして2人は様々な風景に出会いながら舌鼓を打っていきます。優美さと官能が混ざりあう、食事をしていくのです。不思議な読み味の旅物語をぜひ味わってみてください。

おわりに

というわけで、4作をご紹介させていただきました。ミステリとホラー、ライトノベルとそれぞれ趣向の異なる作品だったかと思います。よろしければ、ぜひお手に取ってみてください。また他の新刊に関しても読み次第、ご紹介させていただければと思います。なにとぞ、よろしくお願いいたします。

この記事を書いた人:山田摩耶

某チェーン店の書店に勤務する24歳。面白そうな本が来ると、レジ打ちの間にタイトルを控える日々を過ごしています。

また書店員の傍ら、ライターもしております。『このライトノベルがすごい!』(宝島社)や『本格ミステリ・ベスト10』(原書房)などの寄稿経験もあり、ホンシェルジュというサイトで本を紹介しております。随時お仕事を募集しておりますので、入用でしたら @m_y_mdまで何なりとお申し付けください。


この企画について:匿名書店員さんによるキュレーションをやろう

キッカケはこちらの記事『電子書籍をリアル書店への拡販と書店員の副業に活用する新メディアプロジェクトの協力者を募集します』で、電子書籍からリアル書店への誘導。もしくは書店員さんの副業として活用できないかなと。
現在、4名の書店員さんからお申し出をいただき、しばらくきんどうで記事掲載後新たなメディアを立ち上げる予定です。
思うにね、本のプロである書店員さんの専門知識はネットでもっと読みたいし、それはお金になる分野なんですよ。むしろ、わたしは参考にしたいからもっと出てきてほしい。
まだ、書店員さん(匿名)だけですがイベント案内やうちの気合のはいった本棚を見てくれ!なんて形でリアル書店さんとも組んで一緒にやっていきたいと考えてます。電子書籍に読者が流れるだけでなく、リアル書店・書店員も盛り上がるようなメディアを作っていきたいので興味のある方はぜひ、お問合わせからご連絡ください。ちゃんと売上に応じてお金もお支払します。

注意事項:Kindle本の価格は随時変更されています。また、本サイトでは購入された書籍や内容についての責任は持てません。ご購入の前にAmazon上の価格・内容をよく確認してください。良い価格で良い本を。きんどるどうでしょうでした。

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