マンガ家・鈴木みそインタビュー:プロ漫画家が個人出版をはじめた理由『限界集落〈ギリギリ〉温泉』

1302011

こんばんは、Kindleどうでしょうです。みなさんは『限界集落〈ギリギリ〉温泉』という作品をご存知でしょうか。知らないなんて人は、急いでKindleストアのランキングを見て欲しい。全4巻がビシィっと100位以内にランクインしてるでしょう。 *2013年2月当時の話です

実はこの作品、プロの漫画家である”鈴木みそ”氏がもともと商業出版していたものを個人としてデジタル出版したものなんですよ。

1巻発売直後からその制作ノウハウを自身のBLOGで広く公開したことで、瞬く間に話題になり、発売3日目にはなんとベストセラー5位にランクイン!そして発売1ヶ月で累計2万部達成!大手出版社の発売作品をぶち抜いて個人作品として多大なる可能性を見せてくれました。そんなプロでありながら、個人作家となった鈴木みそ氏に個人出版の可能性や、プロの本格参入、そして電子書籍の未来について話を聞いてきました。(聞き手、構成「きんどるどうでしょう」)

『限界集落〈ギリギリ〉温泉』鈴木みそインタビュー

出版社に印税を支払う時代になった

――今回の出版にあたって出版社とはどんな話し合いをしたのですか?

鈴木みそ氏(以下・鈴木):1年くらい前にKindleが日本で発売されそうだ。という時、連載していたエンターブレインの編集長と話したんです。「僕は電子の単行本は個人で出したい」と思うけれど、それはどうだろうかと。
電子出版が売れないことは共通認識として持っていて、売れたところで、ほんの数千円にしかならない。とお互いにわかっているんですよ(笑)でも権利の話はしっかりしておこうと、何度か話し合いをしまして、じゃあ僕が出してもいいよ。ということになったんですが、Amazonの日本進出が遅れたので話はそこまでになってました。ここで話し合っていたのが後々生きてきたんですね。
去年の暮れになってKindleが上陸してきたので、よし来たと、「限界集落(ギリギリ)温泉」を電子化したんですが、出版社の立場で言えばそれで作家が個人でバンバン出してしまうと非常に困るんですよね。漫画は単行本の売上で雑誌の赤字を埋めているわけだから。僕らも雑誌の原稿料を貰わないと漫画を続けて描いていけない。いかにお互いが協力していけるかを探っていかないといかんだろうと。
「Kindleでの利益の一部を出版社にバックするよ」って提案したんですね。
何パーセントバックするか。出版社が電子書籍を出したとき、著者印税を「15%」と言ってきたところには15%を。30%といってきたところには30%戻しますと、向こうからの提案と同じ条件を提示するのが面白いかなと思ったんですね。

エンターブレインは「いや、それは著者のものなのでもらうわけにはいきません」と言って印税バックはなし。
「僕と日本が震えた日」の徳間書店も、印税は必要ありません。と言ってくれた。
「アジアを喰う」の双葉社が、その提案は面白い。ということで30%印税を戻すことになりました。

――出版社名義だからといって電子書籍が売れるわけではないですからね

鈴木:電子の場合どの出版社から出てるか、なんて関係ないからね。
もし出版社が、うちの会社の本だけ「月額500円で読み放題!借り放題!」というような、電子レンタル書籍サービスを始めたら、出版社名義のメリットがでてくるわけですけど。集英社の本棚「年間9800円借り放題!」なんてHuluみたいなサービスが始まったら、作家もそこに混ぜて欲しいと考えるんじゃないかな。ただ、ほとんど「ONE PIECE」に持っていかれるからきびしいかな(笑)

――Kindleではまだ国内未対応ですが、レンタル機能がありますから。定額で借り放題というのは非常にユーザーにとっては嬉しいサービスですね

鈴木:それがあることでKindleというハードが売れて、噂を聞いて読者が増えて、となっていけばいいよね。昔のファミコンが売れていった時みたいに。
読者側も知っている作家が増えてくれば安心して買えるようになるし。それと一度買った本がパァにならないという安心感がKindleにはあるんだよね。
これまでいろんなところが電子書籍サービスをスタートさせたけど、売れないと見るやサッサと撤退をする。楽天の逃げ足の速さときたらもう(笑)
本は買った限りはいつまでも読める状態にして欲しい。そういった意味で”無くならない”という安心感がAmazonにはある。だから、僕はみんなにAmazonを薦めてる。
KindleがもしこけてもAmazonは電子書籍をやめないだろうし、次のKindleを出して来ると思う。昔ソニーのプレステと任天堂が圧倒的に強かった時代、マイクロソフトが「勝つまでやめない」って言ってゲームハードにこだわったのを笑ったんだけど、ちゃんとXboxで結果を出してきた。外資はすげえと思ったね(笑)
きっとAmazonも勝つまでやめない。勝ってもやめないだろうけど。

――プロの方が参加するにあたって出版社との契約以外に課題はありますか?

鈴木:デジタルで作業している方が電子化に向いていると思われがちだけど、紙をスキャンした方が早いんじゃないかと思ってる。フルデジタルで一度作ったものをデジタルtoデジタルで落としこむと「モアレ(※干渉縞)」もするし、フォントが使えないとか、イラレのデータがバラバラとか、デジタルな問題が発生してくる。
紙の生原稿をスキャンしてデータ揃えるのが、最も簡単で綺麗だと思う。楽なのは、例えばScansnapなどのドキュメントスキャナーで単行本を切ってデジタル化してしまっても十分売り物になると思う。
技術的は話は別として、編集者との信頼だとか、出版社への義理とか、そういうものはとても複雑で難しいね。
Kindleで個人出版するかどうか。というのは、そこの人間関係で決まるのかもしれないし、出版社がつぶれてしまうまで動かない人、というのも漫画家は多いと思う。
デジタルスキルを持った印刷会社の人間や編集者が独立して「面倒な部分は私が全部引き受けます!」といってエージェントになって電子化する、というのが増えていくんじゃないかな。

――今後「装丁家」の役割も大きく求められそうですね。

鈴木:表紙は大事だね。
電子出版は表紙くらいしか比べられる場所がないから、表紙でほとんど決まっちゃう。AVが女の子の表紙撮影にものすごく手間をかけるって話に似ているね(笑)
僕の場合、Illustratorで加工する作業は慣れてるからよかったけど。漫画の「タイトルロゴ」が使えないのはちょっと困った。

――ああ、出版社のロゴとか全部消さないといけないわけですね

鈴木:イチから表紙デザインやロゴ作成をできる技術を持っていないといけない。あれがしょぼいといきなり素人臭くなるんで、イラレは使い込んでおく必要がありますね。漫画家のスキルとしてデザインが重要になるとは思わなかった(笑)
でも、色んな能力を持った人たちが協力してやっていた出版という作業を、電子書籍化によって「ひとりで全部やらないといけない」というのは不思議な話なんだよね。
プロフェッショナルなデザイナーや編集者をフリーで巻き込んで、「何%でやりましょう」というように協力していけるようになったらいいなと思う。

印税の計算が非常に面倒くさいんだよ

――作家個人で、売上払いの計算は面倒そうですね

鈴木:Amazonに印税支払いを作家と出版社むけに自動で割ってくれないか、メールで聞いてみたんですね。
「KDPでは作者は一人なので、それは出来ない」という返答。
一旦僕に全部入ったものを、部数×出版社印税というのを計算して僕が振り込まないといけないんですよ。これは時々集英社から「3円」とか振り込まれてくるアレか!と。くそメンドクサイけど、これからやっていく必要があるわけです。
でも、これはお互いに「何部売れたのか」という正しいデータを共有しないといけない。例えば、僕が本当は1万部売れていても5部しか売れていないと言えば、出版社は調べようがない。もちろんそんなことはしませんけど(笑)
そんな紳士協定で結ばれているものなんて危なっかしくてしょうがないんで、支払いはAmazonが管理して欲しいなあ。
しかし、まさか出版社に金を払うという時代が来るとは思わなかったですね。ウメさん*が昔そんなことを言っていたけど、自分が最初に払う人になるとは思わなかった。
※うめは日本の漫画家。小沢高広(おざわたかひろ、男性、原作担当)と妹尾朝子(せおあさこ、女性、作画担当)の男女ユニット。

iPhoneを買ったらCDをMP3にしたでしょ?Kindleもおんなじ。はじめに手持ちの本を取り込むといい

――電子書籍はこれからどう広がっていくと思われますか?

鈴木:僕の場合は、最初は自炊から始まったんですね。
Scansnapというスキャナで本をどんどん読み込んで、パソコンにデータ化するところからやった。これ心が痛いんですよ。本を切っちゃうのは。うわー、このハードカバー切っちゃうのかよー。と思いながらジャギジャギカッターで切る。一日作業して70冊くらい。だんだん上手になって140冊まで行ったんだけど、切る作業は今も心がチクっとするのね。うちのヨメなんて絶対切らないからね。
でも、切った本をiPadで読んでら、これが便利で便利で。風呂や布団でいつでも本棚の本を読めることが、いかに読書を進めるか。本は手元に置くべきですね。その自炊データを読むのによさげなんで、Kindleペーパーホワイトを買ったんですよ。
はじめてiPodを買ったときに、持っていたCDを全部MP3にして取り込んだじゃないですか。CDがいつでも聞けて便利ー、となってその後でiTunesで音楽を買いだした。そこに似てるんですよ。自分の本棚の本が、iPadやKindleに入って、その後で新しい本を買う。そういう手順だとスムーズに電子化が進むなあと。

――それは非常に明快な考え方ですね。

鈴木:だからといってみんながScansnapを買って自炊をやるのかと言えば、これは非常に難しいとは思う。非常にメンドクサイですよ!
このメンドクサイ体験があったからこそ、今回「限界集落(ギリギリ)温泉」をKindle化することは苦にならなかった。読者に自炊をさせることに比べればずっとハードルが低いですよ。
紙を自炊して電子書籍を作るのは非常にメンドクサイ。でも、大量の本をKindleにいれて持ち運ぶことができるという読書体験は非常に快感なんですね。メリットを知れば知るほど読者が電子化したものを持つのは間違いないと思った。
今はまだ、買って読むときにガジェットへの転送やロードに時間がかかる、画面遷移のE-inkが気持ち悪いなどなど問題はあるでしょう。でもそんなものすぐに気にならなくなる。これは間違いなく、数年後には電子が来る。
だから「今のうちに出した方がいい」と。そう思ってからの作業はかなり早かったですね。

――ある作家さんから電子書籍が200冊を超えたあたりで読書体験が変わったと言われました。Kindleはいつでも手元に端末があるから、何度も本を読み返すと。”読書”が変わりそうですね

鈴木:変わる変わる。電子書籍で手元にあるとなんの気なしに読みなおしちゃう。これが非常に面白い。こんなことを!ということが山のように発見できる。
そうなると余っている時間の取り合いですね。一日の空いた時間、Huluで映画を見てWebサイトチェックして、Twitterやって。
ただ、その時になんでもできるマシンはあまり読書に向かないんだよね。KindlePaperWhiteだと「読書しか」できない。この切り捨てた機能というのは実は強いのね。Twitterやメールの通知が来て気が散ることもない。

電子書籍と紙の出版について

――これからの読者と本との出会いについてはどう思いますか?

鈴木:今まで小さな本屋ではどこにいっても同じような本しか置いてなかった。売れ筋しか置いておけない。もっと変わった本が読みたいんだけど、それはあつかっていない。だから僕は大きな本屋にばかり行ってた。で、大きなところで色々探すのも面白いけど、欲しい本が決まっていればAmazonでいいじゃんってなるんですよ。
もう、長い間Amazonでばっかり買っていますね。そうすると、Amazonのオススメ本の精度が非常に高くなってくるんです。こいつ俺のこと、わかってるなーって(笑)

――電子書籍を個人が売るために有用な手段はありますか?

鈴木:SNSを使っていくこと。今のところこれが最も効果的だと思う。
Twitterは良いよね。気軽につぶやけるからフォロワーを増やしやすい。ほんとはきっとFacebookのほうが作品の内容をシェアするには向いているんじゃないかとは思うんだけど、あまりFacebookは使い込んでないからよくわからない。
Twitterはすぐ流れていくから、広告を打ちやすい気がするんだよね。
でも広告ってあんまり打ちすぎるとイヤラシイじゃないですか。RTで雪崩のように感想を流されるのもどうかと。いやいや、いいんですけど(笑)、津田さんとかね。オレはRT消してるけど。。

――宣伝のバランスがひとつの鍵ですね

鈴木:あとはブログでどうやって情報発信するか。ってことかな。
僕はブログの日記は、作品の延長線上にあって、話の外伝だとか、ストーリー秘話だとか、そういうファンが楽しめるものを書いていけばいいと思ったので、最近はこまめに更新してる。
作家が直接本を売るってことは、自分をいかにプロデュースするか、ということでもあるわけで、ブログは作品と同じくらい重要じゃないかなと今思ってます。
で、SNSがとても重要。と言ってたけど、自分が宣伝を発信することが大事じゃなくて、漫画を読んでくれた人が「面白かった」「RT面白かった」とつぶやいてくれることが大事なんですよ。
「宣伝」をいくらやっても人は本を買って読んではくれないけど、友達が「面白かった」「読むべき」って言ってたら買うでしょ? 口コミが大事で、それがSNSの最大の力だと思う。
どうしたら面白かったって言ってもらえるのか、というのは簡単で、結局は面白い作品を書くしかないってところで、自分にブーメランが戻ってきてグサグサ刺さるんだけど(笑)
僕はネット上では「面白いものを描いていれば、誰かが必ず見つけ出す」と信じているので、新人だからムリとか、誰も読んでくれないから。とか思わずにどんどん発表していけばいいと思う。
今まで商業誌では発表できなかったからって諦めていた人はチャンスだと思う。自分の作品に自信を持ってどんどん出していけばいい。
プロもアマも同じ場所で「ガラガラポン」で始まるわけなんで、俺らも負けねえよ。って感じで描いていきましょー!
そしてそれを上手に宣伝するためにSNSも利用する。
表紙には時間をかける。
サンプルを読んでもらったらチャンスなので、本体表紙(1ページ目の表紙)とか目次とかを丁寧に作る。

みたいなことかなー。

さいごに、限界集落〈ギリギリ〉温泉について教えてください

鈴木:「限界集落温泉」と書いて「ギリギリ温泉」と読んでね。
テーマは過疎化と重いんだけど、中身はライトに書いていますので、軽い気持ちで読んで欲しいですね。
作者としてはあんまり言うことはなくて、紹介文を書くのが非常に面倒だったなあ。なんで「ここまでのあらすじ」を俺が書いているのだろうと(笑)こういうのが電子時代の漫画家の仕事だと、むりやり思い込んで書きました。
1巻がとりあえず100円なんで気軽に読んでみてください。
Kindleアプリを試してみるのはどうかなーと。漫画って案外読めるんだーとか、モアレやフォントが気になるとか(笑)感想をつぶやいて欲しい。
面白ければ2巻、3巻と読んで、最終4巻まで読んでも1300円と大変お求めやすくなっております。
よろしくお願いします。

作家プロフィール

名前:鈴木みそ
職業マンガ家。1963年08月12日(49歳)
静岡県下田市出身。美術予備校時代から、編集プロダクションのライターとして雑誌作りに関わる。ゲーム攻略、記事、コラム、イラスト、をこなす。東京芸大油絵科除籍後、プロダクションから独立。漫画を描く。
http://www.misokichi.com/

限界集落(ギリギリ)温泉 全4巻

鈴木みそ (著)
価格:通常:1296円

追いつめられた人達による、過疎化が進む村の一発逆転への道!!『銭』で大評判となった鈴木みその最新刊!! 今度の舞台は田舎の潰れかけ温泉宿。全く新たな切り口で迫ります。帯には堀江貴文氏による推薦文掲載!

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