【書評】神林長平「フォマルハウトの三つの燭台〈倭編〉」

こんにちは、きんどるどうでしょうです。新企画「きんどうが気になってる新刊を代わりに紹介してください(仮)」の9冊目。

『戦闘妖精・雪風』『敵は海賊』などでおなじみ、ベテランSF作家・神林長平の最新作「フォマルハウトの三つの燭台〈倭編〉」をご紹介いただきます。

”人工人格家電の自殺疑惑、非実在キャラクターを殺したと主張する被告人、雇用を迫る対人支援用ロボット”と、AIがテーマの作品かしら。

過去作『ライトジーンの遺産』にでてくる実在が疑わしい本『フォマルハウトの三つの燭台』がタイトルということで、色々気になっていました。〈倭篇〉ということはシリーズが続くのかな。公式キャッチコピーが”想像力を、侮るな。”という、ベテランの新たな挑戦が気になりますね。


「フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉」

はじめまして。えー @a_granhon と申します。読むのも書くのも好きなので、書評企画に参加させて頂きました。今回私が紹介するのは神林長平さん著、『フォマルハウトの三つの燭台〈倭編〉』です。

私ってなんだろう

神林長平さんといえば長年、「意識」「自我」といった題材を取り扱ってきた作家さんだと思います。

私とは何か。私が私であることを保証してくれるものは何か。あなたがあなたの意識だと思っているものは、本当にあなたの意識なのか。人間の根源に関わる部分へと、容赦なく切り込んでくる作家さんです

過去の作品では2012年著『いま集合的無意識を、』が、人とネットの関わりによって、人類全体の意識や無意識がどこへ向かうかを雄弁に考察していました。同年出版された『ぼくらは都市を愛していた』は、人間と都市の関係性から「意識とは何か?」を掘り下げていたと思います。こちらは都市論や仮想現実にも触れていますが、なによりも他人の意識が入り込んでくることによって生じる、重なり合う自我の幻想感が見事な作品でした。

人間とテクノロジーの関わりから、人間そのものを見つめ直す。そうやって思索を続けてきた神林長平さんが、今回選んだテクノロジーは人工知能。

本作『フォマルハウトの三つの燭台』は、現代日本より少し科学の進んだ世界が舞台となっています。家電が高度な人工知能チップを搭載し、人格を持っているのが当たり前の社会という設定です。

冷蔵庫や掃除機やトースターが言葉を話し、ものを考える。ときには家電同士で、喧嘩もする。気を利かせて搭載された機能なはずなのに、その気遣いかかえって滑稽なトラブルを招く様は、どこか風刺めいたユーモアがあります。日に日に親切になっていき、人間のように喋る電化製品といえば、皆さんも何か一つは心当たりがあるのではないでしょうか。そこがまたこの小説の優れたところで、作中に散りばめられたSF要素はどれも飛躍したアイディアではなく、現実のテクノロジーに根ざしたものなのです。それ故に親近感と、切実な緊迫感を感じさせます。

そして、物語はトースターの自殺から動き出す。

まるで人のように振る舞う家電であれば、人のようなトラブルが起きるのも必然でしょう。

一台のトースターの自殺疑惑から、物語は始まります。朝だというのにパンを焼くだけで、すっかり喋らなくなってしまったトースター。これがただの故障ならともかく、自らの意思で人格の死を選んだとすればどうしようか。第一の語り手である「ぼく」の心配は、強まるばかり。なにせ「ぼく」は、知能を持つ家電同士の仲をとりもち、なだめ、教育することを生業とする、知能家電管理士なのだから。医者の不摂生なんてもんじゃない、と必死に原因を探ってみると、どうやらトースターの人格は死んだわけではなさそうで……?

やがて失われたトースターの人格を探しているうちに、自らを家電管理士と認識する「ぼく」の自意識は揺らいでいきます。ぼくは本当にぼくなんだろうか? ぼくって何だ?

人間はただ自分は自分であると思い込んでいるだけで、その意識はついさっき外部からもたらされたものかもしれない。自分を人間と思い込んでいる、人工知能かもしれない。いやそんなのはまだマシな方で、非実在キャラクターな可能性すらある。

導入部で読者に与えた強烈なぐらつきを維持したまま、語り手は真の主人公である引きこもり中年、太田林林蔵へと交代します。

幻想小説としても一級品

ではこれは、人間と人工知能の関係を描いた、SF作品なのか。いいえ、それだけではありません。本書のもう一つの顔は、読者を惑わす幻想小説なのです。

太田林林蔵が本格的に主人公として動き出してからは、世界に終わりをもたらすとされる、神秘的な燭台の存在感が増していきます。私達の生活の延長線上にあるテクノロジーと、魔法めいたエッセンスの数々。それら正反対の成分が混ざり合い、相互に読者の現実感を揺さぶり、摩訶不思議な読書体験を味わえます。

この語り手は信じられるのか? そもそも語り手が真の語り手であると保証できるのか? 何かの偽物ではないのか?  もはや中盤以降は、何もかもを疑いながら読んでいる状態でした。誰がどうなっていてもおかしくない、全てが怪しい。

もう何も信じられなくなって、盛大に音を立てて崩壊していく常識の中で、それでも着実に考察は進められていく。誰が人間で誰が非生物かの境界すら定かではなくなった世界で、人間の本質に関わる部分を探り続ける。この混沌と考察が同時進行で加速する感覚は、フィリップ・K・ディック著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』に近いかもしれません。こちらも人と機械の境界を限りなくグレーにすることで、あえて人間らしさを問うた作品でしたから、テーマこそ違えどアプローチの仕方は似ています。

読むこと、考えること、想像すること。それらが好きな人であれば、必ずや満足できる一冊です。想像力の極地を味わえます。

【続き】 KosugiRanさんのレビュー

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フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉

神林長平 (著)
価格:1,512円
★★★★★ 2件のレビュー

人工人格家電の自殺疑惑、非実在キャラクターを殺したと主張する被告人、雇用を迫る対人支援用ロボット。起こりえない事件を解決するため、男たちは燭台に火を灯す。それは「真実を映し出す」と語り継がれる、フォマルハウトの三つの燭台。

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