【本宣】神野オキナが『日常を追われた』がテーマの作品について語る


こんにちは、ライトノベル作家の神野オキナです。本日5月26日にKindle版が発売されました「EXMOD2〜黒ノ追撃者〜(以下EXMOD2)」の宣伝をしつつ、この作品を書くに当たって影響を受けた作品群のお話をします。

前作「EXMOD〜思春期ノ能力者(以下EXMOD)」は「日常生活を送る少年少女がある事件をきっかけに超能力を得て、非日常の世界に関わっていく」という古典的ジュブナイルの手法をとったものでした。

擬似的な姉弟であると同時に、少年を子供として、姉ふたりが両親を兼ねるという疑似家族的関係でもあった、優秀な姉のような少女ふたりと、弟のような少年の関係が、事故とそれに伴って降りかかる苦難の中で少しずつ変化を遂げ、才能に恵まれた姉ふたりは男性として少年を見つめ直し、無邪気に姉として少女たちを慕っていた少年は、「姉のように」思う事で目を背けていた、そして同時に過去からわだかまっていた自分の中の思いと向き合う、というものがお話の骨子です。

というわけですから、一作目の「EXMOD」は学園の中でほぼお話が終止し、後半でようやく東京近郊にある「海ほたる」へ話が移動して決着し、彼らは変わってしまった新しい日常へ戻る、というラストになっています。

EXMOD 思春期ノ能力者 (ガガガ文庫)

神野オキナ (著), こぞう (イラスト)
価格:680円
★★★☆☆ 1件のレビュー

高校一年生の真之斗は、ある朝、姉弟同然に育ってきた双子の姉妹・世衣と亜世砂とともに凄惨な電車事故に巻き込まれた―。三か月後、補助器具なしでは歩けなかった亜世砂は脚力を、姉の世衣は失われていた絶対音感を取り戻す(……)そこには真之斗たちの事故現場でも目撃された「白いコートの少年」の姿があった…。超能力に目覚めた少年少女たちの戸惑いと葛藤、そして戦いを描く青春SF長編!

EXMOD 2 黒ノ追撃者 (ガガガ文庫)

神野オキナ (著), こぞう (イラスト)
価格:680円

朝、ベッドの中で目覚めた真之斗の隣には裸の世衣がいる。二人は長い長い大人のキスを交わす……。「海ほたる」を舞台とした「F」こと山崎四郎との戦いの最中、世衣から愛を告白された真之斗はそれを受け入れた(……)必死の抵抗を試みた真之斗だったが、敵の情け容赦のない攻勢に、ついに世衣がさらわれてしまう……。少年少女たちの過酷な戦いを描く青春SF第2弾!

今作の「EXMOD2」は打って変わって、日常と非日常を行き来するのが当たり前になった三人の描写から始まります。彼らの関係は1作目の中で決定的に変わり、ひとりの少女は少年の「姉」から「恋人」へと立場を変えてしまっています。

お互いぎこちないながら、互いを思いやる姿が前半の注目点です。色々サービスシーンもご用意しております(笑)

そして今回は最初から超常能力者同士のバトルシーンからはじまります。前作通りの日常「も」ありますが、彼らは前作のラストで日常と非日常のラインを「踏み越える」選択をしたのですから。「非日常」というのは平和な日本の中で自ら何かと戦うことを意味します。

その戦いは同じ能力者同士のものだけでなく、国家間という更に大きなステージの中に進み出て行かざるを得ない、ということとイコール。かくして、主人公である霧山真之斗と小日向世衣、亜世砂の三人は、アメリカが誇る最強の特殊部隊「アイヴァンホー」と対決し、追いつ追われつの大攻防戦を繰り広げることになります。

同時に前作から続く「日常」の残滓として、ひとりだけ「姉」のままでいさせられた——あるいはいるはめになってしまった少女の物語が、華やかなシンフォニーを支える低音のように、この「EXMOD2」の中に流れています。これまで私の作品を読んできた人は驚くと思います。EXMOD2は、私の作品の中ではかなり珍しい部類に入る「二本目」になりました。

これまでの私の作品、ヒットした「あそびにいくヨ!」も「疾走れ、撃て!」も主人公とその周囲のリアリティのレベルは、一巻が終わるまでに全て提示され、以後は場所が移動したり規模が拡大するだけで、主人公自身の立ち位置はあまり変わりません。

一作目と二作目でここまで主人公達の立ち位置が変化する、ということはこれまでやったことがありませんでした。有り難い事に、ガガ文庫編集部からは一巻が刊行されたすぐ後に「二作目を」とのご依頼があったので、「この作品なら」とやってみました。

お手本にしたのは平井和正先生の「ウルフガイ」シリーズ、中でもヤングウルフガイ、と呼ばれる狼男の少年、犬神明の登場する「狼の紋章」に始まるシリーズです。

狼の紋章 ウルフガイ

平井和正 (著)
価格:500円 Unlimited読み放題
★★★★* 6件のレビュー

日本SF史上の金字塔、“ウルフガイ”が、電子書籍で登場! 巨匠・平井和正が1971年に発表するや爆発的なベストセラーを記録し、後の小説、コミック、アニメ、ゲームなど日本のエンターテインメント界に絶大な影響をもたらした伝説のストーリー。

一作目こそ学園を舞台に「狼男ではないか」とされる少年、犬神明が最後の最後に命がけである女性を救うという物語で、お話は学園の中に巣くう暴力にのみ終止しますが、二作目の「狼の怨歌」以後は、彼の存在に気付いたCIAや中国情報部などが、犬神明を追って暗闘を繰り広げていく、というもの。

お話はよりダイナミックになり、有色人種を滅ぼそうとする白人至上主義者の無意識的な資本家、政治家集団(これを70年代後半の時点で考えついたんですから平井先生は凄いです……というかこの作品が最初期にこういう組織を仇役に据えたものの一つなのですが)の陰謀へと繋がり、20年近い中断期を経て再開した「黄金の少女」から先はもう一つの代表作、「幻魔大戦」に匹敵するような壮大な物語に繋がって、最終章「犬神明」で完結するわけですが。

私が目指したのは、やはり高校時代に巡り会った「狼のレクイエム」までのヤングウルフガイを読んでいた時の高揚感でした。

そのころ「きっとこうなるんじゃないか、ああなるんじゃないか」と妄想したころを思い出しながら描いたのがEXMOD2になります。と、同時にもう一作品、この2作目を書くに当たって参考にした作品があります。

岡崎つぐお先生の「ジャスティ」です。

ジャスティ ~ESPERS LEGEND~ (1)

岡崎つぐお (著)
価格:324円 Unlimited読み放題
★★★★* 6件のレビュー

凄まじい超能力を持つエスパーのジャスティ・カイザードが、凶悪な犯罪超人(クリミナル・エスパー)を倒していく活躍を描いた伝説のSFアクション。転校生・神名代純(かみなだい・じゅん)が気になる女学生・美子(みこ)は、体育館で犯罪超人・ペリアが覚醒させたビルファ原人に襲われる。そこへ現れた神名代は、ジャスティへ変身してビルファ原人を一撃で倒すが、ペリアに美子を人質に取られてしまい……!?

時は未来、銀河系連盟の平和を維持する超能力者エージェント「ジャスティ」の活躍を描くこの作品は、銀河系最強の超能力を持ちながら繊細で優しい主人公・ジャスティと、彼を支える姉代わりの女性との心の交流が中盤から後半の主軸になっていきます。

とある事件で深く傷ついたジャスティに対し、姉代わりだったジェルナが、長年秘めていた思いを打ち明けて……という展開は子供心に衝撃的でした。その先に待ち受けている運命の過酷さに震え、この切なさと艶も入れたいと考えました。

考えてみれば「ジャスティ」は石森章太郎(現在表記は石ノ森章太郎)先生の「JUN」シリーズ、横山光輝先生の「バビル二世」とその続編「その名は101」、聖悠木先生の「超人ロック」シリーズの流れにある「孤高の超能力少年」の系譜でしたね。

石ノ森章太郎先生の「JUN」は片目を隠して流浪する存在であり、横山光輝先生の「バビル二世」は冷酷非情な殺人マシンのように世界征服を企むヨミと対決し、これを倒した後「その名は101」で命がけで救った人類から追われる身となり、超人ロックは銀河最大のエスパーで不老不死故にまた時間の流れの中をさすらっていきます。

そしてジャスティもまた、ジェルナの面影を胸に銀河を駆け巡っていきます。彼らもまた、源義経を祖とする、一種の貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)なのかもしれません。義経といえば今連載を再開した北崎拓先生の「ますらお」はそんな孤高の義経の内面を描いた傑作だったりしますのでお薦めです。……話が脱線しました。

ますらお 秘本義経記 波弦、屋島(1)

北崎拓 (著)
価格:540円
★★★★★ 4件のレビュー

時は1184年、源九郎義経は平家軍を一の谷にて撃破。ここに希代の軍神はその名を日本に刻み付けた…そして歴史が導く次なる戦場の名は屋島!那須与一の過去とは…!?

そんなわけで、EXMODの主人公、霧山真之斗もまた、私なりの「孤高の超能力少年」として作られた側面があります。

もっとも、ただのノスタルジーだけで作品を作っても意味はありません。アクションに関しては常に「今」のものを取り入れなければ面白くないですしね。

今回はマーヴェルの超人系……キャプテン・アメリカやスパイダーマンのような、街中を舞台にした、生身の人間と超人、最新技術なら有り得そうな兵器が入り乱れる派手なアクションにしています。

特に今回頭の中にあったのは「キャプテンアメリカ・シビルウォー」の幕開け、アフリカ某国で戦うキャプテン・アメリカたちとテロリストのアクション、そしてある事件があったあと、旧友で元ウィンターソルジャーのバッキーの部屋に尋ねたキャップがドイツの特殊部隊GSG9と激しい戦闘を繰り広げながらアパートからビルの屋上へ流れていくあのあたりの派手だけれど「常人の十数倍(数十倍ではない、というのがミソです)の身体能力を備えた人々のリアリティが根底にあるアクションの面白さでした。

映像を文章に落とし込んで、なおかつさらに派手に……と欲張った色々欲張った作品になっています。

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ (字幕版) 2016

Amazonビデオ
価格:レンタル 100円 プレミアムフライデー記念28日までセール

世界の危機を救ってきたアベンジャーズが、国連の管理下に置かれることを巡り、激しく対立するアイアンマンとキャプテン・アメリカ。さらに、ウィーンで起こったテロ事件の犯人として、キャプテン・アメリカの旧友バッキーが指名手配された。それを機に、アベンジャーズはついに分裂する。(……)驚愕の結末とは・・・。マーベル・スタジオが贈るアクション超大作!

前作のアクション場面、超能力の発動部分でイメージしていたのは地味な少年が超能力を得て日常が……という青春もの、映画「クロニクル」と、70年代のNHK少年ドラマシリーズだったわけですから随分変わったでしょう?(笑)

一作目を読んだ方がなお面白いですが、あらすじさえ知っていれば二作目も独立して楽しめるようになっています、どうぞよろしくお買い上げの程を!

それでは、神野オキナでした。

第1巻もKindleストアで好評配信中です。

EXMOD 思春期ノ能力者

神野オキナ (著), こぞう (イラスト)
価格:680円
★★★☆☆ 1件のレビュー

3人の少年少女は、ある日超能力に目覚めた。 高校生の真之斗は、お隣の双子の姉妹・世衣、亜世砂と姉弟同然に育ってきた。ある日の朝、通学中に巻き込まれた「白いコートの少年」による凄惨な大事故で、3人の日常は一変してしまう(……)現場では宙に浮かぶ「白いコートの少年」が目撃されていた……。 突然の超能力に目覚めた少年少女たちの戸惑いと葛藤、そして戦いを描く青春SF長編!

この記事を書いた人:神野オキナ Twitter

1970年沖縄生まれ、在住 1995年別名義で作家活動を開始 1999年神野オキナに改名、「かがみのうた」でファミ通えんため大賞小説部門奨励賞を受賞
「かがみのうた」は後に「闇色の戦天使」に改題されてファミ通文庫で刊行(現在絶版、元タイトルに戻しての電子書籍化予定) ソノラマ文庫「南国戦隊シュレイオー」で初のコメディに挑戦(現在マイナビ文庫より電子書籍化)。

2003年MF文庫で「あそびにいくヨ!」第一巻刊行。以後、漫画化、アニメ化されて本編全20巻、外伝4巻の代表作となる。現在も精力的に活動中。
Amazon 神野オキナ 著者ページ

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きんどうでは2017年1月現在、Kindleで発売された新刊やセールをクリエイター本人、もしくは出版関係者から番組宣伝ならぬ本の宣伝を目的に『それにちなんだ面白いことをしてくれ』という企画をはじめています。詳しくはこちらをどうぞ 番宣ならぬ、本宣というコンセプトで作家・出版社の宣伝受付再開します

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