80年代カルチャーてんこ盛り『アニウッド大通り』の魅力を大きな声で伝えたい

記伊孝『アニウッド大通り』応援企画!フリー編集者『松浦恵介』さんから書評を頂きました
1502022「きんどう」をご覧の皆さん、はじめまして! フリー編集者の松浦と申します。普段はゲーム関係の雑誌やムックの編集を請け負ったり、記事を書いたりして生活しております。
このたび、ニコニコ静画等で連載され、KDP(Kindleダイレクトパブリッシング)で出版された『アニウッド大通り(ブルーバァド)』の1〜3巻半額キャンペーンと、『物理書籍化』第3巻が発売間近ということで、勝手ながら1ファンとして応援のレビューを書かせていただきました!
「きんどう」をご覧になっている方々には説明不要かと思いますが、本作は1980年代を舞台に、アニメ監督一家を中心とした群像劇。「アニウッド」は「アニメ」と「ハリウッド」を組み合わせた造語です。変わり者のアニメ監督・真駒和樹(おとたん)、その妻で看護師の美幸さん(おかたん)、二人の子供である樹貴くんと園ちゃんの日常や、創作活動を中心に話が展開されます。

マニアックなアニメネタ、80年代カルチャーてんこ盛り!『アニウッド大通り』の魅力を大きな声で伝えたい

『アニウッド大通り』が含むさまざまな魅力

本作の面白さを支えている要素は多数ありますが、中でも有力なのは以下の3つがしっかりと描かれるていることでしょう。
[1]作品を作ることの楽しさ、困難さ
[2]1980年代当時の時代風俗
[3]魅力的な登場人物たち

中でも最も重要なのは[1]でしょうが、クリエーター漫画としての面白さはほかのレビュアーの方々が語るでしょうから、本稿ではほかの要素について紹介していきたいと思います
Kindle版や、物理書籍版の既刊までをお読みになった方は、本作のヒロイン的位置づけのキャラである實好ミカコさん(以下サネヨシさん)にメロメロになっていますよね。なっているはずです? なってください!

13年の2月から某漫画投稿サイトにて連載開始し、4ヶ月で11万再生の話題作。 マニアックなアニメネタ、80年代カルチャーてんこ盛りのほのぼの漫画。 2015年「このWEB漫画がスゴイ」にて紹介されました。 あとがきには、作者が、宮崎駿監督の元で演出を勉強した 「東小金井村塾物語 巨匠と過ごした夏」もたっぷり加筆! ほかにも未発表4コマもたくさん収録されています。 全142p

最強の助言女子・サネヨシさん

1502022a本作の中心人物の一人は、真駒家の長男・樹貴くんです。樹貴くんはジャポニカ学習帳に『フンバルカン』シリーズというオリジナル漫画を描き、小学校のクラスで人気者になっているのですが、そんな彼に突っかかってくるのが、同級生の女の子・サネヨシさんです。

ファーストコンタクトはなかなか強烈です、樹貴くんの描いた『フンバルカン』の幼稚な内容に痛烈な批判文を投げつけてきます。

当然ながら、樹貴くんは最初はドン引き。小学生の男の子が、自分の漫画について同級生の女の子からからみっちり長文の批判などもらおうものなら、普通は「怖い」と思うものです。ヘタしたら泣かされますからね。

最悪な第一印象のサネヨシさんですが、いずれは自分も漫画を書きたいと思っています。手塚治虫『アドルフに告ぐ』のような高尚な作品を目指しているようですが、構想と気持ちばかりが先走って、制作には移れていないようです。

サネヨシさんは熱狂的なアニメファンであり、アニメ誌に批評を投稿し、業界関係者の間では噂の的になっています。当時のアニメファンにとっての憧れだった雑誌『ファンロード』にはがきを投稿することもあるようですが、こちらはいままで採用されたことはないよう。

アニメ批評では小学生とは思えない批評眼で評判になっている彼女ですが……業界関係者の間で噂になっている彼女ですが、クリエーターとしての才能はいま一つのようです。

樹貴くんの漫画についつい突っかかってしまうのは、『フンバルカン』のくだらなさ以上に、彼女にはない創作に対する強い衝動と瞬発力を持っている樹貴くんへの対抗心なのでしょう。

アニメファンである彼女にとって、アニメの製作者はヒーローです。中でも一番のお気に入りは真駒和樹監督!

作中でおとたんが過去に作った自主制作映画を見ると、トーマス・M・ディッシュ『334』や小松左京『日本アパッチ族』といったSF作品の名前が出てきます。また、クトゥルー神話をモチーフにした企画書を立てようとしている描写があったり、子供向けアニメの企画としてキース・ローマーのドタバタSF『突撃!かぶと虫部隊』を翻案したアニメをつくろうとしているところを見ると、ハイブロウな作風であることが推測されます。

このあたりのセンスが、背伸びをしたいサネヨシさんにとってはドストライクなのでしょう。そして、それゆえに息子の樹貴くんが描いている幼稚な漫画には一言(全然一言じゃないですが)言わないと済まないといったところでしょうか。

合言葉は「助言女子はすばらしい!!」

作中で描かれる、サネヨシさんの樹貴くんへの言動は、全般的に屈折しています。

無意識の好意や憧れ、羨望、ライバル意識、一種の戦友意識のようなものがないまぜになった感情から発せられる彼女の言動は、時に理不尽で、時に正鵠を得ていて、またチャーミングです。

最初は彼女の強烈な批判にドン引きしていた樹貴くんも、最近ではまんざらでもなさそうです。彼は同級生の春野さんという、優しい美少女に好意を抱いているようですが……。

ちなみに、物理書籍版の1巻が刊行された際、熱血漫画家の島本和彦さんが帯コメントに「助言女子で男子クリエーターは育つ!! 助言女子すばらしい!!」というサネヨシさんバンザイな一文を寄せています。

繊細で賢くて生意気で、でも根っこは素直で誠実な女の子が好きな女の子って素晴らしいですよね、島本先生!

細かい描写から見えてくるキャラクターの内面

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さて、このまま終わるのも何なので、少し蛇足じみたことを書きます。

本稿のはじめに、『アニウッド大通り』の魅力の一つに、当時の時代風俗の姿が描かれていることを挙げました。これがね、本当に面白いんですよ

例えば、サネヨシさんが読んでいる雑誌の表紙一つとっても、細かく見ていくと楽しいんです。

物理書籍版2巻、Kindle版3巻で、サネヨシさんがアニメ雑誌を買い込んでくるシーンが有ります。このときの彼女の嬉しそうな表情がいいんですが、それはさておき、雑誌に注目するといろいろなことが見えてきます

このとき、サネヨシさんが買ってきた雑誌で、確認できるのは『アニメージュ』『マイアニメ』『ファンロード』の3誌。ここで彼女が彼女が新刊として読んでいる『ファンロード』は『バオー来訪者』が表紙であり、おそらくこれは1986年5月号。このことから本作の作中時期は1986年春ではないかという推測が成り立つ……といいたいところですが、他の描写からすると1984年前後と見るのが妥当なように思われます(アニウッド世界は我々の世界とは少し時間の流れが異なるようなので、あまり細かく見るのは野暮というものでしょうけど、それはそれ)。

さて、ここで他の雑誌の表紙がどうなっているかと言いますと、『アニメージュ』を見ると、表紙が『うる星やつら』。こちらはおそらく1982年10月号です。また、『マイアニメ』の表紙は『ミンキーモモ』で1985年7月号と思われます。すべて同じ時期の新刊雑誌と思ったら、よく見ると刊行時期がバラバラ! アニウッド世界の時系列が現実世界のそれとは異なるとはいえ、かなりのバラつきがあることが見て取れるんですね。

この配置、どこまで作者の記伊さんが意図されたのかは分かりませんが、描かれているものを素直に受け取ると、「サネヨシさんは新刊アニメ雑誌を買うときに、古いアニメ雑誌のバックナンバーも買っているのでは?」という読みも可能です。

何気ないシーンに見せかけて、バックナンバーの取り寄せ、もしくは古本屋漁りをしちゃうサネヨシさんの濃いオタクぶりが描写されているわけです。やるなサネヨシ!(くどいようですが、記伊さんがどこまで意図しているかは分かりません。あくまでそう読める、というだけですよ! しかし、Kindle版6巻で描かれたサネヨシさんの自宅の蔵書に、現実世界では1980年に発行された『ファンロード』の創刊号がちらりと出てくるので、この読みは案外、的を外していないじゃないかな? と思います)

雑誌の描かれ方から、キャラクターの思考や内面が伺えるシーンはほかにもあります。

アニメ制作会社を辞め、無職になったおとたんが少女漫画を読んでいるシーンもそうです。このとおき、おとたんが持ってきた『りぼん』(表紙は『ときめきトゥナイト』)は1983年4月号、『なかよし』(表紙は『おはよう!スパンク』)は1980年10月号と思われます。

うーん、やけに古い。真駒家は一時期まで子供に漫画を読ませない家庭だったというのは、作品の最初のほうで描かれているので、おとたんがここで少女漫画雑誌を持っているのは「やけになって好きなモノを読みたくなったけど、無職になった肩身の狭さから、新刊は買えず、古本屋で買ってきたのかな?」という推測を立てられます。

読み返すたびに新たな発見がある『アニウッド大通り』

1502022c
ここでは雑誌に例を絞って挙げましたが、『アニウッド大通り』には、細かい時代風俗描写でキャラの内面を表現したと思われるシーンが無数にあります。

一度ざっと読んだあとで、細かい描写を見なおしていくと、「ここでこのネタを出してきたのは、こういう意図だったのかも!?」という発見があったりします。

これから本作に触れる人には、ぜひ気を付けて見て欲しいのですが、既読の方も再読してみると新たな驚きに出会えると思います。

あまり注視しすぎると、「ここが現実世界とは違う!」といったような粗探し的な読み方になっちゃうと作品が素直に楽しめなくなるので、あまり細かく見過ぎるのも良くないのですが

さて、長くなりましたが今回はこのへんで!皆さんによき読書生活が訪れることを願いつつ、筆を置きます。それでは!

この記事を書いた人:松浦恵介 @korenkan

松浦恵介。1980年3月8日生まれ。岡山大学大学院文学研究科修了。現在の職業はフリー編集者。ゲーム関係の雑誌やムックを中心に、編集やライティングをして暮らしています。
YESTERDAY’S NEWS d.hatena.ne.jp/ragerun/

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