リアル書店で腕を奮うコミック担当書店員・通称コミタンたちが、AmazonKindleユーザー向けに新作・注目作をナビゲート。今回はAmazonKindleで12月中にに配信された新作コミックから4作品をピックアップしてもらいました。
紙と電子の垣根とかは置いておいて『面白いものはおもしろい』と積極的に盛り上げていければと今後定期的にゲストポストをいただくことになりました。各作品のレビューを通じた販売数で10人の書店員が競争します。「よーし、この切り口気に入った!」という作品はポチッにご協力頂けると喜びます。それでは以下、リアル書店員さんたちによる新作レビューをどうぞ。
-- きんどうここまで
コミック担当書店員がオススメ!いま、読んで欲しい4冊
コミック担当、それは日々書店に送られてくる新刊マンガをいち早く精査し、店頭に並べ、そして最も読者を近くで見ているプロフェッショナル。そんな各書店のコミック担当有志が日々新刊情報を発信するブログ「コミタン!」から紙と電子の垣根を超えて「これ、来るよ!」「アツい」「尊い」と心に響いた作品をご紹介します。
さて、今週紹介するのは以下4冊
・知ってるようで知らないテロリズムの世界を語る『テロール教授の怪しい授業』
・作者ならではの世界にしばし没入する快感『セイキマツブルー』
・2018年の締めくくりに発売。そして2019年マストの1冊間違いなし『パンダ探偵社』
・書店で人気の異世界系に異色のスパイス 『美食の聖女様』
カルロ・ゼン/石田点『テロール教授の怪しい授業(1)』
テロール教授の怪しい授業(1) (モーニングコミックス)
泣く子も黙るローレンツ・ゼミには、今年もそうとは知らない学生たちが集まっている。「あなたたちはテロリスト予備軍です。」予想だにしない一言に愕然とする生徒たち。脱落=テロリスト認定。恐ろしすぎる授業が始まる――。そもそもテロリズムとは何か? 日常に潜むテロの根っことは? 今までメディアで語られてきたテロ論は全部ウソ。テロ教授が教える、知るのは怖い、知らないのはもっと怖い「テロとカルト」の真実。
“この世には、目には見えない闇の住人達がいる。 奴らは時として牙をむき、君達を襲ってくる。 彼はそんな奴らから君達を守る為、地獄の底からやって来た、 正義の使者……なのかもしれない。”
話題をさらったTVアニメ『幼女戦記』のカルロ・ゼンが原作を担当!読者の脳を痺れさせる強烈な作家性は健在にして、初見の方には大きな衝撃となり病みつきになること間違いなし。
さて舞台は現代、桜の舞う季節。右も左もわからない大学1年生達が進路相談のゼミで出会ったのは、
ゼミ生をテロリスト呼ばわりする、クレイジーな教授でした。
この比較的平和な日本列島。初対面の相手からいきなり「テロリスト扱い」をされるようなことは、まずないでしょう。しかしこの教授はなぜ我々のことをそう呼ぶことができるのか、その理由の説得力たるや気づけば読者である我々ですらもテロリスト予備軍だったのかもと―――そう、これこそがテロール教授が身をもって体験させてくれること。
テロやカルトと呼ばれる領域がいかに人を取り込み、狂気に陥らせていくか、実例を交えつつ、解きほぐしていく作品なのです。
例えば・・・
アルカイダの指導者たちの最終学歴ってどのぐらいだと思われますか?
テロリズムに加担する人間に多く見られる傾向とは?
テロ組織は自爆テロを合理的な戦術と見なしているのか?
ニュースで何気なく耳にしているフレーズの内実。知っているようでまったく知らない姿の解説。ティム教授がある種の狂気にいたった過去を匂わせる描写なんかもあり、本授業に巻き込まれた生徒たちが教授の魔の手からなんとか逃れようとするコンゲーム的な部分も読みどころ。
行くも地獄、去るも地獄。ようこそ、怪しい授業へ。皆様の受講をお待ちしております。
【ひととせ】
ヒロタシンタロウ『セイキマツブルー(1)』
セイキマツブルー (ガムコミックス)
1999年7月、世界滅亡の引き金は私と私の友人だった…。鬼才・ヒロタシンタロウの初単行本は、表題作『セイキマツブルー』では紙面でも青の世界を表現!そしてpixivで公開され話題となった『怪虫の夏』も収録。
作者が描く世界に、日常を忘れてしばし浸る…。絵の力が強く、自分のテンポでページを行き戻りすることもできるマンガの魅力の一つですね。
今回ご紹介するのは、そんな夢中にさせる力の強い作品『セイキマツブルー』。驚くほど異質なのに、気がつけば吸い込まれてしまう世界設定が魅力です。
まずは冒頭間もなくこのページ。街を進む異形の怪物。
示されるのは一九九九年七の月、今は聞くこともなくなった世紀末のあの予言を導入に「世界滅亡の引き金は私と私の友人だった」という衝撃のモノローグ。この世界にいったい何が起きているのでしょうか。
3か月前、同級生の遠峯がいじめを受けているところを見かけた少女、高坂。いじめのことを以前から知りつつも、表立って助けたりは出来ないごくごく普通の少女。たまたま遠峯と二人きりになって高坂が声を掛けたとき、遠峯のスカートから姿を現していたのは異形の怪物でした。
誰にも見えない怪物を「アンゴルモアの大王」と呼ぶ遠峯。これはあまりに象徴的すぎる彼女の願いなのでしょうか。高坂と遠峯、そして大王。2人と1人(?)の日々は、穏やかに進みながらもやがて事件は起こり......。
思春期の少女達の揺れ動く感性と友情と世紀末の空気感が独特な筆致で描かれる本作。この作者にしか描けない世界を是非ご覧くださいませ。
【おおとり】
澤江ポンプ『パンダ探偵社(1)』
パンダ探偵社 (1) 電子特装版【カラーイラスト収録】 (トーチコミックス)
現代の“変身物語”開幕――!!身体が徐々に動植物に変化していきやがて人格が失われる不治の病“変身病”。パンダ化進行中の半田と学生時代の先輩・竹林は変身病に関わる案件専門の探偵業を営む。そんな彼らに舞い込む5つの依頼、その結末は…!?ヒトでなくなっていく変身病者たちの覚悟と選択、そして残された者に宿る勇気と希望の物語。
表紙でとりわけ目を引いている、パンダの顔をもつ可愛らしくも不思議な存在。彼こそが今作『パンダ探偵社』の主人公・半田くん。いったいなぜ彼の顔はパンダになっているのでしょうか……。
それは今作がもつ独特な設定「変身病」のせいなのです。変身病にかかった人間の身体は徐々に動物や植物へと変わっていきます。そして最後には人格さえも失ってしまう不治の病……。一見するとちょっと怖いストーリーを想像しそうな設定です。
しかしこの作品が描くのは、病期の進行から目を背けることのできない当人、そしてその周辺の人達を含む「人間でなくなっていく」ということに対する決意や覚悟の姿なのです。いったい何によって人間は人間であるといえるのか、という曖昧な境界線。読んだあとに浮かぶ感情は、何か人間という存在に敬意を抱くような、不思議な感覚なのです。
さて主人公の半田くん。パンダへと変わってしまう変身病によって職業を失ってしまうのですが、高校時代の先輩である竹林さんに雇われて探偵業をしています。
彼らの専門は、変身病患者に関する依頼です。
・親との関係に悩みながら、鳥への変身が進んでいく16歳の女の子
・日本の水泳界を引っ張る二人、その裏にあった変身を告発する男
・植物化していく天才ピアノ少女のコンサートに送られた爆破予告
などなど、調査対象となった人たちと半田くんを中心とした一話完結型のストーリーが展開していきます。
人間でなくなっていくことについての様々な悩みと事件が彼ら患者たちに訪れます。何より半田くん自身も変身病であり、自分自身への葛藤も感じながら探偵業をしているのです。
そんな中で出会う同じ病気の患者たち。彼らは一体どのように変身していく自分自身と向き合うのか。やがて人間ではなくなってしまう前に、残る時間が「人生」であるうちに、何を決意し、そして行動するのか。この姿の丁寧な描写こそが、半田くんというフィルターを通して読者である我々の心にも刺さってきて刺さってきて、もうなんだか堪えられなくなってしまうのです。
大げさに言えば、現実における誰かの決断の背景にもきっと色々な人生があるのだろうと想像し、もっとじっくり知りたくなる。そんな、人間に対するあたたかい目線なのではないかと感じられます。2019年を迎えてまずは見逃せない1冊であること間違いなしです。
【さましよ】
世鳥アスカ/山梨ネコ『美食の聖女様(1)』
美食の聖女様1 (レジーナCOMICS)
突然異世界トリップした、腹ペコOL・ナノハ。そこは魔物がはびこる、危険な世界だった。幸いすぐに騎士達に助けられたものの、一つ困ったことが……。出されるご飯がマズすぎて、とてもじゃないが食べられないのだ!! なんとか口にできるものを探すナノハはある日、魔物がおいしいらしいことに気が付いて――!?
書店の売場でもどんどん存在感を持ちはじめた女性向け異世界作品。今回はその中でもとりわけ爆売れの予感がする作品『美食の聖女様』をご紹介したいと思います。その予感の根拠は「異世界×ご飯」というジャンルの強さ。
食べるのがちょっと好きなだけの平凡なOLがトイレの扉1つでいきなり異世界へ迷い込む、段取りなんてショートカットの王道スタートからこの物語は始まります。
やってきたのは剣と魔法の世界。通りかかった騎士団に助けられ安心したのもつかの間。そこで出された食事はとんでもない激マズ料理。スープらしい何かの見た目はまるで泥のよう、味にいたっては下水道のソレで、ひょっとして意図的な嫌がらせかと思うほど。
しかしよくよく話を聞いてみると、魔物の侵攻に脅かされているこの世界の食糧事情は思っていたより厳しいご様子。
このままでは飢えて死んでしまう...。そんなピンチに逆転の発想、そうだ、魔物を食べてしまえばいいじゃない。でも魔物って食べれるの?まして美味しくいただくなんてどうやって?
ここで異世界系作品のお約束。異世界系の主人公は徒手空拳で迷い込んでくるわけじゃあない。今作の主人公に秘められし力、それは「魔物のおいしい部位を見極める力」。
たまたま荷物に紛れ込んでいたスナック菓子程度にも感動するような味覚のこの世界。無敵でもチートでもない不思議なスキルで世界に革命を!その果てに主人公はお腹いっぱいになれるのでしょうか。一風変わったストーリー展開にご期待ください!
【ねこまる】
以上、紙書店コミック担当者有志によるチーム・コミタン!による提供レビューでした。
来月発売のコミック新刊を語るYouTube配信や、毎週のオススメ作品を一口紹介する週刊コミタン!を更新中。新刊コミック最新中の最新情報にキャッチアップしたい方、ぜひ「コミタン!ブログ」にも遊びにきてください。
あかん、年が変わってしまう!ということでペンディングになってた配信を待たずに2019年1月の発売一覧チェックリストを公開しました。https://t.co/pA3ZpHUntV
早速上旬から期待の作品がたくさん、1巻をたくさんお届けできる一年になるといいな。— コミック担当者有志のチーム:コミタン! comitans.info (@comitans) December 30, 2018