漫画家・小説家の僕がやってみて気づいた、プロが個人出版に挑戦すべき6つの理由

この記事はKindle作家の”かわせひろし”さんからゲストポストいただきました
1308211はじめまして。漫画家・小説家のかわせひろしと申します。僕は漫画家としてデビューし、一度連載を経験。その後考えるところがあって小説を書き始め、今年の春に児童向けSFが岩崎書店から出版されました。
縁あって寄稿の機会をいただきましたので、プロ・セミプロの方が個人出版に踏み出すべき理由やメリット、商業的な可能性についてお話しさせていただきます

(一応プロの僕が)やってみて気づいたプロ作家が個人出版に挑戦すべき理由

ただ、自分の作品より漫画アシスタント(ハーメルンのバイオリン弾きの渡辺道明先生他)で、ご飯を食べている時期の方が圧倒的に長いので、「(一応)プロ」です。そういう立ち位置、商業的に成功しているとはまだ言えない作家こそ、積極的に個人出版に踏み出さなければいけないのではと思い、今回KindleでSFとライトミステリーの2作品を出版をいたしました。自分でやってみて気づくことってありますよね。今回はわたしのような立場の方々が個人出版に挑戦すべき6つの理由をまとめました。

理由その1:ボツ原稿は金鉱脈!1度否定された程度で諦めるな

踏み出さなければいけない理由を平たく言ってしまうと、「ボツ原稿がもったいない」ということです。僕のようなポジション、デビューしてちょこっと仕事にはなったけれど、打ち合わせをしてもボツが出てなかなか次に続かないという状態の人は、けっこういるはずです。
その時に、漫画の場合はボツネーム、小説の場合はボツ原稿になりますが、それがもったいないなと思うのです。一度否定された程度であれば、その作品にはまだ、大当たりする可能性が残っているというものです。
有名なところでは、ハリー・ポッター。10社以上の出版社にスルーされ、最後に出版社の社長の娘さん(当時8才)のプッシュでようやく出版にこぎつけました。向うは作家エージェントがいて、そこから出版社に送っているそうですが、作家個人が営業している日本では、10社も断られる前に心が折れてくじけます。くじけてしまったため世に出なかったハリー・ポッター級が、どこかにあったのかもしれません。
他にも過去の名作で、最初出版を断られた作品はけっこうあるようです。当たる当たらないがぱっと読んで分かる程度のものならば、そもそも作家が自分で読み返した時に気づくはずです。その判断は難しいのです。
実際アメリカではすでに個人出版の小説がベストセラーになっていて、その中に出版社に送ったけれど相手にされなかったのでKDPで出したという経緯の物が、いくつも見られます。ボツになった作品にも可能性は残っているのです。

理由その2:見捨てられた読者を掬え!

ただ、大当たりする可能性はまだあると言っても、実際のところはとても小さなものでしょう。ほとんどはやっぱりダメだったということになるはずです。けれどそれでもチャレンジする価値はあると考えています。なぜなら少なくても、それを好きな人が読んでくれる可能性があるからです。と言うよりも、僕としては、こちらが本命。僕にとってはこれこそが個人出版の魅力です。
デビューもしていてちょこっと仕事もしているのなら、ある程度の出来に作品を仕上げる腕はもう持っているはずです。そこでなかなか先に進めない場合、クオリティよりも、編集部の欲しい物が書けていないというコンセプト違いの可能性が大きいです。
例えば、すごいいいシーンが書けた、と思っていたのに、そんなシーンは要らないから削れと言われてしまうような場合です。言われてる人、多くないですか? 僕は散々苦しんだんですけど。本当はそのシーンは自分の望む形の作品には必要なのです。でも要らないと言われてしまうのは、その形ではあまり売れないと予想されるからです。
人の好みは千差万別です。性格や考え方が関わってくるからです。ですが、均等に散らばっているわけではなくて、そこには人口密度のようなものがあります。密集地と過疎地があるのです。

著者が食べられれば十分。本当に読みたい読者にサービスできる

出版もビジネスなので、採算の問題がついて回ります。お客さんの少ないところに向けて書くのは得策ではありません。また、雑誌、レーベルにもそれぞれ色があって固有の客層がありますから、そこを外すと受け入れられない危険があります。そういう判断から、要らないと言われるわけです。
ところが採算は、コストの問題も含みます。商業出版では多くの人が関わるため、その人達の食い扶持を稼がなければなりません。けれど個人出版であれば、著者が食べられればそれで大成功です
そこまで行けなくても、もともとセミプロの状態なのですから、0が1になるだけでもありがたいことです。
こだわったけれど要らないと言われたそのシーンが、好みの人達がいるかもしれない。そういうものをふんだんに取り入れて書いても、受け入れてもらえるかもしれない。さらに読者の側から見れば、「同好の仲間の少ないお客さんは見捨てられて、サービスしてもらえていない」ということです。
自分の好みを受け入れてくれる得難い読者と、自分の好みのものを書いてくれる得難い著者が出会って、そこで上手く作品が出続けるサイクルが作れたら、それは大ヒットではなくても、とても価値のあることだと思うのです。
そして、修行を積んでいてある程度読める物を書ける人が、どんどんと自分なりの作品を書いてバリエーションが豊かになれば、それだけ大勢のお客さんを満足させられることになります。これは出版全体にとっても、パイを広げる効果があり有用だと考えます。
ただ、人口密度が低いということは、出会うのが難しいということでもあります。もともと個人出版はそこが難点なので、どうするのかが考えどころですね。

理由その3:コア・サポーターが狙える!

僕は漫画畑から小説畑へとやってきました。そしてその道中、結構描かれていない未開の場所があるのだと気づきました。描かれていないのには理由があるわけですが、全部のリスクを自分で取る個人出版であれば、その理由を乗り越えて埋めていくことが出来るはずです。ここで僕が出会った未開の地と思しき場所を、いくつか挙げてみたいと思います。
一つは人数が少なくてもコア・サポーターがいる場所です。
以前、「10万部売れない作家は要らない」という編集さんの発言が話題になったことがありましたが、あれは僕も言われました。その方はもうちょっと切実に「10万部ぐらい売れないと、作家も出版社も潤わないんだよねえ」という言い方でした。なので内容を詰めていく時に、うまく行ったらそれぐらい行きそうかが判断基準になるわけですが。前述の通り、個人出版ならもっと少なくても全然OK。

柏レイソルをマンガに出したらファンに喜ばれた

それに近い体験をしたことがあるのです。僕は以前児童誌でサッカー漫画の連載をしました。その時にJリーグに許諾を得て、自分の好きな柏レイソルを作中に出したのです。
すると児童漫画だというのに、大人のレイソルサポーターの間で話題になりました。どうもけっこうな人数の方々に買っていただけたようで、実家の家族は、練習見学に行ったら隣の人が知ってたり、フリマに出店したらサポーターの人に声かけられたりしたそうです。僕もコミティアに出展してたら、わざわざ会いに来てくださった方がいました。
前述のような10万人には届きませんが、好きなチームの記事が出てたら普段買わない雑誌も買うという人はけっこういますから、数千人なら可能性がありそうです。毎月250円×印税70%×1000人で一人暮らしなら十分いけます。
実はこれは本気で実行しようとしました。出版契約が切れたので、Jリーグに再度許諾をもらって個人出版しようとしたのです。再販して、さらに続きを描きたかった。けれどJリーグでは個人に許諾を出していないそうで、頓挫しました。残念。個人出版が当たり前になってJリーグの規定が変わるか、僕が個人出版を超えて個人出版「社」になるか。まだあきらめてはいません。僕の例はサッカーでしたが、数千人規模の濃いファンがいる所は、けっこうありそうです。あなたがそういう何かのクラスターに所属していれば、可能性はあります。

理由その4:いい話は売れない!けど個人出版なら書ける

こちらは打ち合わせで言われて、はて? と思った場所。「いい話って売れないんだよねえ」というのは、複数名の担当さんに言われました。
例えば、少年漫画の新人さんの読み切りで、とてもいい雰囲気の話でネットでも評判になったのに、その人が連載になったらなぜかバトル系の漫画だったということがあったりしますよね。ここはやっぱり、好きな人はいるけれど、数が足りていないと判断される場所なんだろうと思います。
もう一つ問題があります。「売るぞ売るぞと思ってる人間の作ったいい話は嘘っぱちになりやすい」のです。こうしたら泣けんだろとか、邪念がにじみ出るんですよね。
そうなるとそれは上滑りの出来損ないなので、そもそも売れる質の物じゃないでしょうということになります。いい話が売れないと言われてしまうのには、売ろうとすると本物のいい話にはならないという逆説が含まれていると思います。
だから技術はまだないけど心はピュアな新人さんが、いい話描けたりするんですよ。個人出版で考えれば、好きな人は十分すぎるほどいる場所なので、「売ることなんか考えず好きなように描いてたらお客さんの心に響いた」というケースは起きそうです。
あと個人出版の作品まで探して読もうなんて人は、かなり濃い読者なんで、偽物じゃだませないんじゃないかと思うんですよね。ここは個人出版の方が向いている場所じゃないかという気がします。

理由その5:ジブリは参考にならない?個人ならページ数を好きにできるのが魅力

「ジブリは参考にならないですよ」。これも打ち合わせで言われてびっくりしたセリフです。けっこう若い時。僕の駆け出しの頃はちょうどジブリがブレイクした時期なので、影響をまともに受けた新人がけっこういたのです。担当さんはそういう人達を見てその結論に至った模様。
これには合理的な理由もあります。ページ数の問題です。あのテンポで描くと、あっという間にページを使ってしまい、何も起きないまま次回へ続くとなってしまいかねません。あと漫画だと、もっと強弱つけないと、動いていない分、目立てないというのもあります。じっくり描いて飽きさせないのは、とても難しいのです。
ところが僕自身はじっくり描かれた話が大好きなので、これがけっこう苦戦の原因になりました。小説を書きだしたのも、「児童誌は一番ページ制限がきついので、じっくり書くなら書き下ろしで出版される小説の方がいいのかも」と思ったからです。
ですがこの問題は、個人出版なら、本人の根性次第です。一気に100ページ読ませたいなら、一気に100ページ描けばいいだけです。出版形式もどうにでも出来るのが、個人出版のいいところ。
むしろ困難を乗り越えて描かれたじっくり面白い話を読みたいので、ぜひ描いてください!

理由その6:踏み出した先に成功がある!やってみなければわからない

さて、ここに挙げた三つは、僕が漫画畑の近辺で見かけた未開の地でした。小説は出版されて日が浅いので、まだ見えていません。ボツ原稿が増えるにつれ、分かってくるのだと思います。(出来れば知らないままでいいのですが)
そして、多くの人がそれぞれいろいろな経験を積んできているのですから、「それなら俺はあそこが行けると思う」という場所が、たくさんあるはずです。分かっているのは、もともと日本の出版点数は多かった上に、個人出版まで来るのだから、リスクを取らないとどちらにしろ埋没するということです。内容も売り方も、もう踏み出すしかないのです。
電子書籍で個人出版が出来るようになり、これからは、プロとアマチュアの境目が崩れていくでしょう。アマチュアの平地とプロの高地と分かれていたのが、なだらかな山のようにつながっていきます。
すると一番地形が変わるのは、まさにプロの高地との境の崖にしがみついていた、僕のような作家のいる場所なわけです。ただ台地が崩れただけになるのか、それとも大きな山脈になるのかは、ここの盛り上がりにかかっています。
もしこの文章を読んでくださっている方の中に、僕と同じような立場の方がいましたら、お互いがんばっていきましょうとエールを送って、この稿を締めさせていただきます。最後までお読みくださり、ありがとうございました。


この記事を書いた人

かわせひろし Twitter @kawasehiroshi
月刊プレコミックブンブンで、サッカー漫画「ケッタ・ゴール!」連載後、思うところあって小説家修行に入り、第11回ジュニア冒険小説大賞を受賞、「宇宙犬ハッチー 銀河から来た友だち」でデビュー。柏レイソルサポーターの科学好きで、そんなことを書いてるブログがこちら。
http://ouendan.cocolog-nifty.com/blog/


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