【書評】作者の熱が伝わってくる酒好きと旅好きに薦めたいバックパッカー本/さくらコヨーテ(著)「旅して呑んで戯れて」

この記事はKindle作家”八幡謙介”さんからゲストポストいただきました
1304291ギター講師兼作家の八幡謙介です。
私がいつものようにきんどるどうでしょうを訪れると、魅力的なタイトルのインタヴュー記事が目に入ってきました。
旅は道連れ世はお酒「旅して呑んで戯れて」
酒と旅に目がない私は、吸い込まれるようにインタヴュー記事を読み始めました。


「旅して呑んで戯れて」魅力は、衒いのなさ、気負いのなさ

著者はさくらコヨーテさん(変わったペンネームだ)。5年勤めた会社を辞め、日本中を見て廻ろうとバックパックを背に旅に出たのだそうな。各地のゲストハウスを転々としながら、写真と日記をネットにupし続けていると、バックパッカー新聞編集長から直々にお声がかかり、著書の刊行へと話が進んだそうです。
さらにインタヴューを読み進めていくと、最後の「読者へのメッセージ」が私の琴線に触れました。

旅本を書いておいて言いますけれど、私、“旅は素晴らしい!みんなも旅しようよ!!”なんて信仰は好きじゃないのですよ。いやもちろん旅は素晴らしいし好きだからやっているし、みんなに知ってほしいから文章にもしたのですけれど、別に特別凄いことでも偉いことでもない。むしろ旅をせずに地元で働く方々が居るからこそ、私は会いに行けるのです。私が思うのは、同じ場所にずっと居たって違う土地を転々としていたって、自分は自分で根本は変わらないということ。でも、変わらないけれど、増やせる。だから自分の、位置じゃなくて感情を動かす。それが動いていれば、何でも繋がるし付いてくる。私の本を読んで、旅に出たいって思って頂けたらそれはとても嬉しいですけれど、その前に、自分の居る土地やそこに住むひとたちを惚れ直してほしいな、と思います。
なんて、真面目に言ってみましたが酔いどれの戯言です。本当は楽しければ何でもいいです。

「私の本を読んで、旅に出たいって思って頂けたらそれはとても嬉しいですけれど、その前に、自分の居る土地やそこに住むひとたちを惚れ直してほしいな、と思います。」
これはなかなか言えることではない、そう私は思いました。世にあるバックパッカー本は、いかに日常が退屈か、いかに旅が素晴らしいかを説いたものがほとんどです。当然、そうでないと、自分の本の価値がなくなるからです。しかし、この著者は「まず、自分の土地を見つめ直せ」と、プロモーションとしてはかなりダメなことを平気で言ってしまう。そこが面白い!
早速私は無料サンプルをDLし、読み進めてみた。あかん……これ、あかんやつや。無料サンプルを半分も読まないうちにコンビニへダッシュ! AMAZONギフトカードを購入し、帰宅後すぐに本をDLしました。
本書の魅力は、衒いのなさ、気負いのなさです。年頃の女性が会社を辞め、バックパックを背負って全国を転々とする。そこにドラマがないはずがない。しかし、著者はそういった部分にはさらりとしか触れていません。それも、あえて謎を残しておくといった計算によるものではなく、まるで著者自身が、自分の旅の動機に興味がないかのように……。

世にあるバックパッカー本の多くは、こぞって自己主張をします。まず、大げさな旅の動機付け――社会の歯車としての自分に疑問、このままでは何のために生まれてきたか分からない、世界には色んな文化や価値観がありそれを見ずして死ねない、できれば困っている人たちの手助けをしたい、そして、一回り大きく成長した自分を、日本のために云々。
道中の描写は、<バックパッカーもの>としての型を丁寧に踏襲します。自分がいかに安く済ませているか、いかに困難な旅をしているか、いかに危険な目に遭ったか、いかにハートフルな出会いがあったかを、都合よく撮られてある写真と共に紹介し、最後は、道中悟った人生哲学を説いたり、日本及び日本人批判を展開したり、途上国がいかに豊かな心で溢れているかを説きます。
とにかく、<バックパッカーもの>は、めんどくさい。その点、「旅して呑んで戯れて」には、押しつけがましい記述は微塵もありません。ひたすら旅して、呑んで、戯れるのみ(笑)危険や困難や、出会いや、悲しみ、哲学や批判などは、皆無とは言わないけど、あくまでさらっと匂わせるだけ。そんなことよりとりあえずお酒! が本書のテーマです。酒好き、旅好きが本書を手にすれば、いつのまにかページを重ね、作品世界にどっぷりと酔っていることでしょう。しかも、アクがないので、二日酔いなし!

写真が一切ない。それがリアリティを高めている

さて、ここから文章書きとして、一段深く考察してみます。
本作は、徹底した写実主義のもと、逆説的なリアリズムが見事に打ち出されています。
旅とは、多かれ少なかれ、劇的なものです。と同時に、日常よりも平凡で退屈なものでもあります。既に述べた通り、多くの旅行記は、その劇的なものを中心にピックアップし、<作品>への昇華を試みます。それが故に、どこか作り物臭さを発してしまう(仮に100%事実であったとしても!)。しかし、「旅して呑んで戯れて」は、その正反対です。
私はこの作品の日常描写に目を見張りました。必要最小限の情報が、テンポよくポイポイとこちらに投げられてくる。主観によるイメージの押しつけは一切ありません。イメージがすぐに浮かんでくるから、読書が進む進む。そして、旅行記にもかかわらず、写真が一枚たりとも掲載されていない! それが、逆に、本書のリアリティを最高に高めているのです。
私はこの英断について、著者及び編集者に最大限の賛辞を送りたいと思います。もし、本書に写真が掲載されていたらどうだっただろう? 恐らく、ブログの延長のような、中途半端な旅行記となっていたことでしょう。私も最後まで読まなかっただろうし、ましてやレヴユーなど絶対に書いていなかったと思います。

ギリギリの文章が作者の熱を伝えてくれる

ここまでは、作品の解説。最後に、私の主観を述べたいと思います。さくらコヨーテ氏の文体は、一見、非常に荒く感じられます。文末も統一されていないし、「てにおは」も時々省略されている。章や段落のつながりが薄く、ワープしたような箇所もいくつかあります。しかし、読み進めていくうちに、いつの間にか私は、このギリギリセーフだかアウトだかよく分からん文体の虜になっていました。何かに似ているなあと思ったら、そう、綿矢りささんの「インストール」でした。といっても、雰囲気が似ているのであって、文体とか語彙は全然違うと思いますが。
そして、このギリギリ感が、作者の体温を読者に伝える役目を果たしているのではないかと推察します。だから、どんなに平凡なシーンでも、ただの説明文にならない。
『反則やん!』
私は思わず呟いてしまいました。小説書きが、文章を<説明>から熱のこもった<描写>へと昇華させるために、どれだけ苦心していることか! それをさくらコヨーテ氏は、ほろ酔い気分で実にやすやすとこなしてしまう。これを反則と言わずして何と言うのでしょう。願わくば、変に文章が上手くなり、この極上のリアリズムを喪失しないでいただきたい。もし次作で変に作り込んだ描写が増えてしまっていたら、私は著者と、バックパッカー新聞編集部宛てに抗議のDMを送りつけることだろう。

さくらコヨーテ「旅して呑んで戯れて」

フーテン娘の酔いどれ紀行! さくらコヨーテ デビュー処女作 書き下ろし。お気に入りの赤いバックパックとミラーレスカメラが相棒。
バックパッカー宿と酒場での情報を元に、ゆるりゆるりと歩を進め、気がつけば今夜も酔いどれて地酒と共に朝焼けを見る。その土地の懐にするりと身をゆだね、旅して人情、呑んで人情、さらにお戯れでまた人情。
淡いトラベルラブも酒の肴にして、さくらコヨーテは、今宵、貴方の街へ。

価格:280円
評価:★★★★☆ 3件のレビュー
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この記事を書いた人

八幡謙介(やはたけんすけ) Twitter @kensukeyahata
京都生まれ、ギター講師兼作家。中学生の頃よりギターと本に親しむ。
2003年バークリー音楽大学卒業。アメリカ東海岸での音楽活動を経て、渡欧。ハンブルク、アムステルダムなどに滞在し、音楽修行の後、2004年帰国。滋賀県でギター教室を営む傍ら、演奏活動を行う。2009年より、これまでにない斬新な視点のギター教則本を次々と発表。2011年、横浜に移住し、八幡謙介ギター教室を開講。2012年より小説の執筆を開始。
ブログ「自作解題」 http://k-yahata.hatenablog.com/
「肯定的文学論」 http://yahata-book.hatenablog.com/

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評価:★★★*☆,2件のレビュー

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