プライムビデオで配信中のドラマ『弁護士ビリー・マクブライド(原題:Goliath)』のオススメレビューをライター・まりるさんから頂きましたのでご紹介。
かつて腕の立つ弁護士であったビリー・マクブライドは仕事に疲れ果て、今は法廷よりも酒場にいる時間の方が多くなっている。ある日、彼は嫌々ではあるが不法死亡の案件を引き受ける。訴訟の相手は彼自身が設立した有名法律事務所とその依頼人である巨大企業だ。ビリーは寄せ集めの仲間たちと共に、隠された大きな陰謀を明らかにしていく。ゴリアテのような巨大な敵を相手にビリーたちは生死を賭けた裁判に挑む。
本作の主演俳優のビリー・ボブ・ソーントンは2017年ゴールデングローブ賞テレビドラマ部門男優賞。シーズン3の制作も発表されたAmazonプライムビデオだけで配信のリーガルドラマ。次々と仕掛けられる裁判への妨害、資金不足の苦しみなどゴリアテのごとき巨大な敵と戦う冴えないおじさん弁護士の戦いをぜひ。
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『弁護士ビリー・マクブライド』ゆるゆるなおじさんの緊張感ある戦いに浸ってほしい!
舞台はリゾート地サンタ・モニカ。
カラフルな雰囲気をまとうモーテルから出てくる弁護士ビリー・マクブライドは、色褪せた服を適当に着て、グレーの髪は乱れたまま。別の部屋の新聞を勝手に読んでは仲良しの野良犬にエサをあげ、なでなでしている様子。
「これしかない、明日に期待しろ」
そう言って、踏んでしまった犬のフンをその新聞で拭く…
この出だしで「心地よい脱力感」を覚えたら、あなたはこの物語にスッと入っていけちゃいます。なぜなら彼の脱力感がさまざまな人を巻き込み、惹きつけ、壊し、立て直すきっかけになっていくから。
ハード・ボイルドとは似ても似つかないこの人が、ちゃんと弁護士やれてるの? と不思議に思ったところで、その脱力ゆえに依頼人に怒鳴られ仕事が吹っ飛んでいきます…。Amazonスタジオ制作のオリジナルドラマシリーズ『弁護士ビリー・マクブライド』は、弱小弁護士と巨大企業との戦いを描く法律系ドラマです。
なるほどこういうゆるめの人物と大企業の対決か、とわかるとどんな戦略で打ち負かしていくのか興味が湧いてきませんか? だって現時点で勝てるイメージが全然浮かばない!
ということで、本作をネタバレなしでご紹介していきましょう!
丁寧な描写が好きな人にオススメ
この作品はどんな人にオススメかというと、丁寧で細かい描写が好きな人です。見どころも「一人ひとりの人物描写が細かいところ」にあります。
Amazonの作品紹介を読んでみると、一見、先の展開が読めてしまうくらい単純な構図に見えますよね。
かつて腕の立つ弁護士であったビリー・マクブライドは仕事に疲れ果て、今は法廷よりも酒場にいる時間の方が多くなっている。ある日、彼は嫌々ではあるが不法死亡の案件を引き受ける。訴訟の相手は彼自身が設立した有名法律事務所とその依頼人である巨大企業だ。ビリーは寄せ集めの仲間たちと共に、隠された大きな陰謀を明らかにしていく。ゴリアテのような巨大な敵を相手にビリーたちは生死を賭けた裁判に挑む。
つまり、弱小弁護士 vs 有名法律事務所と巨大企業ですね。しかし、ストーリーが進むにつれてどんどん複雑になっていきます。
・有名法律事務所と巨大企業の思惑の違い
・古巣の事務所との因縁
・別れた夫婦と中立的立場の娘
・新人弁護士の野心と、利用するトップ
などなど…一人ひとりの描写にものすごく時間をかけているので、アクション!謎解き!軽快なテンポ!ではちょっと満足できない人、作品の世界観をじっくり味わいたい人にオススメなのです。
ところで作品紹介にもある「ゴリアテ」は、小さき者が強大な存在を打ち負かすたとえとしてよく使われますよね。このドラマの原題も『GOLIATH』(ゴリアテ)で、旧約聖書に出てくる巨人兵士「ゴリアテ」と羊飼いの少年「ダビデ」の戦いにちなんで付けられています。
ダビデは投石器で石を放ちゴリアテの額に当てて昏倒させる、という流れですが、このドラマではゴリアテの額に石をぶつけるどころか、ダビデが投石器を構えるまでが異様に長い!つまり、法廷で戦うまでの助走期間がとにかく濃い!
手助けしてくれる人たちを集めていざ訴訟へ、と思ったところで訴えが次々に棄却されます。有名法律事務所と巨大企業の妨害工作は、おちゃめなものから生死を賭けたものまで実にさまざま。案外ヘビーなサスペンス要素も含んでいます。
心地よい脱力感が一気に緊張感で包まれる。あ、これありきたりな展開じゃないな…!? と姿勢を正すことになるかも。
それでも裁判の時間を確保するため、ビリーは即興の策で手続きを進めようとします。特に観てほしいのは第2話の後半! 裁判官にケンカを売るようなビリーの行動に、法廷にいる人たちも視聴者も「え? なんで?」とハラハラしっぱなし…!
降りかかる困難をどう切り抜けていくのか。過去にビリーが腕の立つ弁護士であり、「陪審員に好かれた弁護士」だったことは、切り抜け方を見ていくうちにビシバシ感じられるでしょう。
金がない = 時間がない = 心の余裕がない!
ビリーと有名法律事務所の違いを挙げてみればきりがないほどですが、もっとも違うのは「資金」です。資金がないから人を雇えない、手伝ってくれる人がいても報酬が少ないから不満がたまる。不満を解消しないまま事件を調査するため関係性にヒビが入る。調査がスムーズに進まず不都合が生じる…。
要するに「心の余裕がない!」 これはかなり切実な描写です。
そもそも、ビリー側の登場人物は日々をギリギリで生きている人たちが多いです。一度絶望を味わい、復活の機会を窺っている人たち。その必死さや不器用さが実に細かく描写されています。
しかもその必死さは、彼らの「仕事」や「生業」によって表現されているのが特徴です。
・不動産売買に奮闘する刑事専門の弁護士パティ
・覚せい剤をやめられず売春を繰り返すブリタニー
・精神的な問題で解雇されたエンジニア
・弱みを握られている漁師の兄弟
ドラマは「法律モノ」として括られますが、「仕事とは何か」「生きていくとはどういうことか」という大きなテーマも物語全体に通底しています。
彼らがどん底でどう生き、どうはい上がるのか。「カムバックの物語」として観るのも楽しみ方のひとつです。
エリート弁護士たちも葛藤でいっぱいいっぱい
ビリーと対立する有名法律事務所は「クーパーマン・マクブライド」。主人公のビリーはこの事務所の創業者のひとりです。
女性が2人、TEDのプレゼンテーションのように舞台に登壇し、業績を発表しています。1000人の弁護士、年間21億ドルの収益。一気にビジネス臭がしてきましたね。最先端の雰囲気が画面を包み、海辺のモーテルとのギャップを生みだしています。
この対立構造で肩入れしてしまうのは、明らかにゆるゆるのおじさん弁護士でしょう! しかし、資金が潤沢にある事務所も順風満帆ではありません。
もうひとりの創業者であるクーパーマンは、社内の愛されキャラだったビリーを執拗に憎んでいます。その憎しみを行動原理として事業の方向性まで決めてしまうし、パチパチ音の鳴る道具で人を好き勝手に操作する。そんなクーパーマンを幹部たちは一応支えていますが、横暴さにはうんざりしています。
中でも主要な人物は、業績を発表していた女性2人と、あかぬけない新人弁護士。
1人はビリーの元妻、ミシェル。彼女は比較的冷静で、ビリーへの情も残っています。
もう1人はミシェルの親友キャリー。彼女は切れ者でミシェルと独立を考えていますが、今回の案件ではビリーと直接戦う中心人物です。
そして ”ネズミ” と呼ばれる新人弁護士のルーシー。彼女は吃音の障害を抱えていますが非常に野心が強く、クーパーマンからの指名で主任弁護士に抜擢されたのをきっかけに、彼との関係を深めていきます。
話が進むにつれて、この女性たちの友情や性の扱われ方、世代の葛藤、心の傷なども絡んでくるのです。
最先端の企業でありながらも、野心を抱えた人間が出世のために裏工作をする。上に立つ者もそれを利用する。性も含めたやり方は「どの時代でも変わらないものだなぁ」と気が滅入ってくることも。しかしその利害関係も、事件によって崩されたり解決したりと動きが多いです。とにかく「丁寧だけど停滞がない」のがこのドラマのいいところです。
法律モノは謎を整理しながら観よう
ドラマ全体で丁寧な描写が見どころですが、本筋の事件がちょっと忘れられがち。
簡単にまとめると、軍事企業ボーンズ・テック社の社員ライアンが、会社所有の船で死亡。自殺と伝えられたことを不審に思った姉がビリーに弁護を依頼し、弟の死の真相を明らかにするのがメインの軸です。
本来ならそこで事件の対立構造は完結するはずなのに、関係する弁護士が憎み合っていることで謎がどんどん加わっていきます。
・社員ライアンはなぜ死ななければならなかったのか
・軍事企業が隠したかったことは何か
・ビリーがおちぶれてしまったのはなぜか
・ビリーとクーパーマンの対立の原因は何か
これらの謎は回を経るごとに少しずつ解明されていきます。本当に 少 し ず つ です。
さいごに
おもしろいドラマは、視聴者の予想を裏切る展開を用意しています。『弁護士ビリー・マクブライド』もそのひとつです。
さらに好印象なのは、セリフやナレーションによる「説明過多」ではなく、「俳優の表情や仕草、掛け合い」で状況が表現されているところ。だから観ていて飽きません。
主演のビリー・ボブ・ソーントンは、この作品で2017年のゴールデングローブ賞テレビドラマ部門男優賞を受賞しているので、納得の完成度です。
そして主演はもちろんのこと、助演の方々も見応えたっぷり。
個人的には、ゴリアテ側の幹部弁護士・キャリー役のモリー・パーカーに目を引かれました。彼女はカナダのジェニー賞最優秀女優賞の実績があります。賞に裏打ちされた演技は、姿勢やセリフの言い回し、口角の上げ方に至るまで、まさにゴリアテにふさわしい鉄壁の雰囲気を醸し出しています。
俳優を細かく観察してみるのもドラマの楽しみのひとつなので、ぜひ一人ひとりに注目してみてくださいね!
なお、本作は法律用語が出てくるので、正確に意味を把握するなら字幕版の方がわかりやすいですが、スピード感のある会話劇を味わいたいなら吹替版に軍配が上がります。Amazonプライム会員でしたら両方を視聴できるので、表現の違いを楽しんでみるのもオススメです。
酒と煙草で日々を漫然と過ごしているように見えるビリーの、一風変わったリーガルドラマをぜひご覧ください!
この記事を書いた人
トクサツガガガを読んで共感して泣きそうになる特撮オタクです
— まりる (@maril___) January 19, 2019
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— きんどう (@zoknd) January 13, 2019