こんにちは、リアル書店員のケス・ノングです。
さて、Kindle本のセールがまた始まりましたね。「春のフェア」というとてつもなく漠然としたフェアで、価格が下がっているものや、価格がそのままでポイント還元が大きいものなどが混在した、これまたざっくりとしたセールです。
このつかみどころのないセールから、ケス・ノング的おススメをピックアップしたのでよろしければご覧ください。単品のおススメと、後半は今回のセールに多い合本のおススメです。
殺戮にいたる病
綾辻行人の「十角館の殺人」で幕開けした新本格ミステリの時代。クラシカルな謎解きを、現代的な意匠でアップデートし、ライト層も取り込んで大ブームとなりました。我孫子武丸は、その綾辻行人の京大推理小説研究会における後輩。当初はコミカルタッチのミステリを書いていたが、この「殺戮にいたる病」でその本性を現しました。
なんと冒頭でネタバレします。犯人の名前は「蒲生稔」です。
さあ、真犯人の名前から始まる本格ミステリ。驚愕の展開が待ち受けています。なんとセールでたった378円。こんな値段でこの驚きが味わえるなんて…。今から読む人がうらやましすぎます!!
人狼城の恐怖 第一部ドイツ編
原稿用紙にして4000枚、「世界最長の本格ミステリ」を謳う四部作。紙だと超分厚い四冊ですが、Kindleだとかさばりません(当たり前か)。
事件が起こる「ドイツ編」「フランス編」を経て、名探偵二階堂蘭子が三作目「探偵編」になってようやく登場し、なんと四作目「解決編」は文字通り一冊丸ごと解決編。
無数の伏線が仕込まれており、「そうだったのか!」「え、まじで!」と驚くこと多々ありますが、やはりメイントリックのあれがすごい。この大ボリュームにふさわしい大トリック炸裂です。四冊まとめて買ってもたった1620円。ああー、これまた今から初めて読む人がうらやましい!
続 聞き出す力
さて、打って変わって一気にサブカルです(笑)。
大ベストセラーになった阿川佐和子の「聞く力」。それに対抗すかのごとく、職業「プロインタビュアー」を名乗るライター・吉田豪の、グレイシー一族の如く一瞬のスキをついて対象の懐に入っていくその技術はまさに「聞き出す力」。聞き出すだけではなく、アントニオ猪木の風車の理論の如く、相手のすばらしさをこれでもかと引き出します。
それもこれも、事前準備がしっかりしているのと、付け焼刃にならないための普段からの刀の鍛え方が素晴らしいからです。その秘訣が書かれているだけでなく、純粋に読み物として非常に面白い。
これも安すぎます。続編もマストバイ!!
合本 11/22/63【文春e-Books】
合本もたくさん安くなっています(ポイント還元ですが)。
この本は以前にもおススメしたことがあるのですが、面白すぎるので何度でもおススメします。
ある教師が偶然見つけた「扉」からタイムスリップする。目的は、ケネディ暗殺の阻止。いや、これだけ書くと本当に陳腐な話なのですが、そこはキング。魔物のような筆力で、とにかく「今日はこの辺でやめよう」と思わせてくれない。ただひたすらに面白い。キャラクター造詣の深さと、登場人物の多さが、作品世界を立体的に形作り、出てくるエピソードの一つ一つにとにかく泣かされ、いつまでもいつまでも読んでいたいと思わせる名作です。
文庫本なら全三巻ですが、合本版は2800円の1400ポイントバック。絶対に面白いです!!
合本 悲しみのイレーヌ その女アレックス 傷だらけのカミーユ【文春e-Books】
おお、こんなシリーズまで合本になっていたのですね。日本ではまず「その女アレックス」が邦訳され、監禁された女性の脱出劇と思いきや、二転三転するストーリーの面白さに「このミステリーがすごい!」第一位、「週刊文春ミステリーベスト10」第一位、本屋大賞翻訳部門第一位と、これ以上ないほどの栄冠を手にしました。
しかし、作中語られるエピソードが、単純に主人公の過去の設定というよりは、妙に具体的で、もしかして…がーん、やはりなんとこれはシリーズ二作目であり、一作目に起こった話をしていたのでした。
その後一作目、「悲しみのイレーヌ」が邦訳され、おいおいこれまためっちゃおもしれーじゃねーか、なんでこれから出さないんだよ!とファンは怒り、すみませんとばかりに三作目「傷だらけのカミーユ」が出版されたわけです。
そんなわけでこの合本を買えば、シリーズを正しい順番で読むことができます。ああ、そんなあなたがうらやましい!! 2600円の、1300ポイントバックです。
平野啓一郎「分人」シリーズ合本版:『空白を満たしなさい』『ドーン』『私とは何か―「個人」から「分人」へ』
これは面白い合本の作り方。電子書籍ならではです。「ドーン」「私とは何か」「空白を満たしなさい」の三作が入っています。
「分人(ぶんじん)」とは、平野啓一郎の提唱する概念で、「個人」に対置されるものです。個性は一人に一つのものではなく、家族に対するもの、友人に対するものなどで別の個を人は分け合って持っている、という思想であり、これをテーマに書き上げた小説が「ドーン」です。まずはこれから読むのがいいでしょう。
そしてこの思想をよりわかりやすく解説したノンフィクション「私とは何か」をはさんで、再びこのテーマで挑んだ小説「空白を満たしなさい」を読みましょう。
京大在学中に芥川賞を受賞し、その著作も難解なイメージがありますが、この分人シリーズが面白いのは、「分人」という思想テーマを表現するにあたり、採用されているのが非常にエンタメなガジェットであるということです。
「ドーン」は火星探査が舞台であり、これはもうれっきとしたSF、そして「空白を満たしなさい」にいたっては、なんとゾンビものです(笑)。 テーマとしっかりリンクさせながらこういった設定を使いこなす技術が素晴らしい。2700円の1350ポイントバックです!
いかがでしたか? 今回のセールは幅広くて、少し脈絡のないセレクトになってしまいました。でもまだまだ紹介したい本があります。セールが終わるまでに何とかもう一度おススメを書きたいと思います。こうご期待!
この記事を書いた人:ケス・ノング
某チェーン書店で文芸書・文庫を担当。自分は人に薦めるくせに、人に薦められると読みたくなくなる天邪鬼。昔は年間300冊は読んでいたが、年々集中力が衰え今は年間80冊くらい。
Amazonプライムのおかげで映画やドラマも見てしまうので全然時間が足りなくて一週間が四週間くらいあればいいのに、とかバカなことばかり考えているからよけい本が読めないという悪循環に陥りがちな中年真っ盛りです。
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