名作を生み出すためのモチーフとセオリーの組み合わせ

この記事はKindle作家”米田淳一”さんからゲストポストいただきました
1303252こんにちは、米田淳一です。2日間連続でお話しました、わたしの創作論も今回がラストとなります。
最後テーマは「名作を生み出すためのモチーフとセオリーの組み合わせ」として、前回に続き「相棒」を参考にして創作の考え方と名作を生み出すためのセオリーについてまとめました。物語を書くときに行き詰まったり、どうしても上手くいかなかったりと悩んでいる方に役立つ内容です。
前回の記事はこちら:Kindle小説のススメ「最後まで書き上げるためのモチーフのチカラ」

相棒で考えるモチーフを使った創作

さて、引き続き相棒を参考に創作について考えましょう。まずモチーフを用意します。基本的に「まだ、わからないのですか!」と右京さんが思うような強い主張につながる、社会的な問題とかでしょう。
それから事件の全体の動機、事件の上で問題としたい事項、トリックといったものを揃えます。そして、先に右京さんが最後に犯人に突きつける「事件の真相」を作文します。そのあと、そこにすぐ行ってしまわないように、その話を切断してモジュールにします。
さらにそのモジュールを小さな部分だけにして「右京さんの着眼したおかしい点」に「圧縮」し、配置します。そのうえで、その点の間隔をあけるために、横槍や捜査の行き詰まりシーン、花の里のシーンとか「小野田官房長の皿戻し」とかを入れていきます。
そして仕上げに、モジュールの話をもとの証言や事件に「解凍」して、仕上げる。ちなみに書き出しなんかもモジュールの一つとして考えておきましょう。
特に原稿の書き出しをそのままストーリーの書き出しにすると、だいたいスロースターターになって魅力がガツンと入りません。チョロチョロとした始まりにしかなりません。
書き出しの第1案はダミーと思ったほうがいいです。でも書き出さないと原稿がスタートしないので、とりあえずでもいいから書き出しを書いておきましょう。でもモジュールを揃えていく中で自然と魅力的な書き出し候補が出てくることが往々にしてあります。
それが出てきたら順番を入れ替えてそこからはじめましょう。

モジュールを組み立ててストーリーを作る

モジュールの概念でストーリーを分割するのに慣れていれば、それを入れ替えることで、はじめ作文した「事件の真相」の存在が気づかれないような、予想を裏切る展開が作りやすくなります。
話を元に戻すと、この話を右京さんだけで話が作れるでしょうか? そうはいきませんよね。右京さんが一人で常にブツブツいってたらタダの変な人になってしまうし、第一右京さんが推理をしているように見えません。
ただ右京さんが「中年の主張」をしているだけで、これじゃドラマになりませんし、間も持ちません。最後に犯人の前で主張したいことがあったとしても、そこはぐっと堪えないと、まずそこまで見てもらえないでしょう。ふーん、そう言いたいのね、右京さんそう思うのね、だけで終わってしまいます。
そこで相方が右京さんの話す断片の話に驚き、ツッコみ、「またまたあ」とうけなければ、右京さんが推理していくとう言う感じになりませんし、話も進みません。逆に、相方の亀山薫・神戸尊・甲斐享が右京さんにリアクションすることで、話がどんどんバトンが渡されピンポンが続くようにテンポよくストーリーとして魅力的に進んでいく。
これがバディシステムです。
物語をがっちり安定させて作る一番の方法は、こういうシステムを作ってしまうか、あるいは「僕はこう思った」と一人称で作るかという「セオリー」を意識することです。書いていてどうしても話が進まない場合、セオリーを思い出して下さい。こういうシステムが機能しているかチェックして下さい。登場人物の間でいいバトンワークができているかを意識してください
そしてもっと前の段階、モチーフはあるのに一向に話が作れない場合は、セオリー通りにやれないかと考えてみて下さい。セオリー通りできるように、キャラクターを置いてできないかと考えてみるのです。
セオリーなんてものには縛られないすごいのを書くんだという方も、一度騙されて練習でやるんだと思って、セオリー通りの話をすこし書いてみて下さい。
それを書き上げて、なあんだ、と思えたらこの段階は卒業ですが、セオリー通りの話をセオリー通りに書くのは、案外難しいですよ。
プロは基本、セオリーを守っている場合が多いです。それは将棋などのゲームのセオリーと同じです。ゲームではセオリーを考えないとあっさり負けます。セオリーを覚えると、ある程度勝てるようになりますが、相手もセオリーを使ってきます。そこでセオリー対策をします。その対策が来たら、更に対策を考えるのです。

物語は自分との勝負

では、物語を作るというゲームの勝負の敵は誰でしょう? それは自分です。実は読者ではないのです。
自分が一番の難敵です。なにしろ自分の手の内をすべて知った上で、「うまくないなあ」と批判してくるので、本当にむちゃくちゃな強敵です。さらに書いてる途中でも批判しても来ます。しかもそれに負けると物語は一生書けません。
しかもそれに負けたら他人に「うまくないなあ」と批判するだけになり、その他人の成功に嫉妬するだけになって、本当に人生を棒に振ります。最悪です。
じゃあ、それに勝てるようになるには?
まず謙虚に、「すいません、まだ下手なんで、とりあえずセオリー通りやらせて下さい」と批判してくる自分にまず容赦してもらってから書くのです。ちなみに、私もこの「批判してくる自分」に対しての勝率は今でも半分もありません。なかなか今でも簡単には勝てません。
ですが、時間をおいて自分の書いた作品を読むと、自分で「うひゃー、よく考えたよなあ」と思ってしまうことはあります。それによってだんだん自分を批判する自分も完璧じゃないなと思えてきますし、案外自分は自分を「出し抜ける」んじゃないか? と思えてきます。
そうなったら強いです。他人の要らない批評にはへこたれなくなります。特に批評してくる他人はこっちの手の内なんか知りませんから、大概、的外れな批判しか指摘してきません。

モチーフがあれば批判なんて気にならない

他人はそこで「あなたの話自身が的はずれだ」なんて言ってきます。確かにそれしか彼らには言いようがありませんから。しかし、しっかりモチーフ選びをして、モチーフの所で悩んでおけば、的はずれなことはまずあまりありません。
しかもそこまで頑張って書いていれば、もう「作品世界」という現実とは別の世界ができています
「そういう世界もあり得るよね」「まあ、あとは好みの問題だね」で、そういう批判はおしまいです。
読者を気にしすぎるのも問題です。特につまらない批判者に腹をたてたり落ち込んだりするのは、人間だから、それはしかたのないことですが、自分自身がほんとうに面白いと思えるかが一番の基準と思った方がいいです。
つまらない批判者は自分の成長に本当に必要なことは何一つ教えてくれません。だからつまらないのです。だから批判者のままなのです。
ちなみに一人称、ぼくはこうした、ぼくはこう思った、だけで話を進める方法もセオリーにあります。これもやってみる価値のある方法で、つきつめれば日本文学で特筆される私小説が出来上がります。モチーフによってどちらが適したセオリーか選ぶのも大事です。

名作はモチーフとセオリーの組み合わせで生まれる

逆に大河小説や水滸伝式の大きな話なんかも、じつはこういうセオリーを部分で組み合わせて作られています。そういうものを描きたい人も、このセオリーを意識し、応用出来るものと思って考えましょう。
そしてセオリーを意識するからこそ、そこから外れそうな超展開を思いついた時の歓びはひとしおです。ぜひやってみて下さい。
「踊る大捜査線」もTVシリーズの話は青島(織田裕二)が行動しながら和久さん(いかりや長介)やすみれさん(深津絵里)が毎回話を断片的に進めるけれど、随所にバディ構造が組み合わされています。
「エヴァンゲリオン」もTVシリーズではミサトさんとシンジくんが中心のこともありますが、各話によってこのバディのペアリングが毎回変わります。ミサトさんとリツコさん、ミサトさんと加持さん、シンジくんと碇司令、シンジくんとカヲル君、といくつものバディのペアリングがあり、それが1話の中で、話の展開に応じて機能しています。そして一番大事なところでは二人っきりになって話し込みます。他にも類例の多い方法です。
「相棒」はそれに反して、ペアリングをがっちり固定していて、それがさまざまなエピソードと世界を安定して描けている妙味につながっています。
ペアリングを変えていく話も変えない話もそれぞれに風味があり、優劣はありません。モチーフに合わせて変形させてこそのセオリーですので、いろいろと応用して使ったほうが面白いです。
ちなみに「踊る大捜査線」ではモチーフの立て方で、「普通の刑事物でよくあるシーンをあえてやらない」というシバリによって「これまでに無かった刑事物を作ろう」としたものなんだそうです(キネ旬のシナリオ集で脚本の君塚さんがそう語っています)。そういう作り方もありますが、これは地味な他人のストーリーの分析を徹底的にやって引き出しを多く持っている君塚さんならではのものです。なかなかできることではないです。

物語の展開に行き詰まったら「とりあえず殴る」

おまけ話。井上夢人先生に昔伺った話。
先生が物語の展開に行き詰まったらどうしている?と大沢在昌先生に話したら、
大沢先生「とりあえず殴っちゃえばいんだよ!」
確かにキャラクターが誰かを殴れば、タダ事ではないので、その前後のつじつま合わせなどの処理で話が動かざるをえなくなります。
が、「新宿鮫」だったらそれができますけど、井上夢人先生の少年とかが主人公の作品じゃ使えませんよね。
井上先生も「いやー、参ったよ」とおっしゃっていたような。昔、MYSCONという会合で伺った話です。

それでもどうしてもうまくいかないとき

セオリーやテクニックを身につけても、ときどき全くうまく行かない時があります。「殴って」もダメ、というどん詰まりです。批判してくる自分すら沈黙してしまいます。
そういうとき、役に立つのがエンジニアの友人の一言でした。
苦しんで、もっとうまい方法がないかと思ってしまうほどのどん詰まりの時、エンジニアリングでは「銀の弾丸などない」というそうです。
『銀の弾などない— ソフトウェアエンジニアリングの本質と偶有的事項』というソフトウェア工学の広く知られた論文です。
Wikipedhia:http://ja.wikipedia.org/wiki/銀の弾などない
Wikipediaにも載っていますが、悩んでいた当時にはWebも未発達でこういうものもすぐには見られませんでした。要するに、どういうものにも魔法のような特効薬なんてない、ということらしいです。

王道はない、しかし道はある。

道はあります。それを忘れないで、歩んでいくしかないのです。地味に書いてくしかないのです。ここまで煮詰まっても、やっぱり物語を書くのは面白いのです。

書き終えたら

おめでとうございます! お疲れ様でした! でも、とりあえず「終」と思わずに「了・未定稿」としておきましょう。書き終えても物語は終りません。あとで重大な欠陥が見つかったり、逆にそれを乗り越えるもっといい展開を思いつくかもしれません。
自分の成長とともに、物語も常に成長していきます。まず、書き終わったときは存分に喜びましょう。その時になにか自分にご褒美するのもいいことです。でも、物語を書く楽しみは、その後もまだまだ続くのです。

おわりに

最後に。物語の成功を何をもって成功と考えるかは人によりますが、大事なことは、絶対に何があっても「運のせいで成功していない」と思わないことです。不運で成功できないんじゃないんです。どういうところにもかならずある幸運を「拾い損ねている」のです。拾い損ねるのは、その幸運のときにそれを拾う準備ができていないからです。
だから、ひたすらその準備をするしかないんです。不運を嘆き他人の幸運を羨むだけでいては、幸運は絶対に拾えません。ちなみに。こう書いている私自身について、大きな賞の受賞もないのに成功しているの?とかいうツッコミもあり得ると思います。
でもそう思った時点で、物語の成功というものを見失っていると思います。賞を取ること、物語でお金を稼ぐこと、物語が流行ることだけが成功でしょうか。そう考えると逆に苦しくなります。稼いでも流行らせても、上には上がいますし、稼げる状態も、それが終ることをいつも心配せねばならなくなります。
他人と自分を比較するのは地獄への道です。特に嫉妬だけが肥大していくので、最悪です。しかし、物語というものはもともと、描き上げて発表することで、そういう事以上の、楽しみも歓びについても、幅が広く深いものをくれる、ほんとうにいいものです。
そしてその発表を、書きさえすればローコストで出来る今を、私は幸せな時代がきたとは言わずにいられないのです。
「執筆」なんて構えないで、ホビーの一分野みたいに、本当に自分の好きな物語を、好きなように書いて発表できる時代が、ようやく来たのですから。

この記事を書いた人

米田淳一 Junichi YONETA Twitter @YONEDEN
1973年8月生まれ。秋田出身・神奈川県山際在住。日本推理作家協会会員。
SF中心に講談社・早川書房などから商業出版の著書13冊。現在パブーで著作60点。主な著書・「プリンセス・プラスティック」シリーズ(講談社ノベルズ・早川文庫JAで既刊)

米田さんのKindle本

エスコート・エンジェル (プリンセス・プラスティック)
米田淳一 (著)
価格:600円
評価:最初のレビューをお待ちしています

早川書房から2001年に発行したエスコートエンジェルの2訂版です。王女に与えられた密命、それはバチカンと皇室が互いに保有する、世界の運命を記した最新版の預言書だったのだ。王女の任務の重みに、シファは胸を痛めつつ、それでも戦う。

Amazon.co.jpで詳細を見る


きんどるどうでしょうでは、Kindle本をリリースされた方、もしくはいつか出版したい方からのゲストポストを募集しております。個人・商業問わずKindleについて一言言いたい!という方はゲストポスト募集要項を確認の上ご連絡ください。

[スポンサーリンク]

Follow Me!!

更新通知を受け取る

image/svg+xml ブラウザでプッシュ通知
  • 新着記事
  • セール関連記事
  • 人気記事

まだデータがありません。