【書評】『読書で離婚を考えた。』

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」。円城塔・田辺青蛙の作家夫婦による読書本『読書で離婚を考えた。』 のレビューです。

円城塔といえば伊藤計劃の遺作を引き継いだ『屍者の帝国』や、最近ではKindle独占配信の短編『世界でもっとも深い迷宮』など切れ味鋭いナンセンスが持ち味の作家。田辺青蛙はコスプレ好きなホラー小説家さんですね。

そんな作家夫婦がお互いのオススメ本を紹介して感想を言い合えば相互理解も進むし、読者も新しい本に出会えるという画期的な作品のはずなんですが……頂いたレビューを読む限りどうでしょう魂が騒ぎそうなリアリティショウが展開するようですね。


作家夫婦が相互理解するために本を勧めあった格闘の軌跡『読書で離婚を考えた。』

はじめてのかた、はじめまして。そしてブログなどでお会いしている方、お久しぶりです。中間管理職@2008medです。ブログ勤務医開業つれづれ日記・3で書評などを書いております。いつもお世話になっているきんどうさんの企画に参加させてもらいました。よろしくお願いいたします。

今回紹介させていただきますのは円城塔・田辺青蛙両先生の『読書で離婚を考えた。』です。

こちらは「お互いに本を紹介し合う連載企画」で、テーマは「夫婦の相互理解」。夫婦同士で相手から紹介された本の読書感想文を書く、そして次に相手に本を紹介する、というシステムです。

お二人とも夫婦で作家です。この本が作家夫婦として初めて一緒にする仕事だそうです。円城塔先生は芥川賞受賞作家で、田中慎弥先生が芥川賞受賞の「都知事閣下会見」で一躍時の人になったときに、一緒に受賞されています。田辺青蛙先生はホラー系の作家の方でコスプレイヤー。日本ホラー小説大賞短編賞を受賞されています。

ちなみに『モルテンおいしいです^q^』がすでに共著だったような気がしましたが、田辺青蛙先生の単著でした。こちらもいろいろと変でおかしい作品でオススメです。

『読書で離婚を考えた。』はお互いに本を紹介し合う連載企画

まず1冊目は田辺青蛙先生から円城塔先生に最初に紹介されたのが吉村昭『羆嵐』です。

『羆嵐』は日本獣害史上最大の惨事を描いた傑作ドキュメンタリー。著者の吉村昭先生は津村節子先生と作家夫婦で、今回の作家夫婦企画で最初に取り上げるのはわかります。特に吉村昭先生との半生を振り返っている津村節子先生の『紅梅』がくるならよくわかります。でも「夫婦の相互理解」で『羆嵐』がなんで初回に来るかな? 読んでいる読者としては???なわけです。いったいなんなんだ、この夫婦?

ニヤニヤ笑いながら巻頭に戻ると、

これは、夫婦がお互いを理解するために本を勧めあった格闘の軌跡である。(巻頭より引用)

というありがたい文章にめぐり合いました。そうか!これから読むのは相互理解ではなく二人の作家の“格闘の軌跡”なのだ、と改めて理解した次第です。

良薬は口に苦し。ただし良薬でなくても苦い。

「夫婦の相互理解」ではじまった企画ですが、円城塔・田辺青蛙両先生は予想を超えてはるかに意思疎通ができていませんでした。読者は夫婦がお互いの地雷を踏むか踏まないか、二人の妙な緊張感を味わうことができます。

初回ですでに『羆嵐』の洗礼を受けた円城先生ですが、第4回でこてこての大阪レポート『VOWやもん!』を指定されたぐらいから焦点があやふやになります。なぜか第8回の『板谷式つまみ食いダイエット』からなぜか毎回、円城先生の体重が載ることになりました。

田辺青蛙先生も第7回ですでにタイトルが「つらい時は脳内妖精との会話で盛り上がろう」です。ちなみに紹介本は山田風太郎『〆の忍法帳』です。なんで山田風太郎を読んで、こんなタイトルになってしまうのでしょう?

笑いながら読んで行くと第13回でついに知り合いに、連載読んでいて夫婦仲大丈夫ですか、と聞かれますという文章が出てきます。やっぱり。読者的にもかなりまずい雰囲気あふれています

よく良薬は口に苦し、と言うじゃないですか。この連載も多分お互いに本を紹介しあって、お互いを理解しようと思って努力していたんだと思いますが、徐々に「これ、苦いだけで効いてないじゃない」みたいな状況になってきたのだと思います。ただ苦けりゃいいってわけじゃないです。夫婦が苦い顔してお互いの推薦本を紹介していることに読者としては思わず笑ってしまいます

理系とホラー系、加速する噛み合わなさ

円城先生はバリバリの理系で東北大学から東大大学院卒業です。なので考え方が完全に理系です。一方、奥様の田辺青蛙先生はホラー系作家で、兼業で産業翻訳と通訳をされているようですのでかなり文系。後半もお互いの噛み合わなさが加速していきます。

第23回の『立体折り紙アート』で田辺青蛙先生は華麗にスルーして、本書の内容にほとんど全く触れません。よほど苦手なんですね。巻末の対談でも何度か話題に上るので、この折り紙はかなりトラウマになった様子です。さらに第24回の『恐怖新聞』つのだじろうの回で円城塔先生は、

(恐怖新聞の)“とりあえず条件をまとめてみましょう。”(本文P.195より引用)

とまあ、恐怖新聞の発生条件について物理学的な考察が入るわけです。いやいやいやいや、「恐怖新聞」をそんな読み方する人いないですから!

とうとう第25回で具体的に「離婚」の単語が出現し、第30回で企画そのものについて、

“相互理解が進まない、進まない、と繰り返しているこの連載ですが(中略)「まあ、今生では間にあいそうにない」って結論になりそうっていう。 (本文P.242より引用)

という画期的な結論にたどり着きます。作家夫婦の相互理解の軌跡ではなく、あくまで「格闘の軌跡」ですから。でも原則的な疑問が湧いて出てくるわけです。じゃあ夫婦っていったいなに?

第30回で円城先生は奥様のことをブラックボックスと仮定して、その中身がどういうものなのかを知るためにとりあえず何かをぶつけてみて、その反応を見て推察しているようです。理系として未知のものに対する姿勢としては100%正しい。でもこれって、奥様に対してやっていいことなのでしょうか?

さらに第36回で円城先生は奥様の行動を読み取っていますが、まるで野生の動物を追跡している研究者です。布団がまだあったかいから近くにいるはずとか、流しに食器があって朝食はどうやらコーンフレークを食べたようだとか。そういうのってそもそも二人の定義として夫婦って言うのですか?

奥様の田辺先生も田辺先生で、夫はうまく世渡りできるけど私は円城先生以外とは絶対に結婚できなかった、と延々と繰り返します。それなのに紹介本は『羆嵐』からはじまって『クージョ』(狂犬病の犬に襲われる話)、『男色武士道』(尻奉公)、最終回は『バトル・ロワイアル』(皆殺し)なんですよ。これって田辺先生のホラー系歪んだ愛情? ツンデレですか?

空中分解し続ける夫婦

読者的ツッコミをいれたらきりがないのですが、ここでふと気がつきました。ははーん、この本って実は隠れたラブコメなのかもしれない、と。

両先生は前著『モルテンおいしいです^q^』では仲が良い感じで、アメリカのナパで二人きりで結婚式挙げたりしています。基本ラブラブの二人なのに仕事になると噛み合わない、でもお互い好き、読んだらハラハラドキドキ。

この二人ってこれから一体どうなるんだろう。別れる、別れない、相手を理解できない、でも実は隠れてお互い好き、ってラブコメの構図そのものじゃないですか。空中分解しながらくっついているというカップルってラブコメ的には最高です。

円城:(中略)2年間、お互いに一歩も歩み寄らないまま終わったので、割とビックリでしたよ。(本文P.324より引用)

円城先生、逆ですよ。一歩も歩み寄らないから夫婦でもラブがコメているに違いありません。前著『モルテンおいしいです^q^』で愛を確認しつつ、あえて『読書で離婚を考えた。』で歩み寄ろうとしてもできない二人をハラハラ、そしてニヤニヤ確認するというのが正しい読み方だと思いました。……そうかな。

夫婦で40回の連載ですから1回は短めでお手軽に読めます。作家夫婦というものの格闘の記録を一度見てみませんか? なかなか楽しい読書でした。おすすめです。

AmazonKindle電子書籍で『読書で離婚を考えた。』

読書で離婚を考えた。 (幻冬舎単行本)

円城塔・田辺青蛙 (著)
価格:1,296円

夫婦でお互いに本を勧め合って、読書感想文を交換しあえば、いまよりもっと相互理解が進み、仲良くなるのでは――? そんな思いで始まった、芥川賞作家・円城塔とホラー作家・田辺青蛙の夫婦読書リレー(……)なぜか雰囲気はどんどん険悪に。相手の意図をはかりかね、慣れない本に右往左往、レビューに四苦八苦。作家夫婦のコミュニケーションはなんだかちょっと変だけど、夫婦の格闘の軌跡を覗き見ながら、読みたい本も見つかる画期的な一冊。

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