【書評】「セームセーム・バット・ディッファレン」八幡謙介(著)/文句のつけようがない見事な構成の小説

この記事はKindle作家”藤沢裕之”さんからゲストポストいただきました
セームセーム・バット・ディッファレンこんにちは、藤沢裕之と申します。
書評をメインとしたブログをやりながら純文学と詩をテーマにした電子書籍を書いております。
今回はわたしが読んだKindle本で、良いなぁと感じた八幡 謙介さんの「セームセーム・バット・ディッファレン」について書評をしたためましたので、きんどるどうでしょうさんの場をお借りしてご紹介いたします。作品紹介としての感想と、私自身も執筆をしているので、本書の見所や感想を紹介しつつ、物書きとしての感想をお話しします。

セームセーム・バット・ディッファレン/作品紹介

さて、本作の内容です。この作品はカンボジアが舞台となってます。カンボジアを旅行する日本人バックパッカーのお話ですね。バックパッカーの主人公と言っても。 実は今回のカンボジア旅行が初めての体験で、大学の先輩のアドバイスを受けながら恐る恐る旅に出かけます。そして、この本の主題として、この主人公の性格が、〝いい人〟という事があげられます。小説も〝いい人〟であるが為に彼女にフラれるくだりから始まります。その所謂〝いい人〟がカンボジア旅行で何を感じるのか? と言うのが、面白いところです。
また、ロードムービー的にカンボジアの観光名所が綴られており、ちょっとした旅行体験ができます!

本書の見所
「アジア独特の喧騒や、湿った雰囲気を感じ取れる」

作品を読む中で思ったのは、カンボジアの文化に対する愛です。この作品を読んで、正直、私も行ってみたいなと素直に思いました。アンコールワットを代表する遺跡群や、しつこいくらいの客引きの現地の人達。日本に居る限りはわからないオリエンタルな文化をこの作品では体験できます。
今の日本人は、細かいところばっかり気にしすぎちゃって、面白味にかけるんですよね。政治とかもそうです。細かい事は良いんです。大局を動かしてほしい。この作品で感じるカンボジアには、良い意味でのおおらかさを感じますね。ついこの前までの日本も同じ様な感じだったはずなのに……。
話がそれました。そういったアジア独特の喧騒や、湿った雰囲気を感じ取れる作品だと思います。

で、私の書評の本題にはいります。ここから先は、物書き目線です。
この作品、正直言ってすごくよく考えられているし、構成なんかは教科書に載せたいくらいです。所謂〝起承転結〟もしっかりしていて、無駄がない。適切な場所で、適切な読者に対しての情報提供、および転調ができていて、文句のつけようがない。自作小説を書かれる方は読んでおいて損はないと思います。
また、「セームセーム・バット・ディッファレン」というタイトルもよいですね。作中でその言葉が出てきますが、この言葉、非常にアジア的なおおらかさを感じて、この作品をよくあらわしている気もします。
いつも自作を行き当たりばったりで、書いている私は、感心しっぱなしでした。もっと反省せねば……。

同じ文章書きとしての感想

私がこの作品を読む中で、一番気になった点は、主人公の「良い人」の訴求力なんです。しかし、そこにもうひとつ深堀が欲しかったなと思います。この物語の核は主人公の「良い人」さ、とその葛藤なんだと思うので、少し残念です。
作中で、カンボジアで出会ったヒロイン、ジュリとのやりとりで、以下のものがあります。前の彼女との別れの理由が話題になったときのものです。

「うん、なんかわかった。ユウは、いい人すぎるんだよ。優しくて、誠実で、女の子は期待通り。ある意味理想を体現しているのかも。だから璃乃ちゃんは不安になったんだとおもう」
(中略)
「じゃあ、不良がいいってこと? 怒鳴ったり、手を出したり、自分勝手に振る舞った方が……いい?」

この主人公のセリフさえなければ、もっと僕は楽しめたのかもしれない……。
確かに良い人なのかもしれないのですが、作者が言わんとする所謂〝いい人〟って、対義語が、不良って感じのものじゃないと思うんですよね。ここでいういい人って、自分に対する自信が無い事の裏返しだと思います。嫌われるのが嫌だ、怖いとかそういう感情なはずで、主人公も、嫌われたくないから、人の意見に流されていたのではないかと。
ここが「不良がいい」という短絡的な思想で〝いい人〟を構成しているように感じたので、それ以降が少し空々しく感じました。もう少し、〝何故〟彼が良い人なのかというものに、重心を置いてもよかった気がします。多分もっと屈折した何かがあるはず。それすらもなく〝不良〟が……という主人公であれば、深みが出ない気もします。
上手くやれば、もっとそこを作品の強みにできたはずなのに、本当に本当に惜しい。
とは言うものの、ここは私の感じた所なので、そんなに気にならない人もいるかもしれません。カンボジアの熱気や文化など、そういうものに触れるにはとてもよいです。冒頭にも書きましたが、私も行ってみたいです。
ではでは、また本を読んだらご紹介しますね。

今回書評したKindle本

セームセーム・バット・ディッファレン
八幡謙介 (著)
価格:250円
評価:★★★*☆,2件のレビュー

南国の甘い熱気と清潔な空の下、ユウの前に現れる美人バックパッカー、ジュリ。二人はひょんなことから意気投合し、一緒に遺跡巡りをすることになる。ジュリに急速に惹かれていくユウ。しかし、二人が泊まるゲストハウスには、ジュリの知り合いのイケメンバックパッカー、コウスケさんが現れる。

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この記事を書いた人

藤沢裕之 Twitter @fujisawahi
藤沢と言います。現代詩と純文学を中心に執筆しています。読んだ文学作品を紹介するメルマガ&ブログ『お酒と言葉と音楽と』もやっておりますので、よろしければどうぞ。ちなみに、好きなお酒はワイルドターキーレアブリードです!


評者:藤沢さんのKindle本

神様と6月の雨
藤沢裕之(@fujisawahi) (著)
価格:180円
評価:★★★★★,2件のレビュー

「世界はいつもボンヤリとした雨で包まれている」さえないフリーターの僕のところに、少し不思議な力をもつ女の子リコが突然現れた。ひょんな事から、奇妙な神様探しをすることになった僕とリコの不思議な共同生活。

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