1位以外も選んで欲しいから、書店員ケス・ノングが2016年に発売された小説から読んだ本ベスト10を語ります

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こんにちは、某書店チェーンで文芸書や文庫を日々いじくっているケス・ノングです。

さて、毎年恒例の「このミステリーがすごい!」(宝島社)、「本格ミステリベスト10」(原書房)、「ミステリが読みたい!」(早川書房)、「本の雑誌ベスト10号」(本の雑誌社)が出そろいました。まーいろいろあるもんです。

書店員としてのここ数年の傾向として感じるのは、とにかく1位の本しか売れない!ということ。いろんな人が投票してそれぞれの人が1位と思っても総合的に1位に来ないとなかなか売れないのです。シビアなのです

僕はこの、各人思い入れも違えば熱量も違う順位を無機的に足し合わせるというのはあまり好きではなく、割り切って座談会でランキングを決めてしまう「本の雑誌」形式が好きですね。なので、今回は今年面白かった本を僕だけのランキングを第10位から発表します!合わなかったら正直スマン!としか言いようがないのですが、参考になれば幸いです。

当たり前ですが、ありとあらゆる本を読んでいるわけではないので、これ以外にも面白い本はいくらでもあります。自分で探して面白い本を見つける喜びも味わってください。というわけで、「今年発行された小説」の中で、自分が読んだ本からベスト10を選びました。

2016年に発売された小説からわたしが読んだ本ベスト10

第10位 「平成のエラリー・クイーン」の異名は伊達じゃない!

図書館の殺人

青崎 有吾 (著)
価格:1,700円 13%OFF+35%ポイント還元
★★★★☆ 11件のレビュー

今度は図書館、そしてダイイングメッセージ! “若き平成のエラリー・クイーン”が満を持して贈る第三長編。 期末試験中のどこか落ち着かない、ざわついた雰囲気の風ヶ丘高校。試験勉強をしようと学校最寄りの図書館に向かった袴田柚乃は、殺人事件捜査のアドバイザーとして、警察と一緒にいる裏染天馬と出会う(……)“若き平成のエラリー・クイーン”が満を持して贈る第三長編。

近年の鮎川賞(ゴリゴリの本格ミステリの登竜門)出身者では一番の出世頭です。今年だけでこれ以外にも「アンデッドガール・マーダーファルス」(講談社タイガ)の1,2巻、「ノッキンオン・ロックドドア」(徳間書店)と、計4冊出しています。

これは高校生名探偵・裏染天馬シリーズの最新刊。「○○館の殺人」と聞くと、綾辻行人のあのシリーズを思い出しますが、こちらは「体育館」「水族館」ときて今回が「図書館」。庶民派か! といってもいわゆる「日常の謎」モノとも違い、きちんと(?)殺人事件が起こり、精緻な論理で謎は解明されます。

平成のエラリー・クイーン」の異名は伊達ではなく、一見キャラクター小説に見えますが、実は論理の精密さはほとんど快感を呼ぶほどのすばらしさ。今回はダイイングメッセージものです。シリーズ未読でも大丈夫ですので、ぜひ。


第9位 40代のみんなのトラウマが蘇る グリコ・森永事件を題材にしたフィクション

罪の声

塩田武士 (著)
価格:1,458円 21%ポイント還元
★★★★* 34件のレビュー

京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった。週刊文春ミステリーベスト10 2016年【国内部門】第1位!

いま40代くらいの人はもうトラウマになっているでしょう。「キツネ目の男」。そう、これはあの「グリコ・森永事件」を題材にしたフィクション。

ふとかけてみた古いカセットテープ。幼き頃の自分の声。グリコ事件で脅迫に使われたあの声――。あの事件では、犯人は身代金の受け渡しに際し、テープに録音した子供の声を電話に流して指示したのだ。

自分があの事件にかかわっていたのか? その疑惑から、一人の青年があの未解決事件の核心へと迫っていく。もうどこまでフィクションでどこからノンフィクションなのか境目が不明。リアルすぎて息荒く一気に読み切ってしまいます。ていうか、これ、事実なんじゃね???


第8位 ホラーの帝王、スティーヴン・キングがホラーなしの警察ミステリを書いた

合本 ミスター・メルセデス

スティーヴン・キング (著), 白石朗 (翻訳)
価格:3,799円 20%ポイント還元
★★★★* 2件のレビュー

米最高のミステリー賞エドガー賞を受賞した巨匠の警察小説 車を暴走させて八人の命を奪って消えた殺人犯。いま退職刑事の元にそいつからの挑戦状が。異常殺人犯と不屈の男の対決がはじまる! ※この電子書籍は、『ミスター・メルセデス(上)』と『ミスター・メルセデス(下)』を一冊にまとめた合本です。

ホラーの帝王、スティーヴン・キングがホラーなしの警察ミステリを書いた、しかもそれが大評判でなんとアメリカミステリ界の最高賞、エドガー賞を受賞という。まあそんな煽り文句はなくとも「キングの新刊」てだけで僕は読むのですが(笑)。

定年退職し、枯れ果てて自殺を考えている元刑事。彼を蘇生させたのは、ある未解決事件の犯人からの手紙だった。

相変わらずの怒涛のリーダビリティ。いつも以上にキャラクター描写の冴えが恐ろしい。黒人青年ジェロームと、後半出てくるホリーという女性の描写が本当に素晴らしく、超自然描写はなくともキングの筆力は健在そのもの。続編も二作あるらしいです。楽しみ!


第7位 全編を貫くフリージャズのセッションのような緊張感

ビビビ・ビ・バップ

奥泉光 (著)
価格:2,268円 34%ポイント還元
★★★★★ 5件のレビュー

「僕の葬式でピアノを弾いて頂きたいんです」それがすべての始まりだった。電脳内で生き続ける命、アンドロイドとの白熱のジャズセッション。大山康晴十五世名人アンドロイドの謎、天才工学少女、迫り来る電脳ウィルス大感染…。平成の新宿から近未来の南アフリカまで、AI社会を活写し、時空を超えて軽やかに奏でられるエンタテインメント近未来小説!

純文学方面の作家がSF的設定を話に持ち込むことはよくありますが、これはもう真っ向からSF。近未来、ヴァーチャルリアリティ、アンドロイド、AI、そして逆に純文学ならではのカオス的破綻。全編を貫くフリージャズのセッションのような緊張感が心地よく、また文章が素晴らしくうまいので長大な話なのに読みやすいです。


第6位 第3作でもはやベテランのような風格すら漂わせています

蜃気楼の犬

呉勝浩 (著)
価格:1,242円 18%OFF
★★★★* 3件のレビュー

正義など、どうでもいい。俺はただ、可愛い嫁から幸せを奪う可能性を、迷わず排除するだけだ。明日も明後日も。県警本部捜査一課の番場は、二回りも年の離れた身重の妻コヨリを愛し、日々捜査を続けるベテラン刑事。周囲は賞賛と若干の揶揄を込めて彼のことを呼ぶ――現場の番場。ルーキーの船越とともに難事件の捜査に取り組む中で、番場は自らの「正義」を見失っていく――。新江戸川乱歩賞作家が描く、新世代の連作警察小説。

江戸川乱歩賞受賞作「道徳の時間」でデビューし、間をおかずに誘拐ミステリの傑作「ロスト」、そしてさらにもう三作目が出ました。それがこれ。短編集です。

刊行ペースもさることながら、着実に一作一作上手くなっている様子が手に取るようにわかります。先の長編二作は、傑作ながらもなんだかごちゃごちゃしていてわかりづらいところがあったのですが、今回はそのごちゃごちゃ感は皆無。もはやベテランのような風格すら漂わせています。警察小説ですが、各話のテーマと描写が無駄なくピシッと調和していて、伏線とその回収の手際の良さは本格ミステリ風でもあります

さらに来年早々にはもう新作が予告されていて、目を離せない作家です。


第5位 大宇宙を舞台に借金の取り立てに向かうバカバカしさ満点のSF活劇

スペース金融道

宮内悠介 (著)
価格:1,512円 20%ポイント還元
★★★★* 3件のレビュー

人類が最初に移住に成功した太陽系外の星―通称、二番街。ぼくは新生金融の二番街支社に所属する債権回収担当者で、大手があまり相手にしないアンドロイドが主なお客だ。直属の上司はユーセフ。この男、普段はいい加減で最悪なのに、たまに大得点をあげて挽回する。貧乏クジを引かされるのは、いつだってぼくだ(……)取り立て屋コンビが駆ける!新本格SFコメディ誕生。

10位の青崎有吾と並んで大活躍なのがこの宮内悠介。今年だけで、本作以外にも「アメリカ最後の実験」(新潮社)、「彼女がエスパーだったころ」(講談社)、「月と太陽の盤」(光文社)と、ミステリ、SFの枠を超えて出しまくり。それもすべて面白い。

本作は、タイトル通り、大宇宙を舞台にした金融業者がアンドロイドや非生命体にまで借金取立てに向かうバカバカしさ満点のSF活劇です。

やたらと有能だが非常な上司ユーセフに奴隷レベルでこき使われる主人公の悲哀が、大宇宙やアンドロイドといったSF観と奇妙な融合を見せ、なんとも異様なおかしさにあふれています。脳内で、二人のヴィジュアルを「ナニワ金融道」の桑田と灰原に変換して読むと五倍くらい面白いことに気づきました(笑)。


第4位 メリカ探偵作家クラブ賞2冠作家の情念が漂います。大好きです、こういうの

終わりなき道

ジョン ハート (著), 東野 さやか (翻訳)
価格:2,041円 20%ポイント還元
★★★☆☆ 5件のレビュー

刑事のエリザベスは、少女監禁犯を拷問の上、射殺したとして、激しい批判にさらされていた。州警察が調査に乗り出すが、彼女には真実を明かせない理由が…。同じ頃、エリザベスの元同僚の警官が刑務所から釈放される。ある女性を殺した罪を認め服役していたのだ。だが、エリザベスは尊敬する彼の潔白を信じていた(……)アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)二冠作家が圧倒的筆力で放つ傑作巨篇。

女性刑事エリザベスは、ある事件で犯人を問答無用で射殺し、批判にさらされていた。その頃、殺人事件の犯人として収監されていた元同僚刑事が出所し、二人の道がねじくれながら、終わりなき道へと重なってゆく。

最近のアメリカのエンタメ小説は、徹底したマーケティングからプロットを練り、商品として完成させるような手法が感じられます。ジェフリー・ディーヴァーなどがそうですが、それはそれでハリウッド映画的で実に面白いのですが、この作品はなんというか、そういうものを超えた作者一人の情念のようなものが伝わってきて、なんとも言えない迫力がありました。アンバランスな部分がたくさんあるけど、力で押し切ってねじ伏せるような作品でした。大好きです、こういうの。


第3位 辻村深月さんは本当の天才だと思います

東京會舘とわたし(上)旧館/(下)新館

辻村 深月 (著)
価格:各1,500円 15%ポイント還元
★★★★☆ 4件のレビュー

主人公は、大正時代に落成した実在の建造物「東京會舘」。大正、昭和、平成に至るまで、東京會舘が目撃してきた人々を、やさしい筆致で描いた超感動作。

落涙度今年ナンバーワン。もうね、何べん泣いたか。最後のほうはたまたま休みの日で一人で家で読んでいたのですが、もう「うわわあーーん」と大声をあげて泣いてしまい、電車だったらえらいことになるところでした。

安易に「天才」という言葉は使いたくないのですが、辻村深月さんは本当の天才だと思います。「文章のプロだから」では片づけられない上手さですね。


第2位 今年読んだ本でキャラクター大賞を挙げろと言われればこの男

バラカ

桐野夏生 (著)
価格:1,998円 34%ポイント還元
★★★★☆ 45件のレビュー

震災のため、原発四基がすべて爆発した! 警戒区域で発見された一人の少女「バラカ」。彼女がその後の世界を変えていく存在だったとは――。ありえたかもしれない日本で――世界で蠢く男と女、その愛と憎悪。想像を遥かに超えるスケールで描かれるノンストップ・ダーク・ロマン(……)桐野夏生が2011年夏から4年にわたって、危機的な日本と並行してリアルタイムに連載してきた作品が、震災から5年を経た今、ついに書籍化!

放射能警戒区域の中に一人残されていた少女。「ばらか」としか口にしないその少女をめぐり、この物語は恐ろしいほどに躍動します。まるで、震災という異形の神に、物語自身が命を吹き込まれたように。震災後の世界と同時進行的に紡がれた物語は、自身の吐き出す業火で己を焼き尽くしてしまうかのような壮絶な作品となりました。

登場人物に対する共感と反感のギリギリの線をついてくる細かな心理描写と、リアルな設定。確かな筆力が、自在に広がる物語をがっしりと支える骨太な傑作です。

ほとんど震災が遣わした悪の権化ではなかろうかという川島というキャラクターが素晴らしい。今年読んだ本でキャラクター大賞を挙げろと言われればこの男にします。


第1位 「横山秀夫が不在の警察小説」界における救世主 すべてが完璧

慈雨

柚月裕子 (著)
価格:1,555円 34%ポイント還元
★★★★☆ 9件のレビュー

警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子とお遍路の旅に出た。42年の警察官人生を振り返る旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知り、動揺する。16年前、自らも捜査に加わり、犯人逮捕に至った事件と酷似していたのだ。神場の心に深い傷と悔恨を残した、あの事件に――(……)様々な思いの狭間で葛藤する元警察官が真実を追う、日本推理作家協会賞受賞作家渾身の長編ミステリー!

今年はもう、これですね。「横山秀夫が不在の警察小説」界における救世主となりました。登場人物の深み、場面転換のうまさ、ストーリーの面白さ、すべてが完璧。

定年退職した元刑事は、過去の未解決事件に対するある思いから、妻と共にお遍路の旅に立つ。その途中、「あの事件」をほうふつとさせる事件が発生し、旅をつづけながら、非公式に電話で捜査に参加する。一人一人の登場人物の深い業のような重みが描写され、何度も何度も号泣。今年の「本の雑誌」年間ベストワンにも輝きました。

ちなみに「あの事件」は、傑作ノンフィクション「 殺人犯はそこにいる」で描写されたあの連続幼女殺人事件がモデルとなっており、併せて読むと効果倍増です。

おわりに

いかがでしたか? 参考になれば幸いです。都合がつけば次回はノンフィクション部門のベストも挙げてみたいところです。

本当いうと、買ったまま読めていない本がもう泣きたくなるくらいあって、「絶対傑作に違いない!」とか思うのがたくさんあるんですよ。じゃあ読めよ、って話なんですけど。

そもそも今年は僕の超超大好き作家、ジェイムズ・エルロイの新刊が久しぶりに出たのに、過去シリーズ四作を読み返してから挑もうと思っていたら新作にまでたどり着けなかったとか、ディーヴァーも恩田陸もルメートルも米澤穂信も積んだままとか、なまじKindle版を買うようになって積読が見えないのがやばいですよね。

本当、そろそろ死ぬまでにあと何冊読めるんだろうとか考えちゃう年の瀬です。

最後に書店員的な与太話ですが、レジではプレゼント包装の嵐で全員狂いかけています(笑)。皆さんもお願いだからプレゼントは早めに買ってくださいね。クリスマス当日に「急いで包装して!」なんて言われても困ってしまいます。切実なお願い。

それでは、みなさんも楽しいKindleライフをお楽しみください!

この記事を書いた人:ケス・ノング

某チェーン書店で文芸書・文庫を担当。自分は人に薦めるくせに、人に薦められると読みたくなくなる天邪鬼。昔は年間300冊は読んでいたが、年々集中力が衰え今は年間80冊くらい。

Amazonプライムのおかげで映画やドラマも見てしまうので全然時間が足りなくて一週間が四週間くらいあればいいのに、とかバカなことばかり考えているからよけい本が読めないという悪循環に陥りがちな中年真っ盛りです。


この企画について:匿名書店員さんによるキュレーションをやろう

キッカケはこちらの記事『電子書籍をリアル書店への拡販と書店員の副業に活用する新メディアプロジェクトの協力者を募集します』で、電子書籍からリアル書店への誘導。もしくは書店員さんの副業として活用できないかなと。
現在、4名の書店員さんからお申し出をいただき、しばらくきんどうで記事掲載後新たなメディアを立ち上げる予定です。
思うにね、本のプロである書店員さんの専門知識はネットでもっと読みたいし、それはお金になる分野なんですよ。むしろ、わたしは参考にしたいからもっと出てきてほしい。
まだ、書店員さん(匿名)だけですがイベント案内やうちの気合のはいった本棚を見てくれ!なんて形でリアル書店さんとも組んで一緒にやっていきたいと考えてます。電子書籍に読者が流れるだけでなく、リアル書店・書店員も盛り上がるようなメディアを作っていきたいので興味のある方はぜひ、お問合わせからご連絡ください。ちゃんと売上に応じてお金もお支払します。

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