【書評】辻村深月「かがみの孤城」

かがみの孤城

辻村深月 (著)
価格:1,800円

学校での居場所をなくし、閉じこもっていた“こころ”の目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。 輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。 そこにはちょうど“こころ”と似た境遇の7人が集められていた―― なぜこの7人が、なぜこの場所に。 すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。 生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。

生きづらさを感じているすべての人に贈る物語 辻村深月「かがみの孤城」

こんにちは。ケス・ノング( @kesnong)と申します。きんどうさんの書店員による本の紹介プロジェクトでしばらくいろいろ本の紹介をさせていただいておりました。某書店で文芸書を担当しております。

その後プロジェクトは少し変わって、書店員に限らず書評を募集するとのことなので、それはそれとしてしつこく参加させていただいております。面白い本は多くの人に読まれるべき、というシンプルな書店員魂で熱く語っていきたいと思います。

さて、お題は辻村深月さんの新刊、「かがみの孤城」です。

俗に「白辻村」「黒辻村」という。辻村深月作品を大きく二つに分けた呼び方だ。

人間の感情描写が恐ろしく上手いこの作家は、万人が滂沱の涙を流して、顔ぐしゃぐしゃで続きが読めなくなるような「いい人たちのいい話」をさらりと書いてしまう。それが「白辻村」

では「黒辻村」は「悪い人たちの悪い話」を書いているのか。いやいや、そうではないところがより黒いところ。「いい人たちが、いいと思っていることが一部の人にはどれだけ残酷に刺さるかに気付いていないつらい話」をさらりと書いてしまうわけだ。これが「黒辻村」

どちらも同じ人物が描いたとは思えない落差があるが、どちらにしても天才的な描写の冴えがあり、すさまじいリーダビリティは共通している。

最近でいうと、「島はぼくらと」「東京會舘とわたし」なんかが白かった。もう泣けて泣けて、電車では絶対に読めない、というか実際家で読んでたけど大声をあげて泣いてしまったほど。

そして「盲目的な恋と友情」なんかは実に黒かった(笑)。美人の女性の大恋愛を、その女性の視点でエモーショナルに描いた第一部に対し、第二部は同じ話を、あまり美人ではない友人がどう見ていたのか冷徹な視線で丸ごと描きなおしたもの。よくこんなえぐい設定考えるよ、ほんとに。「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」も黒かったなあ。女同士の微妙な関係性と残酷性を描くのが本当に上手い。

この新作「かがみの孤城」がどちらかというと、これが見事に「白で黒」なのだ

前置きが長くなった。で、この新作「かがみの孤城」がどちらかというと、これが見事に「白で黒」なのだ。見事に二つの辻村深月が一つに合体してしまった。

かがみを通して行き来できる不思議な城で出会う少年少女たちのつながりが友情に変わっていく感動もさることながら、実際に出産を経験し、「母」となった辻村深月の優しい目線が涙を誘う。特に不登校の主人公こころとその母のやり取りは号泣もの。

そして本作の大きなテーマである「いじめ」。いじめている人間の悪気のなさ、いじめなんて思っていない感覚、周りの人間の無神経さ、直接的な表現はなくともその残酷性が際立つ行間の演出がすさまじく、鋭利な刃物で心を切り付けられるような痛みが伴う。

そんな「白と黒の融合」だけではなく、それ以外も盛りだくさんだ。まず、鏡を通して孤城に集まるというファンタジックな設定。そしてこれが最もすごいところだが、なんと綾辻行人や島田荘司もびっくりの、大どんでん返しがある本格ミステリなのである。伏線も張られまくっています。え?え?と思わずページを戻してしまうこと必至。さすが、綾辻行人から「辻」の字をもらったという筋金入りのミステリ者!

初期作品の雰囲気も漂わせ、まさに文字通り辻村深月の集大成といえる大傑作である。読むべし!

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