電子書籍に二の足を踏むあなたへ|西田宗千佳のブックリスト

こんにちは、きんどるどうでしょうです。将来はじまるだろうKindleの読み放題サービス『Kindle Unlimited』に備えて、プロ・アマ問わず色んなこだわりを持つ方のオススメブックリストを頂く新企画「はじめての◯◯」をスタートいたします。

第1回目はデジタルやネットワークに強いジャーナリストの西田宗千佳さんから、最初に相応しい「はじめてKindleで読む本」をテーマに4作品を頂きました。テクニカルに強いプロが選んだ、電子書籍入門書とは。そのチョイスの妙にご期待ください。

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電子書籍に二の足を踏むあなたにオススメしたい作品

「はじめてKindleで読むのにいい本を紹介してください」そんな風にきんどうさんから依頼を受け、軽く「いいっすよ」と答えたものの、実際に選ぶとなると、ふとキーを叩く手が止まってしまった。
Kindle(まあ、他の電子書籍ストアでもいいのだけれど)といえど、本は本なのだ。どんな本を読むかは人次第。冷静になると、Kindleだから勧める、というものでもないよな、とも思うのだ。
でも待てよ。
「本は本」なのだが、そう考えると、電子書籍になることの便利さは伝わってこない。ひょっともすると、「本は本なのだから、紙だってデジタルだって同じ」だと思われているから、電子書籍で読もうと思わないのではないか、とも思う
電子書籍ならでは、なんてことにあんまりこだわる必要はない。なによりまず「読みたい!」というところから本を選んでもらって構わないのだが、それでも、「電子書籍のちょっとした便利さ」を切り口にして紹介する頃で、「へー、そうか、電子書籍もいいもんだな」と思ってもらえるのではないか、と考え直してみた。いいところがなければ、自腹でン百冊も電子書籍を買ったりはしない
というわけで、西田がオススメする「はじめてのKindle」は、「紙でもいいけど電子書籍だったからちょっとうれしかった」本にしてみることにした。こんな視点で買ってみると、電子書籍には入りやすいかもしれない。

「合本」は電子書籍の華だ

まず1冊目は、上橋菜穂子さんの小説「獣の奏者」。それも、本編4部と外伝の計5巻をセットにした「合本」である。

獣ノ医術師の母ソヨンと暮らす少女エリン。闘蛇を死なせた咎で処刑される直前、母は不思議な指笛で娘の命を救う。母と同じ道を志したエリンは、傷ついた王獣の子リランに出会う(……)世界中で愛される、苦難に立ち向かう少女の物語。新たなる時代を刻む、日本ファンタジー界の金字塔を合本で。

上橋菜穂子さんはファンタジー小説の第一人者であり、「鹿の王」が2015年本屋大賞を受賞したことでも知られている。もっとも知名度の高い作品は、アニメにもなり、2016年春からはNHKでドラマ化も予定されている「守り人」シリーズだろうか。「獣の奏者」シリーズは、「守り人」と並び、上橋さんの代表作。「闘蛇」と「王獣」という2つの獣の間で翻弄される、主人公・エリンと彼女が暮らす世界を描いた物語だ。独特の世界観とその生態系が解き明かされていく興奮に溢れている。

「物語は終わらないのが理想」と書いたのは栗本薫だったと記憶しているが、「獣の奏者」も、読み終わりたくないと感じた物語の一つだ。筆者が出会ったのはまだ紙版しかなかった頃だが、続刊が出るのが本当に待ち遠しかった。

それが今や、合本で一気に読める。どれもそこそこなボリュームがあるので、実際に持つと大変なものだ。今ちらっと計算したら、紙にすると2500ページを超える量がある。だが、電子書籍ならかさばらない。

かさばらないことよりも、「一気に読める」ことの方が重要かもしれない、とは思う。はまったら一気に読み進めてしまうのではないだろうか
まあ、考えてみれば当たり前の要素なのだが、改めて、電子書籍の良さを感じられるパッケージングだ。

さらに大胆な合本をお望みの場合には、「三国志全一冊合本版 (吉川英治歴史時代文庫)」もある。こちらも私の愛読書で、高校時代から何度となく読んでいるものだが、元は文庫本8冊に分かれていて、紙の本にすると4000ページを超える。

不朽の名作、吉川三国志を一気に読める完全版。日本では卑弥呼が邪馬台国を統治する頃、中国は後漢も霊帝の代、政治の腐爛は黄巾賊を各地にはびこらせ、民衆は喘ぎ苦しむ。このとき、楼桑村の一青年劉備は、同志関羽、張飛と桃園に義盟を結び、害賊を討ち、世を救わんことを誓う――以来百年の治乱興亡に展開する壮大な世紀のドラマ。

吉川英治は物故後50年が経過していて、同じものが青空文庫から無料で入手可能なのではあるが、そのせいか、ボリュームの割には非常に安い上に、元のデータがしっかりしているということ、とにかく買えば読めるというシンプルさなどもあり、講談社版にも未だ存在価値はあるな、と思っている。とはいうものの、どちらも合本にも、共通の問題がひとつ。

合本の表紙はあまりに残念なデザインで、興ざめもいいところなのだ。かっこいい表紙を重視するなら、あえて1冊ごとに購入するのもアリではある。その辺、合本作成時には配慮してくれると嬉しいです講談社さん

旅行中でも衝動買いできる喜び

さて、2冊目、というか2シリーズ目はコミックにしよう。つくしあきひと氏の「メイド・イン・アビス」シリーズだ。こちらはまだ完結しておらず、3巻が6月に発売されたばかりである。

奇怪な生物が住み、底も知れぬ巨大な穴「アビス」がある世界。主人公の少女・リコは、アビスで見つけた少年型ロボット・レグとともに、アビス冒険中に行方不明になった母・ライザを探し、謎が渦巻く「奈落の底」へ旅を始める……という物語で、冷静に考えると、こちらも「世界観重視」のSFファンタジーである。

実は筆者は、6月までこの作品を知らなかった。6月末、アメリカ出張からの帰国便を待っていた時、ソーシャルメディアから、本作の書評がシェアされてきたのだが、それを読んだのも、飛行機待ちの暇つぶしに過ぎなかった。

どうにも興味を惹かれ、ラウンジの無線LANを経由して1巻目を購入して読み始めたら……。もう止まらない。最初の10ページを読んだところで、残りの2巻を買って、ダウンロードしていた。飛行機の中で読みたかったからだ。帰国まで待つことなんでできない

帰国便は、たいてい疲れ切って寝てしまうか、積み残しの仕事をヒーヒー言いながらこなしているものなのだが、今回は違った。一見かわいい絵柄からは想像もつかない、容赦ない世界に翻弄され、3巻を飛行機の中で何度も読み返した。

コミックは、まだ電子書籍より紙の方がクオリティは高い。だから、マンガ好きでも電子書籍は買わない、という人がいる。でも、海外でも衝動買いができて、素晴らしいコミックと出会えることを思えば、悪いものではないと思うのだ。そういう出会い方ができることが、電子書籍の良さだと思う。

紙の在庫は切れても電子書籍なら……

えーっと、最後は私の著書です。そこ、「宣伝乙」って言わないように。まあ、半分宣伝なんですが、それだけではない。

再起をはかるソニーの新社長に就任した平井一夫の手腕が発揮されたのは、ソニーSCEにおけるプレーステーション事業であった。そのプレステ展開において、異能を天下に示した久夛良木健との協調、葛藤、相克を通し、ストリンガー体制で失われたといわれる「ソニーのDNA」が平井新社長のもとで復活できるのかどうかを、著者のみが知り得るインサイド情報をもとに解析する。ソニー再建の道標となる一冊。

「漂流するソニーのDNA プレイステーションで世界と戦った男たち」は、筆者が2012年夏に発売したノンフィクションだ。ソニー・コンピュータエンタテインメントの創業者であり、「プレイステーションの父」と言われる久夛良木健氏を中心に、ゲーム機というエンターテインメント・コンピュータ産業を描いたものだ

筆者としては力を入れて書いたし、読者の方からは良い反応もいただいた著作で、満足はしている。だが、ノンフィクションはそうそう売れるものではない。まだアナウンスしたことはないのだが、紙版は重版予定がなく、市中在庫のみとなっている。

だが、電子書籍は販売を止める予定はない。実は電子書籍版の売れ行きはけっこう良く、止める理由が全くないのだ。

おわりに

紙の本は読みやすいが、在庫や流通のリスクがある。電子書籍はその分のリスクがずっと小さく、少しずつでも売れるなら長く流通させることが可能だ。かといって、紙を作らずに電子書籍だけ……とはいかないところがジレンマだが、まあとりあえず、筆者のような立場の人間にとって、電子書籍があることはまちがいなくプラスに働いている。

今後は、「紙版の在庫はすぐなくなって、流通の中心は電子書籍」という本も増えてくることだろう。幸か不幸か、筆者はそんなところでも、ちょっと前の方にいるようである。

この記事を書いた人:西田宗千佳
西田宗千佳、フリーライター/ジャーナリスト。ご連絡はabout.meページもしくはTweet/Facebook経由で。 小寺信良氏との合同メルマガ「金曜ランチビュッフェ」発行中。
http://yakan-hiko.com/kode-nishi.html
Twitter:@mnishi41

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