【書評】マニアックすぎる!特撮物の関係者が現在どうしているかを探りあてる連作短編集 月村了衛『追想の探偵』

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」の11冊目。

『ミスター味っ子』でデビューされた元脚本家で日本SF大賞となった『機龍警察』や『土漠の花』など人気作をもつ小説家・月村了衛さんの最新作『追想の探偵』をご紹介いただきます。

タイトルは探偵ですがミステリーではなく敏腕編集者が特撮関係者を探り当ててインタビューを取るという”日常のハードボイルド”がテーマというスゴイ題材の連作短編集です。

特撮といえば仮面ライダーWの続編の話が話題になってますが、名作はいつまでも我々の心に残りますからね。日常のハードボイルド、気になります。


特撮マニアの記憶に残るヒーローを捜し出す! 敏腕編集者の物語『追想の探偵』

雑誌編集者・神部実花には、人知れぬ特技がある。それは、誰も行方を知らない人物を捜しだすこと。あらゆる手段を駆使して人々の記憶の扉を開き、真実をつかみ出す。愛する雑誌を守るため、上司の無理難題や個性的な面々に挫けることなく、「日常のハードボイルド」を生きる若き女性の活躍を描いた連作短編集。

@michealhjです。月村了衛の幅の広さを思い知らされる新刊『追想の探偵』。面白かった。

「機龍警察」シリーズの読者なら、著者がメカやSFに詳しいことはよく知っているけれど、ファン層のマニアック度が半端でない、特撮物に焦点をしぼった作品を書くとは驚きだ。しかも、主人公が神部実花(かんべ みか)という28歳の女性編集長。雑誌「特撮旬報」を実質ひとりで切り盛りしている。

どんなに厳しい条件の取材でも「それが私の仕事ですから」とさらっと言ってのける。かっこいいこと、この上ない。この年齢で1970年代の特撮に誰よりも詳しいのがすごい。全部で6話が収められている。もとは「小説推理」に連載されたものだ(2016年5月号〜12月号)。

本作はすべて、特撮物の関係者が現在どうしているかを探りあてる話だ。

率直にいって、面白さの度合いには濃淡がある。それは、ある意味、無理もない。半世紀ちかく前に放映された特撮ドラマに関わった人々の消息をつきとめるという取材は、時間との競争だ。

物故者がだんだん増えてきて、取材目的が達成できないケースもある。リアリティを出すために、あえてそうしているのだろう。けれど、結局お目当ての人物にたどりつけずに徒労に終わる取材は、地道な捜索過程のみを見せられるわけで、読んでいて、ややむなしい。

やはり、圧倒的に面白いのは、困難と思われた人物への取材が成功するケースだ。実花は「苦労の末に目的の人物を捜し当てた喜びは何物にも代え難い」と述懐するけれど、実花と一緒に捜索行に同道する読者もまた、同じ喜びを味わう。苦労が報われた実花と共に喜ぶことができるのだ。

「個人情報の取り扱いに社会全体が慎重になった昨今の風潮から、人捜しは難しくなる一方」なのに、〈人捜しの神部〉の異名を特撮業界で得ているのは、実花がいかに凄腕であるかを物語る。

日常生活そのものがハードボイルドというテーマ

巻頭の「日常のハードボイルド」に、本書のテーマが要約されている。伝説の特殊技術者、佐久田政光を捜す話だ。佐久田は数々の特撮映画の名作に関わり、国際的にも評価された人物だが、映画界と一切の縁を切って行方をくらましてから30年以上たつ。生きていれば80近い。こういう〈誰も連絡先を知らない大物〉にインタビューできれば雑誌は大成功だ。

ところが、今まで何人もの研究者やマニアが血眼になって捜しても見つからなかっただけに、困難さはとてつもなく大きい。無理と分かっているような仕事だが、実花はいったいどうやって捜し出すつもりなのか。

いつもの月村作品のような事件やアクションはないけれど、本書は日常生活そのものがハードボイルドであるような、新しいスタイルで書かれる。過酷きわまりない条件を一つ一つクリアしてゆく実花の粘り強い取材態度は、日常の仕事の現場がハードボイルドでもあることを感じさせてくれる。自ら消息を絶った人物へのアクセスは、下手な冒険小説よりもよほどチャレンジングである。

超名作がなぜ失われたのか。この謎に取り組む

「封印作品の秘密」は、いまは見られない幻の特撮作品がお蔵入りになったわけを探る。一度はテレビで放送されたが、その後は「フィルム紛失のため」という理由で再放送されずDVD化もされていない。

関係者に取材すると、みんな口をそろえてその監督の代表作といえる傑作だという。そのあらすじを読むだけで、読者もぜひ見てみたいと思わせられるくらいの作品だ。

米軍基地から黒人兵ウィリーが脱走する。彼をかくまうコミュニティで出会った7歳の少女サユリと、ウィリーは心を通わせる。だが、コミュニティは実は宇宙人の一団であった。葛藤したすえ、ウィリーはコミュニティと運命を共にする覚悟を決める。そこに宇宙人殲滅を目的とする地球自衛軍がやってくる。ウィリーとサユリは追いつめられる、というあらすじである。

そんな超名作がなぜ失われたのか。この謎に取り組む実花はどうやって切り込むのか。課題の困難さに比例してがんばる実花の奮闘ぶりに、読者は手に汗握る思いで読み進めてゆく。

おわりに ヒーローが何かを心に灯す

それにしても、なぜ実花はこれほど特撮にのめりこむのか。それは特撮作品に登場するヒーローが何かを心に灯すからだ。そのことを示唆する「日常のハードボイルド」の一節を引いてみよう。

 ありふれた日常は、突然に崩壊し、空虚だけが残る。そしてその状態が次の日常となる。
すべては移り変わり、思い出の中に沈んでいく。新たな日常と向かい合い、人は今日を、明日を生きるしかない。
だが、変わらないものもある。
心の中に在る光景だ。ヒーローはそれを鮮やかに再現し、過ぎ去ったはずの光で再び照らし出してみせるのだ。

実花はこういうヒーローたちに信を置いているからこそ、「それが私の仕事です」と言えるのだ。

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追想の探偵

月村了衛 (著)
価格:1,296円

雑誌編集者・神部実花には、人知れぬ特技がある。それは、誰も行方を知らない人物を捜しだすこと。あらゆる手段を駆使して人々の記憶の扉を開き、真実をつかみ出す。愛する雑誌を守るため、上司の無理難題や個性的な面々に挫けることなく、「日常のハードボイルド」を生きる若き女性の活躍を描いた連作短編集。

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